インタビュー

脳卒中の救急システム―政令指定都市 神戸の例

脳卒中の救急システム―政令指定都市 神戸の例
坂井 信幸 先生

地方独立行政法人神戸市民病院機構 神戸市立医療センター中央市民病院 脳神経外科部長 脳卒中セン...

坂井 信幸 先生

この記事の最終更新は2016年02月15日です。

脳卒中の治療は時間との闘いです。もし脳卒中を発症した場合、1秒でも早く治療ができる病院へ運ぶ必要があります。そのためには、脳卒中の知識の啓発と都市の救急システムづくりが必要不可欠です。神戸市を例に、理想的な都市の救急システムについて神戸市立医療センター中央市民病院の坂井信幸先生にお話をうかがいました。

脳卒中を発症した場合、患者さんが自分で病院に来るということはほぼないといえます。意識障害や運動麻痺、言語障害が出現し救急で運ばれるためです。救急隊は、救急車を呼んだ患者さんにどんな治療が必要なのか見分けることがだいたいできます。さらに、もしそこで脳卒中だとわかった場合、その地区の脳卒中の病院の状況も知っているため適切な対応をすることができます。

医療に関していえば、私個人としては、患者さんが遠いところへ通うのはあまりよいこととは思いません。たとえば1年間に10人~10数人程度がかかるという病気で、日本にひとつセンターがあれば十分という場合ならば話は別ですが、普遍的な病気に関しては、患者さんの負担を考えると、やはり患者さんがお住まいの地域で治療できることが望ましいと思います。

神戸の場合、1000床規模の病院が神戸大学病院と神戸市立医療センター中央市民病院の2つ、そのほかが300床規模の病院という構成です。政令指定都市※にメガセンターが2つ、それに続くように中規模、小規模の病院が存在しているため、それぞれの病院の役割を決めやすいという特徴があると思います。また、海側、山側と区分けがしやすい横長になった独特な土地形成には、たとえば東灘から垂水までなど、救急搬送に必要な時間が読みやすいという特徴もあります。地域の特殊性も病院と救急の連携がうまくいっている理由でしょう。

※政令指定都市になると、一般の市では都道府県が行っている事業(児童福祉・食品衛生・など市民の健康や福祉に関する事業)を、指定都市の事業として行うことができる。そのため、事業を速やかに始めることができ、その都市に合った運営が可能になる。

1000床規模の神戸市立医療センター中央市民病院で20数名の脳のチームを組み、当直の担当を毎日必ず2名置いています。ですから、「神戸中央市民病院ならばほぼ間違いなく受け入れ可能だ」ということを救急隊は知っています。そして100から300床規模の病院では輪番制を敷き、今日は○○病院、次の日は△△病院というふうに担当が決まっているので、緊急度の高い患者さんの受け入れ先がないということが理論的には起こりません。

我々の調査では、救急隊が患者さんを運ぶ病院を2つ探しても1つ目で決まった場合と時間の差はないが、3つ探すと明らかに時間が掛かっているというデータが出ています。「まずはここ、無理なら中央市民」と1段階か2段階で必ず受け入れ可能なシステムなので、いわゆる「たらい回し」という言葉は神戸にはありません。つまり、患者さんはもし脳卒中になったら、家族や家庭医に相談するより、「とにかく1秒でも早く救急を呼べばよい」という環境ができています。患者さんや家族が救急を呼んだあとは救急隊がプロとして状態を見分け、ふさわしい病院へ運んでくれます。理想的な救急システムを運営するためには、このようなシンプルなシステムを都市ごとにどうつくるかが鍵でしょう。

神戸市が90年間も市民病院を運営し、市民に信頼され続けてきたのは、市民病院に携わった多くの方々や市の職員が神戸のために力を尽くされ、そして市内の医療機関の方々が協力してこられたからです。神戸市はかつて「神戸株式会社」とよばれるほど資金が潤沢な街でした。阪神淡路大震災の影響もあり今はその限りではありませんが、こうした過去の社会的な背景も影響し、神戸は医療システムがうまく整った都市といえるような気がします。

今、救急システムの運営がうまくいっているのも、これまで病院運営に尽力してこられた先輩方、市民のみなさんのおかげだと思っています。神戸市は、大震災からの復興の起爆剤として医療産業都市構想を推進し、徐々に成果を挙げつつあります。救急医療の充実の上に、新しい医療の息吹が神戸から始まろうとしています。

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  • 地方独立行政法人神戸市民病院機構 神戸市立医療センター中央市民病院 脳神経外科部長 脳卒中センター長/先端医療センター 脳血管内治療科部長、脳神経領域研究グループディレクター

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