院長インタビュー

世界に通用する医療を地域に提供する、松阪市民病院

世界に通用する医療を地域に提供する、松阪市民病院
畑地 治 先生

松阪市民病院 院長

畑地 治 先生

三重県松阪市の松阪市民病院は、1946年9月に開設された総合病院です。三重県の南勢志摩医療圏の2次救急医療機関として、“高度で適正な医療を提供する”をモットーに、特に呼吸器疾患の患者を多く受け入れています。地域貢献に熱心に取り組みつつ、世界に通用する医療を提供している同院の役割や今後について、院長の畑地治先生に伺いました。

当院は三重県松阪市にて、健康保険松阪市民病院として1946年9月に開業しました。その後1951年には松阪市に経営が委託され、診療内容を充実させつつ2004年に災害拠点病院、2011年3月に三重県がん診療連携推進病院、2012年に三重県へき地医療拠点病院に指定されるなど、松阪市の中核病院として多くの患者さんを受け入れています。現在の病床数は一般病床が267床、地域包括ケア病床が39床、緩和ケア病床が20床、感染症2類が2床で、合計328床です。

三重県には北勢、中勢伊賀、南勢志摩、東紀州の4つの医療圏があり、当院があるのは南勢志摩医療圏です。さらに、南勢志摩医療圏は、伊勢志摩区域と当院がある松阪区域に分かれています。松阪区域の救急は、済生会松阪総合病院と松阪中央総合病院、そして当院の3つの病院による輪番制で、当院の当番は年間で106日になります。人口の減少と高齢者率の上昇が進行する松阪地区で、中核的な病院として2次救急(入院や手術を要する重症患者への救急医療)の役割を担っている当院の責務は重いと感じています。

当院の強みの1つが呼吸器センターです。私が当院に呼吸器内科医として赴任したのは2003年7月で、当時は担当の医師が私一人しかいませんでした。がむしゃらに患者さんの診療にあたる日々のなかで徐々に患者さんが増え、2012年4月に呼吸器内科に2人、呼吸器外科に1人の医師が入り呼吸器センターを開設することができました。2023年現在、常勤の医師は11名と東海地区でもかなりの大所帯となり、呼吸器疾患の患者さんに対して呼吸器内科、呼吸器外科、放射線科、リハビリテーション科、病理科などさまざまな診療科が協力し集中的な治療を実施しています。解像度の高い3D画像を見ながら内視鏡を操作する手術ロボット“ダ・ヴィンチ”も導入して肺がんの手術も行っており、当院の肺がん手術件数は三重県でトップクラスになっています。

当センターには非常に熱心な医師が全国から集まっています。2022年には日本や世界の学会での約40回の発表を行ったほか、英字論文を18本発表するなど、彼らは日本にとどまらず世界で活躍し、その学びを当センターでの診療に活かしており、当センターの治療は世界に通用するものと自負しています。

最近では肺がんの遺伝子検査にも力を入れています。当院の検査室にはDNAの詳細な遺伝情報(塩基配列)を速く大量に読み取る“次世代シーケンスシステム(NGS)”があり、肺がん関連遺伝子の検査が1日ででき、その後の治療に役立てることができます。今後は当院が正確性が高い検査をしていることについて、世界標準の証明となる“CAP認定(アメリカの病理医団体の第三者認証機関による認定)”を取得する予定です。

NGS
NGS(松阪市民病院ご提供)

整形外科では骨折などの一般外傷をはじめ、変形性関節症といった関節外科や、捻挫半月板損傷といったスポーツ外傷など、さまざまな分野の外傷、疾患の診療を行っています。その中でも多くの患者さんに来ていただいているのが、山田淳一先生が専門的に診療している脊椎外科です。脊椎外科では一般的な脊椎手術のほかに、後腹膜腔から脊椎へアプローチする腰椎側方侵入前方固定術による低侵襲手術(ていしんしゅうしゅじゅつ)や、骨粗鬆性脊体骨折への早期BKB(グラグラする背骨を固定して痛みを止める手術)や後方固定術(圧迫している骨や靱帯(じんたい)を削除し、充填物を挿入するなどして固定する手術)、脊椎の稼働を検証・定量化する際に用いる動態撮影装置を使った診療など、さまざまな手術・診療を取り入れて多くの症例を蓄積しています。松阪市の開業医の皆さんには患者さんの紹介もお願いしており、“オール松阪”で世界に情報を発信していくのが私たちの目標です。

消化器センターは西川健一郎センター長を中心に、消化器内科と消化器外科の医師により構成されています。消化器内科では消化器(食道、胃、十二指腸、大腸などの消化管と肝臓、胆嚢・胆管、膵臓(すいぞう))のがんの早期発見と早期治療を中心に、消化器外科では消化器の悪性疾患の手術を中心に診療しており、内科・外科といった枠組みにとらわれず、内科医と外科医が連携して診療にあたるのが特徴です。依頼があれば内視鏡検査・治療を迅速に行うなど、それぞれの専門的な知識を生かしながら安全(safety)・迅速(speedy)・確実(steady)の3Sを追求した診療を提供しています。

当院は松阪市によって運営されている公立病院です。民営の病院のような宣伝活動ができないことから、開業医の皆さんに患者さんを紹介してもらうための地道な努力を積み上げてきました。実際に実施したのは充実した医療を提供できる体制の構築で、同時に開業医の皆さんとの信頼関係を築くため、三重県にとどまらず和歌山県の開業医の方々にもあいさつ回りを徹底しました。
こうした活動は20年以上継続しており、おかげさまで多くの患者さんに来院していただきました。今後もこの松阪地区を中心に地域に根ざし、世界をも見据えた医療を展開していきたいと考えています。

祇園まつり集合写真
祇園祭に参加(松阪市民病院ご提供)

自治医科大学出身ということもあり、地域に根差した医療を提供することは医師の責務であると人一倍強く感じています。そのために心がけているのが、地域の皆さんとの“ふれあいのある医療”です。松阪祇園祭では神輿を担いだり、氏郷まつりの武者行列に参加したり、地域のマラソン大会に参加したりして、地域の皆さんと一緒に楽しい時間を過ごさせていただきました。また、当院の医師が松阪市内各地区の公民館で講演したり、ラジオ番組にも長い間出演したりして、積極的に医療情報を発信しています。こうした活動を通して地域の方々との距離を縮めることで、今以上にきめ細やかな医療サービスを提供できると考えています。

また、開業医の皆さんの協力を得ながら、“松阪に強力な医療圏を築き上げ、世界に情報を発信する”という目標も持っています。こうした志を掲げていますので、全国から世界を目指している、若くて優秀な医師に来ていただけるとうれしいです。そうやって活気ある病院にしていくことが、真の地域に根ざした医療につながると考えています。

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