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体軸性脊椎関節炎(強直性脊椎炎/X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎)とともに生きる――社会生活や受診における工夫

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インタビュー実施日:2020年8月19日
インタビュー実施場所:ノバルティス ファーマ株式会社 本社

慢性的な経過を辿る体軸性脊椎関節炎(axial spondyloarthritis:axSpA)の患者さんが社会と関わりながら日常生活を送るためには、いくつかの工夫が必要になります。なかでも、同じ病気の人とのつながりを持ったり、誰かに自分の話を聞いてもらったりすることは患者さんの心の支えを作る意味でも大切です。また、病気と上手に付き合うためには医師に相談しながら自分自身で意思決定をすることが重要だと、順天堂大学医学部 整形外科学講座 非常勤講師でaxSpAの患者の1人でもある井上 久(いのうえ ひさし)先生はおっしゃいます。axSpAの患者さんが日々の生活を前向きに送るために知っておくべきポイントを、井上 久先生にお話しいただきました。

日常生活や仕事を無理なく送るために知っておいてほしいこと

職場に病気のことを伝えるべきか

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画像提供:PIXTA

特に軽症の方で見た目にはaxSpAの特徴的症状が現れていない方の場合、症状(主に疼痛(とうつう)やこわばり)とそれによる身体機能障害が出る都度、欠勤や遅刻、早退などを繰り返すと「怠け者」と誤解されてしまうことがあります。軽症あるいは初期のaxSpAは疼痛発作から回復までの時間が短いため、次の日にはケロリとしている方も多く、このことにより、いっそう誤解されがちとなります。

このような周囲からの誤解を防ぐためにも、基本的には自分の病気、そしてその病状を家族や職場に説明しておくことをおすすめします。ただし、その方の重症度や職場環境などによって状況が異なるので、一概に「公表すべきです」とは言えません。

また、職場において病気のことを話す相手としては、直属の上司や人事部、信頼できる同僚など、特定の人に限りましょう。どうしても職場の理解を得られないときは、医師に、上司の方に説明をしてもらえないか相談してみてください。

精神的なバランスを維持するためには

ぜひ、家族や友人、主治医、臨床心理士など、周囲の人たちにご自分の話を聞いてもらってください。心が滅入ったりしたとき、私が個人的におすすめしたいのは臨床心理士によるカウンセリングを受けることです。薬を使わなくても、解決策を提示してもらえなくても、誰かに話を聞いてもらうだけで心の負担が軽くなったという患者さんは少なくありません。臨床心理士でなくとも,近くにそのような人を探してみることもすすめられます。

妊娠や出産への影響、遺伝のリスクについて

妊娠・出産は十分に可能です。特に危険や胎児異常が発生しやすいということはなく、また、股関節(こかんせつ)の可動領制限が強くて自然分娩が難しい場合には、帝王切開で一般の方と変わらずに分娩可能です。

また、ASはある程度に遺伝的要因が関係する病気であるため、生まれてくる子どもの発症するリスクは若干高まります。しかし、どちらか片方の親がASである場合、同じ病気の子どもが生まれる確率はおよそ6分の1とされていますし*¹、さらに、もしaxSpAの子どもが生まれた場合でも、将来的に重症化して脊椎が“bamboo spine*”になってしまうのは患者さん全体の3分の1程度です*²。このような数値を知れば、ASもしくはaxSpAは、妊娠・出産をあきらめなくてはならない病気では決してないと私は考えていますので、そのことを患者さんに、あくまでも私個人の意見としてですが、お伝えしています。

しかし、そうは言っても、家族環境、社会環境、そしてそれぞれの性格によっても、一概には決められないことですので、パートナーや家族とよく話し合って、子どもを作るかどうかの選択をご自身でしていただくことになります。

*bamboo spine:背骨をつなぐ靱帯が骨化して脊椎が完全に骨性に強直し、竹のように固まった状態。

運動の効果と内容について

・その日の体調にあったレベルの運動を
axSpAの患者さんは日常的に体を動かすことが推奨されています。運動の程度や強度は、自分の病状や日々の体調に応じて柔軟に変更する必要があります。そのときどきの体調や症状(痛みやこわばりや倦怠感)の強さや身体機能(動きにくさ)に合わせて、その都度、適切な強さの運動を考えてメニューを組み、できる範囲で極力体を動かすようにしてください。axSpAは、“安静にしていてはいけない”という珍しい病気なのです。軽症であればジムに入会してトレーナーに病気のことを話し、専用のメニューを作ってもらうのも1つの手です。

しかし、「ジムに通って積極的に運動を必ずしなければならない……」などと、義務としてとらえないよう注意しましょう。病状の進行防止のために毎日きちんと運動しなければいけないと思い込みすぎると、今度は運動そのものがストレスになってしまい、逆効果です。

・おすすめのスポーツ/控えてほしいスポーツ

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画像提供:PIXTA

水泳は脊椎・関節の機能だけでなく心肺機能の向上にも効果があるので、特におすすめしています。泳げない方は水中歩行をするだけでも十分な運動になります。そのほか、ストレッチやヨガ、卓球、太極拳などもおすすめです。

一方、axSpAは全身が硬くなり転倒や衝突により怪我をしやすいので、いわゆるコンタクトスポーツと呼ばれるものは(柔道やラグビー、格闘技など)、避けるべきでしょう。

没頭できるものを見つける

趣味は急に見つかるものではないため、私は患者さんに「趣味を見つけましょう」と積極的には言いません。ただ、何かに熱中しているときは痛みを感じにくいのは確かです。私の場合は、普段の仕事、特に週に1回だけの外来診療(強直性脊椎炎診<AS診>)がそれに該当します。診療中や終了後は、必ずといっていいほど痛みが軽くなりますし、ときには杖を忘れて帰ることがあるほどです。私にとって診療も含む仕事は生きる糧、ASの症状軽減のための“薬”ですから、これからも可能な限りずっと続けていくつもりでいます。なによりも最高の“薬”は、自分が一生懸命やったことに対して患者さんからいただける感謝の言葉のような気がします。

もちろん、没頭する対象は仕事に限らず何でも構いません。これなら没頭できると思えるものを、ゆっくり焦らず見つけていきましょう。

患者さん同士でつながりを持ち、共有し合う

設立以来私が事務局長を務めてきた『日本AS友の会』の総会(年1回開催)に、あるとき初めて参加した重症のAS患者さんが、「まるで無人島で人に会ったみたいです」とおっしゃいました。ASはそれほどまれな病気で、普段の生活の中で同じ病気の人に接する機会はまずありませんから、その方は会場に来て、自分と同じ病気を持つ方がたくさんいたことに驚き、感激されたのでしょう。同じような出会いは、私が開設しているAS診の待合室でも多数みられ、順天堂大学整形外科の待合室は患者さん同士が友達になる場でもあります。

このように、同じ病気の方に出会う場を設けることは、axSpAの患者さん同士のつながりを作って情報や悩みを共有し合うためにも非常に大事なことだと思います。日本AS友の会やAS診のような専門外来は、その役割を担っているわけです。

医師には何を・どのように相談すればよい?

医師のアドバイスを聞き、自分で選択をしながら病気と付き合う

私が順天堂大学で行っている強直性脊椎炎診(以下、AS診)では“医師との付き合い方”、すなわちその方が悩んでいることや疑問点について、主治医にどう話せば伝わりやすいのかということをアドバイスすることがよくあります。併せて、「医師の言うことや指示に対して、その通りになんでも従うのではなく、それらを参考にしながら自分で意思決定し、病気と上手く付き合っていきましょう」というお話もします。なぜなら、病気と付き合って生きていくのは、あくまで患者さん自身であるからです。薬を飲んだり注射をしたりするのも患者さん自身です。

医師や看護師は、痛くないのです。体も硬くありませんし、よく動くのです。

ただし、薬は医師でなければ処方できません。病気の治療現場での主役はあくまでも患者さんですから、患者さんは医師の持つ知識と資格を利用しつつ、自分の病気と折り合っていくという意識を持ってほしいと思います。

社会生活面や経済面など、病気以外の悩みも相談を

AS診の場合はNSAIDsやステロイドの関節注射などは各患者さんの病状に応じて適宜行いまずが、手術や生物学的製剤による治療は行っていません。それらが必要となれば専門家に任せます。その代わり、医師であるとともに1人の患者の先輩として、社会生活に関するアドバイスや悩み相談、さらには「こんなことを聞いていいのか分からない」といったような些細な、あるいは本やインターネットに出ていない、そして診察室では聞きにくいような質問にもできる限り対応できるよう努力しています。そのほか、介護保険、障害年金、障害者手帳などの公費助成を申請するための診断書作成作業も大切な仕事です。社会生活や経済面などで困っているときにも、ためらわずに相談していただきたいと思っています(できることには限度があります)。

主人公は患者さん自身――井上 久先生からのメッセージ

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主体的に学び、自ら意思決定することを忘れずに

病気と折り合って付き合うのはほかの誰でもない、患者さん本人です。つまり、治療における主人公は患者さんですから、治療法や使用する薬の決定権も患者さんにあります。「医師に治してもらおう」と受け身の療養姿勢ではなく、自分の力で病気と向き合うことを大切にしてください。また、医師の言うことに振り回されすぎないためにも、自分自身が病気についてしっかりと勉強し知識を身につける努力をしましょう。

“病気になったおかげでできたこと”を考えて

病気になったがために送れなかった人生があるかもしれませんが、その一方で、病気になったおかげでできたことや学んだこともたくさんあるはずです。私の場合も、axSpAの代表的疾患である強直性脊椎炎(ankylosing spondylitis:AS)になったために諦めざるを得なかったことがたくさんありました。しかし、もしASを発症していなかったら、私は一般的な整形外科医として平凡な医師人生を送っていたかもしれません。ASにならなければ知らなかったままのこともあれば、出会えなかった人もいるでしょう。ですから最近の私の生きる上での標語は、「ASのおかげ」です。

“病気のせいでできなくなったこと”よりも“病気のおかげでできたこと”に目を向けてみてください。患者さんたちが、病気に対する考え方を見直し、前向きに自分の人生と向き合っていかれることを願っています。

*1 出典:井上久.強直性脊椎炎~療養の手引き(第3版)~.日本AS友の会.2016.p34.
*2 出典:井上久.前掲書.p33.

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順天堂大学医学部 整形外科学講座 非常勤講師

井上久 先生