ゆうきりんざいちゅうどく

有機リン剤中毒

最終更新日:
2020年08月31日
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2020/08/31
更新しました
2017/04/25
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概要

有機リン剤とは、神経毒性を持つ有機リン化合物を用いた農薬のことを指し、主に殺虫剤として使用されています。

有機リン剤の研究・合成は1930年代にドイツで進められ、日本では1950年代に普及しました。現在、農薬として使用されている殺虫剤の多くは有機リン剤であり、剤形は水和剤や乳剤、粉剤など、多岐にわたります。ターゲットとなる適用害虫が広いという特徴があり、主に接触剤や浸透性殺虫剤として用いられています。また、くん蒸剤として使用される有機リン剤もあります。

有機リン剤中毒とは、この有機リン剤を飲み込んでしまったときや、皮膚に付着してしまったときに起こる中毒症状です。頭痛や瞳孔の縮小、呼吸器症状などが現れ、重症の場合、死亡することもあります。

一般的には、有機リン剤の調剤中や、散布などの作業中に起こることが多いといわれています。
 

原因

有機リン剤中毒は、以下のような理由で有機リン剤を飲み込むこと(経口接種)、皮膚を通して吸収されること(経皮吸収)、あるいは吸い込んでしまうこと(吸入)によって起こります。

有機リン剤の調整中や散布中

マスクやメガネ、保護服など、散布中の装備が不十分であったり、風が強いときに散布を行ったりすることで、有機リン剤が皮膚に付着したり、吸い込んでしまうことがあります。

誤飲や誤用

有機リン剤であることを知らずに飲んでしまった、皮膚にかかってしまったという事故が報告されています。誤飲は、飲料物とわけて保管されていなかった場合など、有機リン剤の管理に不備があるときなどに起こることがあります。

意図的に飲む

自殺企図などにより、自ら故意に有機リン剤を服用する例があります。有機リン剤に含まれる有機リン化合物には、人の体内にあるコリンエステラーゼという酵素のはたらきを阻害する作用があります。コリンエステラーゼとは、アセチルコリンという神経伝達物質を分解する酵素のことです。

このはたらきが阻害されてしまうことにより、神経繊維の末端(神経終末)にアセチルコリンが蓄積されていきます。これにより、めまいや歩行困難など、さまざまな神経症状が現れます。
 

症状

有機リン剤中毒の症状は、重症度により以下のように異なります。ただし、症状が遅れて現れることや、改善してから数日~数週間を経て再燃(おさまっていた症状が再び悪化する)することもあります。

軽症

  • 倦怠感
  • 違和感
  • 頭痛
  • めまい
  • 胸部の圧迫感
  • 不安感
  • 軽度の運動失調:自分の意識や意図と連動した随意運動がスムーズにできなくなる症状です。
  • 嘔気(おうき):胃のなかにあるものを吐き出したいという、切迫した吐き気のことを嘔気といいます。
  • 唾液が過剰に分泌される
  • 発汗
  • 下痢
  • 腹痛
  • 軽度の縮瞳(しゅくどう):瞳孔が小さくなる症状です。 など

中等症

上述した軽症の症状に加えて、以下のような症状が認められます。

  • 著しい縮瞳
  • 筋繊維性れん縮:筋肉が小さくピクピクと動く症状です。
  • 歩行困難
  • 言語障害
  • 視力減衰:視力の低下や目のかすみ、視野が狭くなるといった症状です。
  • 徐脈(じょみゃく)不整脈の一種で、安静時の心拍数が1分間に60回(bpm)未満のときを指します。 など

重症

  • 縮瞳
  • 意識混濁
  • 対光反射消失:対光反射(たいこうはんしゃ)とは、光によって瞳孔が大きくなったり小さくなったりすることを指します。重症の有機リン剤中毒の場合、光刺激を受けても、このような瞳孔の収縮が行われなくなります。
  • 全身のけいれん
  • 肺水腫(はいすいしゅ):毛細血管から滲み出した液体が、肺を構成する肺胞(はいほう)に溜まってしまい、息苦しさなどの呼吸器症状が現れます。重症例の場合、呼吸不全に陥ることもあります。
  • 血圧の上昇
  • 失禁 など
     

検査・診断

血液を1~2ccほど採取し、コリンエステラーゼ活性値を測定します。有機リン剤の分解物は、コリンエステラーゼというアセチルコリン(神経伝達物質)の分解酵素と結合して、そのはたらき(活性)を阻害します。

そのため、有機リン剤中毒を起こしている場合、血清や赤血球のコリンエステラーゼ活性値が、著しく低くなります。血液中のコリンエステラーゼ活性値が正常化するまでには、数週から数か月かかるとされています。

有機リン剤中毒の症状は、遅れて現れることや再燃することがあります。医療者や周囲の方、ご本人は、発症後初期の症状が軽い場合でも、安心することなくすぐに対応することが大切です。
 

治療

有機リン剤を飲んだ場合や、皮膚に付着した場合は、その量にかかわらず病院を受診しましょう。診察時には、有機リン剤の剤形(乳剤、粒剤)などを医師に伝えることも、適切な治療を選択するための補助になります。
病院では、以下のような処置と拮抗薬の投与、解毒剤の投与が行われます。

催吐(さいと)

有機リン剤を服用してしまった場合には、胃の内容物を吐かせる処置が行われます。ただし、意識障害やけいれんを起こしているときなど、吐かせてはいけない場合もあります。

胃洗浄

必要に応じて、生理食塩水などを使用した胃洗浄が行われます。胃洗浄の後、毒物と結合する吸着剤や排泄を促す塩化下剤が投与されます。

腸洗浄

毒性が強い有機リン剤を飲んだ場合は、チューブを用いた小腸の洗浄が行われることがあります。

拮抗薬の投与

有機リン剤中毒を起こすと、アセチルコリンの作用(ムスカリン様作用)により、縮瞳や心拍数の低下などの症状が現れることがあります。このムスカリン様作用に対する拮抗薬(抗コリン作用を持つ薬剤)を静脈内に注射し、脈拍や瞳孔の状態の改善を目指します。
症状をみながら徐々に投与量を減らして中止しますが、治療中止後に再び症状が現れることもあるため、一定時間以上、経過観察となります。

解毒剤の投与

有機リン剤中毒解毒剤を静脈内に注射します。解毒剤の投与は服毒後36~48時間以内、特に24時間以内が望ましいとされています。

有機リン剤は、医療用の手袋を浸透して手指の皮膚から吸収されることがあります。また、胃洗浄により排出された有機リン剤を含む液体が揮発し、周囲の医療者に二次被害と考えられる症状がみられた事例もあります。

そのため、治療の際には、対応する医療者や病院内の患者さんに二次被害が及ばないよう、予防を徹底することが重要とされています。
 

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