インタビュー

IVRとは何か-がん領域におけるIVR(画像下治療)の有用性

IVRとは何か-がん領域におけるIVR(画像下治療)の有用性
荒井 保明 先生

国立研究開発法人 国立がん研究センター 理事長特任補佐(前中央病院長)/ 中央病院放射線診断科...

荒井 保明 先生

この記事の最終更新は2016年04月15日です。

IVR(画像下治療)という言葉をご存知でしょうか。IVR(画像下治療)は、レントゲンなどの画像診断装置で体のなかを透かして見ながら、小さな穴から体内に挿入した器具を用いて行う治療のことをいいます。1980年代にアメリカで始まり、外科治療(手術)、放射線治療、化学療法に続く4本目の柱として、欧米で広く活用されています。本記事では、国立がん研究センター理事長特任補佐(前中央病院病院長)ならびにIVRセンター長の荒井保明先生に、IVRとは何か、がん領域におけるIVR治療の有用性についてお話しいただきました。

日本語では「画像下治療」と訳します。レントゲン(X線)やCT、超音波などの画像診断の装置で体のなかを透かして見ながら、医療器具(針やカテーテルなど)を体内に入れて治療を行います。体を大きく切ることなく体内の臓器や血管の治療が行えるため、患者さんの体の負担が少ないという特徴があります。

医療器具を入れるための穴も数ミリ程度と小さいのですが、体内に挿入した医療器具で外科手術に近い高度な治療を行うことができます。また多くの場合短期間の入院で治療でき、陽子線や重粒子線治療などのように非常に高価ということもありません。このようにIVR治療は、「低侵襲・短期間(迅速)・比較的廉価」が特徴であり、さまざまな領域での応用が可能です。

たとえ大手術になろうとがんが完治するのであればよしとする考える方はあるでしょう。しかし、実際には完治が難しいがんも多くあります。完治が難しいがんに対して、患者さんの負担が大きく、時間、そして費用がかかる治療を行うことが本当によいことなのだろうとかと疑問に感じたことがありました。そこで「低侵襲、短期間(迅速)、比較的廉価」という特徴をもつIVRをがん治療に応用しようと考え、30年以上にわたりがん領域でのIVR治療に取り組んできました。

2016年現在、がん領域での主なIVR治療は次のとおりです。

・各種がんに対する経動脈的カテーテル治療

・経皮的ラジオ波凝固療法(肝腫瘍以外は保険外)

・経皮的凍結療法(腎がん以外は保険外)

・難治性腹水に対する腹腔-静脈シャント造設術(デンバーシャント)

・有痛性骨腫瘍に対する経皮的骨形成術(骨セメント)(椎体以外の病変にも対応可能)

・難治性消化管通過障害に対するPTEG(経皮的経食道胃管挿入術)(イレウスチューブの留置も可能)

・有痛性腫瘍に対する経皮的ラジオ波凝固療法もしくは血管塞栓術

・上/下大静脈症候群に対する大静脈ステント留置術

・胆道系ドレナージ・ステント留置術(腹水貯留例や分離型胆管閉塞例など、治療困難例にも対応)

・腎尿路系ドレナージ・ステント留置術

・消化管ステント留置術 (内視鏡的留置困難例や輸入脚症候群等の治療困難例を含む)

・経皮的針生検 (深部病変や播種病変等の、生検困難例を含む)

・内臓神経ブロック、腹腔神経叢ブロック

・中心静脈ポート留置術

・バッド・キアリー症候群に対する血管内治療

門脈圧亢進症に対する血管内治療

2004年に国立がん研究センター中央病院に放射線診断部長として赴任しましたが、当時の国立がん研究センター中央病院におけるIVR治療件数は年間400件程度でした。12年経った現在、IVR治療件数は年間5000件にもおよび、がん治療において頻繁に活用される治療のひとつとなっています。国立がん研究センター中央病院でIVR治療件数が5000件を超えるに至った理由は、私が来たからではありません。病院内のさまざまな診療に携わる医師や看護師がIVRの有用性を知り、IVRを利用するようになったことが理由です。

それぞれの患者さんの治療には主治医をはじめ、さまざまな医師や看護師が関わっています。私はその医師たちに、IVRを使えばこのような治療ができるということを説明し、実際に行ってみせました。その結果、繰り返しになりますがそれぞれの医師や看護師がIVRの有用性に気づき、次の患者さんにも、その次の患者さんにも使おうとしたのです。この結果として、IVR治療を行う患者さんが徐々に増えていきました。当病院は教育病院という役割も担っていますので、比較的若い医師がIVR治療を知り、それぞれがさらに広まる原動力となってくれました。

 

つまり私がIVR治療を広めたのではなく、もともとIVR治療に対するニーズがあったのだと考えています。IVR治療を行えばよくなる患者さんがいたにもかかわらず、IVR治療の存在を知る医師や看護師が少なかったことが問題だったのだと思います。また残念ながら、がん患者さんは多くはしばらくすると亡くなってしまうため、IVRを活用するチャンスを逃してしまいやすく、IVRが活用できたにもかかわらずその能力を発揮する機会がなかったとも言えます。医師が知らなければ看護師も知りませんし、当然患者さんやそのご家族も知ることはありません。このため、現在日本IVR学会の理事長として、IVRを多くの方に知ってもらう活動を行っています。その取り組みのひとつとして、国立がん研究センター中央病院にIVRセンターを設置しました。