消化器がんの医療

医療技術の向上により早期診断・早期治療が可能に

医療技術の向上により
早期診断・早期治療が可能に

日本人が一生のうちにがんと診断される確率は2人に1人といわれており、なかでも大腸がんの罹患数は1位、胃がんの罹患数は3位と、消化器系のがんが多くを占めています(2020年がん統計データより)。現在、内視鏡をはじめとする医療技術の向上により、早期診断や早期治療が可能な時代になっています。一方で、高齢で罹患する方も多いため、患者さんのニーズに合わせた治療やサポートを行うことも重要です。各医療機関は、手術、薬物療法、放射線治療などを組み合わせた適切な治療の提供や、かかりつけ医とのスムーズな連携体制などが求められています。

地域のがん診療を支える
NTT東日本関東病院

全ての消化管のがんに対して、全ての種類の治療の提供に努める

全ての消化管のがんに対して、
全ての種類の治療の提供に努める

当院の特徴は、食道から胃を経て大腸までの消化管の全ての部位のがんに対して、現在の日本で可能な治療が行えることです(2024年7月現在)。消化管の内側(管腔かんくう側)からは内視鏡を駆使して、消化管の外側(縦郭じゅうかく腹腔ふくくう側)からは腹腔鏡やロボットを用いて、全ての種類の治療を行えるよう、担当医師、コメディカル、麻酔科医師*を配置して診療に取り組んでいます。またDXにより検査・処置室と病棟とはリアルタイムで連携し、手術ロボット・ダヴィンチは2台利用できます(2024年7月現在)。医師と患者さんが相談して選んだ治療が、人的・物的理由で制限されることのないように努めています。

麻酔科標榜医:小松 孝美先生

院長プロフィール

NTT東日本関東病院の
大腸がん・胃がん・食道がん
の治療

消化管内科の診療体制

患者さんの負担が圧倒的に少ない“内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)”

患者さんの負担が圧倒的に少ない“内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)”

大圃 研先生

当院では、早期がんに対する内視鏡治療に注力しており、早期の胃がん・食道がん・十二指腸がん・大腸がんに対して内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)を積極的に行っています。ESDは内視鏡の先端から高周波の電気メスを出して病変部分を切除する治療です。粘膜下層を液体(隆起剤)で浮かせて切除することで、病変の取り残しや穿孔せんこう(内臓の壁に穴が空くこと)などを防げます。お腹を切らずして病変を一括で取り除くことができるため、開腹手術と比べて患者さんの体力の回復が早く、食事への影響も最小限にできます。開腹手術よりも短い日数で退院していただけるケースがほとんどです。

患者さんの負担が圧倒的に少ない“内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)”

内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)

患者さんの状態にもよりますが、当院は大腸がんに対するESDは日帰りにも対応しており、「少しでも短い期間で治療を終えたい」というご希望をできる限り叶えられるように努めています。これは患者さんの希望を尊重した治療を心がけているからこそです。当院は1年間に合計1,000件以上のESDの実施を目標にしており、2023年1〜12月の実績は、食道148件、胃369件、十二指腸80件、大腸445件の合計1,042件となっています。

患者さんの負担が圧倒的に少ない“内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)”

港 洋平先生

内視鏡部には麻酔科医*が常駐し、内視鏡検査や治療の麻酔は麻酔科医が管理しています。私たち内科医は内視鏡の手技に集中できるので、その結果、検査や治療全体にかかる時間を短縮することができています。また麻酔の過量投与を防ぐことができ、内科医が治療を行いながら麻酔をかけるよりも、患者さんが麻酔から覚めるのが早いのも特徴です。負担が最小限となるよう配慮していますので、検査や治療に対する恐怖心がある方にもご安心いただきたいと思います。

麻酔科標榜医:小松 孝美先生

ESDは低侵襲ていしんしゅうで安全に配慮した治療法ですが、適応は早期がんに限られています。治療前の検査でESDの適応ではないと判断した場合、あるいはESDの際に切除した病変を病理診断した結果、転移の可能性がある場合などには、外科と連携を密に図りながら、よりよい治療法をご提案させていただきます。

最後まで諦めず、内視鏡治療の可能性を探る

最後まで諦めず、内視鏡治療の可能性を探る

当科では、診断から治療方針の決定、治療までをスピーディーに行い、患者さんの不安を軽減できるよう努めています。がん自体が内視鏡治療の適応であれば、技術的な難易度を理由に治療を断念することはまずありません。全国にはがん自体が内視鏡治療の適応であっても、がんの場所などによる治療の難易度の高さから外科手術を選択されている患者さんが多くいらっしゃるのが現状です。「手術しかない」と他院でいわれたという患者さんも、ぜひ一度当院にご相談ください。当院が“最後の砦”となり、内視鏡治療の可能性をできる限り見出したいと考えています。またその際は、個々の患者さんが当院を受診されるに至った経緯、かかりつけ医での経過などを把握したうえで、医師1人ではなくチームで診療をさせていただきます。そのため、当科には“主治医”というものはありません。医師間で患者さんへの説明の仕方や使用する医療用語などを統一し、「医師によって言うことが異なる」といったトラブルがないように徹底していますので、安心して療養いただければと思います。
当科では紹介状や画像検査のデータがある場合は当日の飛び込み受診も受け入れています。予約をしていただいたほうが待ち時間は少なくなりますが、早い診察や治療をご希望の方はぜひ一度受診ください。予約がない場合でも紹介であれば受診いただいたら必ず診察いたします。オンライン受診相談*にも対応していますので、遠方の方はぜひご活用いただければ幸いです。

オンライン受診相談を希望する場合には、事前に病院サイトからの予約申込が必要です。実際の診療時間は最長20分で、料金は5,500円(税込)の前払い方式となっております。なお受診の際は、予約日の5日前までに、ほかの医療機関からの紹介状や診療に必要な検査結果・内視鏡画像データの郵送が必要です。自由診療となりますので健康保険は適用されません。
【オンライン受診相談について:https://www.nmct.ntt-east.co.jp/guide/online/

解説医師プロフィール

外科の診療体制

全ての患者さんが“安全に退院し、自分らしい形で社会復帰する”ために

全ての患者さんが“安全に退院し、自分らしい形で社会復帰する”ために

樅山 将士先生

私たち外科は“安全に手術を終えて退院し、その方らしい形で社会復帰していただくこと”を一番の目標にして、患者さんの状態に合わせた集学的な治療を大切にしています。“外科だから必ず外科手術をする”という考えは持っていません。患者さんのご希望に最大限にお応えできるよう、既往歴や年齢、ご家族との関係性などのバックグラウンド、そして治療によるリスクも踏まえたうえで、診療に関わるメンバーでディスカッションを重ね、よりよい方法を決定していきます。「手術は成功して退院したものの、今までの生活ができなくなってしまった」というようなことがないよう、たとえば手先を使う仕事の方にはできるだけ手のしびれが残らない治療を、ご高齢の方にはご本人の体への負担のみならずご家族の介護の負担軽減も視野に入れた治療をご提案できるように努めます。また、根治が難しい方に対しても痛みの緩和、QOLの向上を目的に、がんの一部切除や出血・狭窄きょうさくがある部位にアプローチする手術も行っています。患者さんが前向きに治療に臨めるよう、手術前後から退院まではもちろん、退院後も伴走させていただきます。

ダヴィンチによるロボット支援下手術――“がんの根治”と“機能の温存”の両立を目指す

ダヴィンチによるロボット支援下手術――“がんの根治”と“機能の温存”の両立を目指す

当院は患者さんへの負担の少ない手術(低侵襲手術)に積極的に取り組んできた歴史があり、2018年から直腸がん、2022年から胃がん・食道がん、2023年から結腸がん、膵体尾部切除の手術に、ダヴィンチによるロボット支援下手術を導入しています。 2023年1〜12月に行ったロボット支援下手術は胃がん30件、食道がん23件、直腸がん42件、結腸がん11件です。食道がんにおいては現在、全ての症例をロボット支援下で行っています。
ロボット支援下手術のメリットは、開腹手術と比べると患者さんの負担が少なく済むことと、繊細な手術操作ができることです。“がんの根治”と“機能の温存”の両立を目指すうえで重要な役割を果たします。特に直腸がんの手術においては骨盤内の深い部分に対して治療ができ、神経や肛門を最大限温存することが期待できます。

ダヴィンチによるロボット支援下手術――“がんの根治”と“機能の温存”の両立を目指す

田中 求先生

食道がんの手術は術中神経モニタリング装置を用いながら行い、反回神経麻痺(発声や嚥下の機能を司る神経)を温存できるように工夫しています。近年では全国的に胃がんの患者数は減少しているものの、逆流性食道炎も原因のひとつでもある“食道胃接合部がん”の患者さんが増えています。食道胃接合部がんの手術では、食道がん手術だけでなく、胃がん手術の技術も同じく必要となるのが特徴です。当院には食道と胃の両方を専門としている医師が在籍しているため、その専門性を発揮して治療にあたることができるのが強みです。食道と胃の接合部であるため術後合併症のリスクを念頭に置く必要がありますが、万が一合併症が起こったとしても迅速に対応できるよう体制を整えています。
私たちの強みはロボット支援下手術ではありますが、ロボット支援下手術を含めた全ての手術において、“心のケア”を大切にした温かい医療の提供をモットーとしています。不安なことや疑問があれば、気兼ねなく相談いただければと思います。

解説医師プロフィール

患者さんへのサポート

院内外の連携を密にとり、患者さんを総合的にサポート

当院は“チーム医療”を大切に、日々の診療を行っています。消化管内科と外科とでは“双方向の連携”を大切にしています。消化管内科で内視鏡治療が難しいと判断した症例を外科に、外科で内視鏡治療で対応できる可能性があると判断した症例は消化管内科に迅速につないでいます。お互いの敷居がとても低く、治療方針に問題がないか確認し合いながら、個々の患者さんに適した治療を提案することができています。
多職種による連携も欠かせません。医師、看護師、薬剤師、臨床工学技士、放射線技師、栄養士、理学療法士、ソーシャルワーカー、事務スタッフなど、あらゆる職種がそれぞれの専門的な業務を分担し、情報共有を密に行いながらチーム医療を実践しています。NST(栄養サポートチーム)による栄養状態のスクリーニングや栄養指導、緩和ケアチームや感染対策チームによる院内の見回りなど、病院全体で患者さんをサポートする体制が整っています。

院内外の連携を密にとり、患者さんを総合的にサポート

また当院では地域との連携も大切にしています。紹介元の医療機関と情報共有することはもちろん、かかりつけ医にも丁寧に情報を提供することで、患者さんが退院した後も住み慣れた地域で安心して生活し、通院や定期健診を受けられるように心がけています。外科では周囲の開業医の先生方との連携を図るために“腹痛ホットライン”を設けており、直接当院の外科医とつながる仕組みが整っています。

がん相談支援センター――誰でも相談に行けて、解決策を探せる場所

がん相談支援センター――誰でも相談に行けて、解決策を探せる場所

当院は“がん相談支援センター”を設置し、がんに関することについて、対面あるいはお電話にて無料相談を実施しています。当院におかかりでない患者さんやご家族、知人の方など、どなたでもご利用いただけます。予約優先制ではありますが、予約がない方にも対応していますので、お困りのことがあればお声がけください。対面でのご相談は個室で行い、プライバシーに配慮していますのでご安心ください。

ご利用案内

「家族や友人には話せないけれど、誰かに話を聞いてほしい」「緩和ケアについて話を聞いてみたい」「治療にかかるお金について不安がある」など、ご相談内容はどのようなことでも大丈夫です。現代はインターネットなどにさまざまな情報が飛び交っており、どうしても悪い情報ばかりが目に入って不安になったり、数多くの情報に混乱したりしてしまうものです。当センターでは、ご自身が何に困っているのか・迷っているのかに正しく気づいていただくことが大切だと考えています。漠然とした不安を具体化すべく丁寧にお話しをお伺いすることから始め、そのうえで患者さん・ご家族がご自身の気持ちを整理し、主体的に意思決定に関わっていくことができるように一緒に考えていきます。
また、月に一度、がん患者さんを対象に“お仕事相談会”を開催し、社会保険労務士と相談支援センター職員による仕事とがん治療の両立のサポートを行っています。休職や復職に関しては実際に就業規則をお持ちいただくと細やかな支援が可能です。ぜひご活用ください。

解説医師・看護師プロフィール
田中 求 先生
看護主任
井上 泉子さん
  • 公開日:2024年9月11日
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