インタビュー

性同一性障害の原因

性同一性障害の原因
康 純 先生

大阪医科大学 神経精神医学 准教授

康 純 先生

この記事の最終更新は2015年10月20日です。

性同一性障害にはどんな原因が考えられるのでしょうか。人間の性別が決定する過程においては、最初に体の性別が決まり、あとから脳の性別が決まります。海外の研究などからも、この性別が決まる段階で体と脳の両方の遺伝子に何らかの疾患が発生してしまうことが原因ではないかと考えられています。しかし研究データが極めて少なく、明確な原因は分かっていません。

大阪医科大学の康純先生に、性分化のしくみについてお話をうかがいました。

性分化(身体的な性別の特徴を決めるための働き)は、男性ホルモンのアンドロゲンシャワーを浴びることによって決まります。性分化は非常に複雑な過程があるのですが、最も単純化して説明すると、性別決定遺伝子のSRY遺伝子はY染色体の上にのっているのですが、発生学的には受精卵ができた段階では性的に両方の特徴があります。そのためミューラー管(女性器の一部のもとになる部分)も持っているしウォルフ管(男性器の一部のもとになる部分)も持っています。

それが、受精後8週ぐらいからSRY遺伝子が動き出し、男性ホルモンのテストステロンの大量分泌を始めると、ウォルフ管が分化していき、ミューラー管が退化し、男性性器が形成されます。10週ぐらいまで待つと、XX遺伝子の場合SRY遺伝子を持っていませんから、男性ホルモンの分泌が起こらず、ミューラー管が発達して女性性器が形成されます。

その後、20週以降で再度アンドロゲンシャワーを浴びることが分かっていますが、これが脳の性分化を決めるといわれています。

脳がどちらの性分化を起こすかの研究は、マウスを使った実験ではいくつか行われていますがヒトで試験を行うことは難しいので、基本的にはこれと同じことが起きているという仮説が立てられています。

脳の中にさまざま存在する核の中に男性と女性でまったく大きさの違う性的二型核というものがあります。ネイチャーに掲載されたシュワーブの研究では、性的二型核のうちのひとつである分界条床核を検証しています。この研究では、男性の核は女性の核の大きさの約1.5~1.8倍大きいことが分かっています。ヨーロッパのゲイの方の脳を調べた結果、その分界条床核は男性と同じ大きさでしたが、性転換症とされた男性の分界条床核の大きさは女性と同じであったという結果が出ています。

上記の研究には死後のデータしか存在せず、しかも非常に少ないので、本当は明確な根拠として断定できる段階にないのが実際のところです。対象が生存した状態で調べる方法はあるといわれていますが、まだ現実的な結果はありません。

ただし臨床を行っている実感としては、親御さんから「小さい頃からそうでした」と聞くと、これに該当する方が存在することは確かだという印象があります。そのため私は上記のように、脳の中に差異がある方は確実にいると考えています。

ハワイ大学に、ミルトン・ダイヤモンドという性科学において非常に有名な教授がいます。彼の仮説は「性同一性障害は性分化疾患の一亜型である」というものです。現在までに様々な生物学的研究がなされていますが、まだはっきりした結果は出ていません。そういった研究をふまえて、現在埼玉医大のゲノムセンターとの共同研究が行われています。

現段階でいえることは、生まれつき体の性と心の性が異なっているという感情を持っている人たちのなかには、生物学的な問題という背景がある方は存在するだろうということです。

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