医師インタビューコンテンツ➁

体軸性脊椎関節炎(強直性脊椎炎/X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎)の診断・治療――自分に合った治療を受けるためには?

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インタビュー実施日:2020年8月19日
インタビュー実施場所:ノバルティス ファーマ株式会社 本社

体軸性脊椎関節炎(axial spondyloarthritis:以下、axSpA)は、仙腸関節のX線基準を満たす強直性脊椎炎(ankylosing spondylitis:AS)と、同基準を満たさない体軸性脊椎関節炎(non radiographic axial spondyloarthritis:nr-axSpA)に大別されます。近年ではaxSpAに対する新しい治療薬の開発も進み、それぞれの診断指針も確立されつつあります。axSpAの診断と治療について、「長く付き合う病気だからこそ患者さん自身が知識を身につけることが大事」とおっしゃる順天堂大学医学部 整形外科学講座 非常勤講師の井上 久(いのうえ ひさし)先生にご解説いただきました。

axSpAの診断における注意点

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axSpAは、X線検査で特定の基準を満たす強直性脊椎炎(以下、AS)と、X線検査による基準を満たさない体軸性脊椎関節炎(以下、nr-axSpA)に分かれます。

ASの診断基準として有名なものに、“強直性脊椎炎の改訂ニューヨーク診断基準(以下、NY基準)”があります。この基準では、X線検査で骨盤の仙腸関節に炎症がみられること(仙腸関節炎)、特定の臨床症状を満たすことなどの条件が挙げられています。しかし、X線検査で仙腸関節炎が確認できるようになるまでには発症からかなりの時間がかかります。つまり、NY基準を満たすようになるまで待っていると、診断が遅れてしまうのです。

そのような背景から、より早期にaxSpAの診断を行うことを目的に、ASAS(Assessment of SpondyloArthritis international Society)という機関によってaxSpAの分類基準が提唱されました。しかし、axSpAでは除外診断(類似したほかの病気でないことを確認すること)が重要であるにもかかわらず、この分類基準にしたがって診断を行うと、過剰診断(病気とは言えない人までその病気と診断すること)が増えてしまう恐れがあります。過剰診断が増えれば、AS治療が適応にならない方に対してASの薬(主に生物学的製剤)を投与することになり、結果的に“過剰治療”につながってしまう恐れがあります。

一方で、axSpAのうち新しく分類されたX線検査では仙腸関節炎像が確認できないタイプの“nr-axSpA”は診断が難しいことが課題とされてきましたが、2020年に医師向けに発刊された『脊椎関節炎診療の手引き2020』には、nr-axSpA診断のための指針案が明記されています。

除外診断で必要なこと、分類すべき病気

除外診断を行う最大の目的は、axSpAではない患者さんへの不要な治療を防ぐことにあります。

ASの場合は、厚生労働省が定める指定難病の臨床調査個人票があり、この中に、鑑別すべきASの類似疾患として、乾癬性関節炎(かんせんせいかんせつえん)や関節リウマチ、線維筋痛症など、計11疾患などが挙げられています。

体軸性脊椎関節炎の画像診断(X線検査、MRI検査)

体軸性脊椎関節炎の診断で重要になる検査は、X線検査とMRI検査です。特にX線検査はASの診断に、MRIはnr-axSpAの診断に大切なものです。

X線検査――ASの診断に不可欠だが誤診には注意が必要

進行したAS患者さんの腰部をX線で撮影すると仙腸関節という部分が白く映し出され、炎症反応を起こしている(仙腸関節炎)ことが分かります。ASの診断には、この仙腸関節炎像を確認することが必要です。

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画像提供:PIXTA

ただし体の構造上、仙腸関節周辺を正面からX線で撮影すると骨同士が重なって白く映し出されることがあるため、斜めから撮影することがポイントです。正面から検査を行うと、正常にもかかわらず仙腸関節炎が起こっていると判断され、誤診につながる恐れがあります。しかし、この仙腸関節炎像の読影は(特にgrade判定)、専門医の間でも見解が分かれるところであり、特に初期の仙腸関節炎の診断におけるX線検査の価値は低下しつつあります。同じく放射線を利用するCT検査により、X線では見えない初期の骨のびらん像や初期の強直像などが分かりますが、X線よりはるかに多い被爆量の観点から安易に行われるべき検査とは言えません。

このようにX線写真に仙腸関節炎が現れてきたときにはかなり病状が進行した状態であり、超早期の変化はX線検査で発見することはできません。超早期の変化を見るために有用な検査が、次に述べるMRI検査です。

MRI検査――早期変化やnr-axSpAの診断の手がかりにも

MRIは、X線検査では発見できない軽度な炎症像を映し出すことができるため、nr-axSpAの診断に有用と考えられます。また、nr-axSpAの画像上の診断材料の1つに骨髄浮腫像がありますが、MRI検査により、X線では描出できないような軽い初期の炎症像、すなわち、骨髄浮腫像を見つけることができます。しかし、骨髄浮腫像はほかの病気や外傷、運動後などにもみられることがあり、したがって、骨髄浮腫の所見のみでは過剰診断になってしまう恐れがあるので、診断は慎重に行う必要があります。

早期段階での診断・治療は重要か?

病状が進行し、重症末期の“bamboo spine*”に至るケースは、日本のAS患者さんを対象としたアンケート調査によれば、全体の3分の1ほどです*¹。つまり、ASだからといって全ての患者さんに脊椎強直が生じる、すなわち背骨が完全に固まって動かなくなるわけではありません。

さらに、ASの40%程度には股関節(こかんせつ)に関節裂隙減少(かんせつれつげきげんしょう)や骨棘形成(こつきょくけいせい)、疼痛(とうつう)、可動域制限などの症状が現れると言われますが*²、完全に股関節が固まってしまう(強直)ことはごくまれです。股関節の疼痛や可動域制限が強く、歩行や日常生活に強い支障を生じている場合に人工股関節手術が行われますが、運悪く関節が完全に強直した場合でも、手術によって再び動かせるようにすることも可能です。人工股関節が上手く入れば、私のようにほぼ普通の生活に戻れます(ただし、長距離歩行や肉体労働、激しいスポーツは制限されます)。ちなみに、ASそのものによって命に危険が及んだり、自立した生活がまったく送れなくなったりする心配はありません。

*bamboo spine:背骨をつなぐ靱帯が骨化して脊椎が完全に骨性に強直し、竹のように固まった状態。

axSpAの治療の発展

近年axSpAに対する治療が発展し、新しいタイプの薬剤も用いられるようになってきました。選択肢の幅が広がったことによって実際に症状のコントロールがきちんとできるようになり、元の建築関係の仕事に戻れたという方や、気持ちが前向きになって結婚できたという方もいらっしゃいました。

適応をしっかり吟味・検討して、適切なタイミングでこれらの薬を開始すれば、その患者さんの痛みや苦痛をかなりの部分で取り除くことができ、生活の質(QOL)を著しく改善させることが期待できます。

こうした薬がなかった私の若い頃を考えると、隔世の感があります。重症患者で、2級の身体障害者になってしまった私としては、現代のAS患者さんたちは幸せだ! と、ジェラシーさえ感じるほどです。

ただし、人によって治療薬の効果はさまざまです。そのため、全ての患者さんにこれらの新薬を安易に使うのではなく、副作用の危険性も含めてその方にその薬を使うべきかどうかを、事前に慎重に見極めることが大切になります。

患者さんが前向きに治療を受けるためのアドバイス

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相手となる病気のことを正しく知ってください

axSpAは長く付き合う病気であるからこそ、患者さん自身が病気に対する知識を身につけ、治療や療養についての自分の考えを持つことが大切です。昨今、患者さん自身もインターネットなどを通じてさまざまな情報を集められる時代になりましたので、それらを駆使してまずは自分で病気のことについて学習してください。ただし、やはり医師に聞かなければ分からないようなこともあるはずですから、自分の得た情報が本当に正しいか不安な場合には主治医にきちんと尋ねましょう。

また、自分の病状の程度と特徴、さらにはその個人差を知ることも大切です。同じaxSpAという病気でも、まったく同じ病状や経過をたどる患者さんはいません。各薬に対する効果、症状が現れるきっかけやその出方や重さ、発症後の病状経過など、自分の病気の傾向を知ることも大切です。

自分と相性のよい医師をみつけましょう

診断後の診療や療養においては、ご自身と“相性のよい”医師を探すことが大切です。

axSpAは慢性疾患であり、患者さんは病気だけではなく主治医とも長く付き合うことになります。自分自身が「この先生は自分と相性が合う、信頼できる」と思える医師を試行錯誤してでも見つけて、その医師の下で病気を上手くコントロールしていきましょう。

*1 出典:井上久.強直性脊椎炎~療養の手引き(第3版)~.日本AS友の会.2016.p33.
*2 出典:井上久.前掲書.p84.

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順天堂大学医学部 整形外科学講座 非常勤講師

井上久 先生