日本における呼吸器疾患診療

個別化医療が進む呼吸器疾患、医療ニーズへの対応がよりいっそう求められる

個別化医療が進む呼吸器疾患、
医療ニーズへの対応がよりいっそう求められる

肺がんや慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの呼吸器疾患は、時に命に関わることもある病気です。高齢化に伴い呼吸器疾患にかかる人が増える一方で、日本国内の呼吸器内科医、外科医の数は不足しています。また呼吸器疾患との関わりが深いたばこを規制する国内法の整備は追いついていないことが実情です。
肺がんに対する治療は進歩して選択肢が増え、個別化医療*がますます求められる時代を迎えています。このような状況のなかで、自治体や医療機関は禁煙推進の取り組みや、個別化する医療ニーズに向き合っています。

患者一人ひとりの体質や病態に合った、有効性の高さと副作用の少なさが期待できる治療法や予防法のこと。

世界をリードする高度な医療を目指す
松阪市民病院

国内外で活躍する医師陣による呼吸器疾患診療

国内外で活躍する医師陣による
呼吸器疾患診療

2012年に開設した松阪市民病院・呼吸器センターには非常に熱心な医師が全国から集まっています。三重県は人口10万人あたりの医師数が全国平均より少ないなか、当院の常勤医は14人おり(2024年時点)、呼吸器疾患の患者さんに対して呼吸器内科、呼吸器外科をはじめとしたさまざまな診療科が協力し集学的な治療を実施しています。2023年には国内外の学会で約48回の発表を行ったほか、英字論文を22本発表するなど、日本にとどまらず世界で活躍し、その学びを当センターでの診療に生かしています。“高度で適正な医療を提供する”という目標を掲げる当センターの治療は世界に通用するものと自負していますので、呼吸器疾患でお困りの方はぜひ当院にお越しください。

院長プロフィール

松阪市民病院の
呼吸器疾患治療

肺がんの治療

正確かつスピーディーな診断を追求し、個別化医療を提供

正確かつスピーディーな診断を追求し、個別化医療を提供

肺がん治療の中でも薬物治療の進歩は目覚ましく、個別化医療が進む領域の1つです。肺がんに対する個別化医療では、がん組織のドライバー遺伝子*の有無を調べて患者さんの体質やがんの性質を特定します。これにより、有効性がより期待できる薬を処方できるだけでなく、副作用を少なくする効果も期待できます。これらの個別化医療のメリットを最大限に引き出すには、正確な診断をつけることが非常に重要です。当院では正確な診断に結び付くよう、がん組織の切り出し方について研究を重ね、世界に発表してきた実績があります。
また進行性の肺がんは刻一刻と症状が進むため、スピーディーに検査を行い、治療方針を決める必要があります。個別化医療における正確さ、迅速さを追求するために、当院では院内に遺伝子検査機器を配備し、外部委託では数週間ほどかかる遺伝子検査を1日で行うことができる体制を整えています。また、新薬の治験も行っているため、より幅広い選択肢の中から患者さんに適切な治療選択肢を提示できることも強みの1つです。

がんの発生や進行に直接関わる遺伝子。

検査技術とさまざまなアプローチからも迅速な治療を目指す

肺がんを迅速に診断し治療を開始するためには、がんを疑う組織を採取する際に十分な量を採取できるかどうかも重要です。検体の採取は、気管支鏡という細い管の先に鉗子かんしという洗濯ばさみのような器具が先端に付いたものを自在に操作し、病変をつまみ取って行いますが、この方法では検体を十分に採取できない場合もあります。当院では、さまざまな機器を取りそろえ、複数のアプローチの中からよりよい方法で十分な量の検体採取を行うことが可能です。具体的には、エコーで病変や血管の位置を確認して、できるだけ多く安全に検体を採取する方法や、気管支鏡の先端を凍結させ、組織の損傷を抑えながら大きく検体を採取する方法などがあります。
また当院には日本呼吸器内視鏡学会認定の気管支鏡専門医のほか気管支鏡指導医(同学会認定)も在籍しており、院内外で気管支鏡の講演やレクチャーを行っています。指導できるレベルの技量を持つ医師が中心となって日々研鑽に励んでいるからこそ、治療だけでなく検査の段階から患者さんの状態に合った方法を選ぶことができると自負しています。

肺がんに対する手術を網羅――安心・納得の治療を受けてほしい

肺がんに対する手術を網羅――安心・納得の治療を受けてほしい

早期の肺がんに対しては、肺を切除して根治(がんが完全に治ること)を目指します。当院の肺がん手術は、医師が切除部位を直接見て行う開胸手術、お腹に開けた小さな穴から細長いカメラを入れて行う胸腔鏡手術、自在な手技を実現できるロボット支援下手術の3つの術式に大きく分けられます。3つの術式全てを当院は得意としており、肺がんの発生部位や患者さんの体の状態、各術式のメリットを総合して患者さんに合った術式を提案できるよう努めています。呼吸器外科医として丁寧・正確な手術で根治を目指すことはもちろん、患者さんに納得して治療を受けていただくために、日々手術手技の研鑽を重ねています。手術前には不安を感じるものかと思いますので、少しでも気になることがあれば、どんなことでもご相談ください。

解説医師プロフィール

間質性肺疾患の治療

積極的な早期治療で治療後の経過にアプローチ

積極的な早期治療で治療後の経過にアプローチ

間質性肺疾患は、肺の壁(間質)に炎症が起こることで、間質が徐々に厚く硬くなる(線維化する)病気です。近年、症状の進行を抑制する抗線維化薬の開発が進歩しており、当院でも間質性肺炎の患者さんへ積極的に治療を行えるようになりました。間質性肺疾患では経過観察中にも症状がゆっくりと進行することもあるため、早期に治療を行い、予後(治療後の経過)の不良を未然に防ぐことが非常に重要です。
また2024年4月からは、間質性肺疾患の中でも発症の原因が分からない特発性間質性肺炎に対する診断基準や重症度分類が見直されました。これによって、今まで公費助成の対象ではなかった重症度の患者さんも、助成を受けながら治療できる可能性があります。当院でも、これまでの治療実績をもとにより多くの患者さんへ積極的に治療を行ってまいります。

急性増悪に対しても先手の治療で予防に努める

急性増悪に対しても先手の治療で予防に努める

当院では検査から原因の有無や呼吸機能の重症度を見極め、迅速に適切な治療につなげています。原因が特定できる場合は原因となる病気に対する治療を、特発性間質性肺炎に対しては抗生薬や抗線維化薬による治療を行います。
治療においては急性増悪(急激に症状が悪化すること)を起こさないよう、可能な限り早く手を打つことも非常に重要です。当院では、診断がつき次第抗生薬を使用し、経年的な呼吸機能の低下を予防します。感染症も急性増悪のリスクを高めることから、予防接種を行うほか、合併しやすい肺がんを見つけるために定期的な検査も行っています。さらに、60歳以下の患者さんで適応があれば、肺移植も可能です。
間質性肺疾患の治療薬は開発が進んでいますから、患者さんの未来は決して暗くはありません。私たちと一緒に希望を持って治療していきましょう。

解説医師プロフィール

気管支喘息の治療

10年後も同じ生活を過ごしてほしい――未来を見据えた治療を提供

10年後も同じ生活を過ごしてほしい――未来を見据えた治療を提供

難治性の気管支喘息に対する治療では、単に症状を抑えるだけでなく“未来を見据えた治療”の提供をモットーとしています。治療には継続的に薬を使用する必要がありますが、ステロイドを長期に使用することで糖尿病や骨粗鬆症のリスクが懸念されます。そのため、当院では生物学的製剤を用いることで、症状が落ち着いた状態を目指します。
当院には呼吸器専門医*として生物学的製剤の処方を熟知した医師がそろっているため、患者さんの体質や合併症、年齢などを総合的に判断し、数種類ある生物学的製剤の中から患者さんに合った薬を処方することが可能です。私たちは呼吸器疾患の専門施設として、今ある症状に対処するだけでなく10年後も患者さんが同じ生活を過ごせることを目指し、よりよい治療選択肢を提案します。

日本呼吸器学会認定による、呼吸器の診断学や治療学などに関する豊富な知識を有し、かつ重要な専門的検査技術を取得し、広い範囲の呼吸器疾患に対する知識や理解、臨床経験などを有する医師。

効果を実感し、“治療を続けよう”と思っていただくために

吸入薬を使用している患者さんの中には「吸入方法が難しい」「吸入薬を毎日続けるのが大変」と感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。気管支喘息に対する治療は、吸入薬の進歩によって症状の改善がみられる患者さんが増えてきましたが、症状の改善を実感するためにも、吸入薬の服用を続けることが非常に大切です。
当院の呼吸器外来では、患者さんの継続的な治療を手厚くサポートしています。外来では主治医による診察だけでなく、看護師が薬の管理状況を患者さんと一緒に確認しています。また、吸入のやり方を忘れてしまわないよう、薬剤師が吸入方法を定期的にレクチャーしています。こういった取り組みが効果の実感につながり、吸入を続けるモチベーションにもつながると考えています。適切に吸入薬を使用できるよう一丸となってバックアップしますので、症状が出ない生活を一緒に目指していきましょう。

解説医師プロフィール

慢性閉塞性肺疾患(COPD)の治療

“病気を知ること”から始まるCOPD治療

病気を知ることから始まるCOPD治療

たばこの煙を主な原因とするCOPDは、全国に約530万人の患者さんがいると推定されています。しかし実際に治療を受けているのは約22万人(2020年時点)と報告されており、認知度が低い病気です。当院でも調査を行ったところCOPDに対する認知度の低さが明らかになり、コロナ禍以前から松阪市内の各地区での講演や自身のラジオ番組でCOPDを取り上げ、認知度向上のための活動を重ねてきました。そこには“病気を知ってもらわないことには、治療は始まらない”という思いがあります。松阪市での認知度100%に向け、引き続き認知度向上のための活動を行っていきます。
また現在、呼吸器センターとしてはCOPDに対する新薬治験を行っています。COPD治療をリードすべく新薬開発にも注力し、患者さんの健康を支えてまいります。

生命予後を見据えたリハビリテーションの取り組み

生命予後を見据えたリハビリテーションの取り組み

COPDに対しては身体機能の低下を予防するための呼吸リハビリテーションも欠かせません。当院のリハビリテーション科では、呼吸障害を専門に技能を習得した呼吸専門理学療法士*を中心としたチームで呼吸リハビリテーションを実施しています。なかでも下肢筋力トレーニングを中心とする運動療法は、患者さんの生命予後の改善や、症状悪化の予防につながるというエビデンス(有効性や安全性を確かめた研究の成果)が示されている有用な呼吸リハビリテーションです。データに裏打ちされたリハビリテーションを行い、患者さんに元気でいてもらうことが私たちの何よりの願いです。一つひとつ達成できたことを一緒に分かち合い、身体機能の維持を目指していきましょう。

日本理学療法士協会認定。呼吸器疾患、呼吸機能低下などに代表される呼吸障害の理学療法を実践するための知識と技能を深め、理学療法学としてより学問的発展を倫理的かつ科学的に実践できる者。

解説医師プロフィール
  • 公開日:2024年6月17日
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