消化器外科
肝臓がん〜厳しい基準を満たしているからできる腹腔鏡手術〜
東京都立多摩総合医療センターは東京都多摩市に位置する急性期総合病院で、平成23年4月1日より“地域がん診療連携拠点病院”に指定され、質の高いがん医療の提供を目指し、地域のがん医療水準の向上を図る拠点として、がん医療や緩和ケアの提供、セカンドオピニオンの実施などに取り組んでいます。
外科部長を務める森田 泰弘先生は、長年肝臓がんの治療に従事してこられました。今回は森田先生に東京都立多摩総合医療センターの肝臓がん治療の特色や取り組みについてお話を伺いました。
治療・取り組み
当センターでは、肝細胞がんや転移性肝がんなど、肝臓がんの患者さん一人ひとりに適した治療を提供できるよう、さまざまな術式で対応しています。とりわけ特色となるのは腹腔鏡下肝切除で、当センターは施設基準を満たし、肝部分切除だけでなく、区域切除・葉切除などの系統的切除も積極的に行っております。
腹腔鏡下肝切除
当センターは腹腔鏡下肝切除という体への負担が少ない手術を行っています。
肝切除手術には大きく分類すると、がんがある部分だけを小さく切除する“部分切除”と、がんがある領域を血管の走行に従って切除する“系統的切除”があります。系統的切除には比較的狭い範囲を切除する亜区域切除から区域切除、左右のおよそ半分を切除する葉切除まであり、系統的切除まで腹腔鏡下手術で行うには厳しい施設基準があります。しかし、当センターではその基準を満たしていますので、部分切除から系統的切除までを腹腔鏡手術で行うことができます。
メリット・デメリット
腹腔鏡下肝切除のメリットとしては、以下のような点が挙げられます。
- 患者さんの体への負担が少ない
肝切除のメリットは、病気が根本的に治る可能性があるということです。また、腹腔鏡下肝切除では、開腹手術に比べて傷が小さく済むので出血量や痛みが少ないほか、術後の回復が早い、整容性に優れているといったメリットがあります。
一方、リスクとして以下の点を頭に入れておく必要があります。
- 開腹手術に比べて手術時間が長くなる
腹腔鏡下手術では、がんのある部位によっては1つの腫瘍を摘出するのに1〜2時間かかることもあるため、がんの数が多い場合には開腹手術が検討されます。
適応
腹腔鏡下肝切除の適応はがんの数、大きさ、位置のほか肝機能などから検討されます。肝機能の状態がよい場合で、がんの数が少なく、大きさが小さいことに加え、切除しやすい位置にある場合には腹腔鏡下手術ができる可能性が高いです。
適応としてがんの数は3つ以内とされることが一般的ですが、当センターでは発生している位置が肝臓の表面に近く、切除が難しくないと判断される場合には、4〜5つあっても腹腔鏡下手術が検討されることがあります。
一方、腹腔鏡下手術が難しく開腹手術が検討される事例としては、肝機能や全身の状態が悪く長時間の手術に耐えられない場合や、がんの数が多く1つひとつのがんが取りにくい位置にある場合、がんが大きすぎて腹腔鏡で取り出すのが難しい場合などが挙げられます。また、胆管の再建が必要な手術になる場合、腹腔鏡下手術の保険適用とはなっていないため開腹手術が検討されます。
入院スケジュール・費用
入院期間は患者さんによっても異なりますが、当院での平均は腹腔鏡下手術の場合はトータルで5〜10日間程度(術前2日前入院、術後3〜7日目退院)、開腹手術の場合は全体で7〜14日間程度(術前2日前入院、術後5〜12日目退院)となります。
また、費用は3割負担の場合、およそ50〜80万円、開腹手術の場合はおよそ40〜60万円です。こちらも患者さんの状態などによって異なるほか、手術の方法によっても変動するので詳しくは担当医に確認してください。
ラジオ波凝固療法
当センターでは、ラジオ波凝固療法も実施しています。ただし、皮膚表面から針を挿入することが困難な場合には、腹腔鏡を用いて治療を行うこともあります。
メリット・デメリット
ラジオ波凝固療法のメリットとしては、以下のような点が挙げられます。
- 手術よりも患者さんの体にかかる負担が小さい
がんの大きさや数によっては手術治療に次ぐ根治性があり、手術をしなくても治せる可能性もあります。
一方、リスクとして以下の点を頭に入れておく必要があります。
- 根治性が劣る可能性
転移性肝がんでは、手術治療に比較して根治性に劣る可能性があります。そのため、当センターでは手術治療を第一に行っていますが、がんや患者さんの状態によってラジオ波凝固療法を提案することもあります。
適応
ラジオ波凝固療法は、腫瘍が小さく(3cm以内)、数も少ない(3つ以下)場合に選択されます。
がんの数が1つの場合には手術治療が検討されますが、2〜3つある場合には、位置・大きさなどを踏まえて手術治療とラジオ波凝固療法から治療方法を選択することが一般的です。また、がんの数や大きさ、位置的には手術可能な場合でも、肝機能の低下や年齢、患者さん本人の希望などで手術が難しい方に対して行われることがあります。
一方、腫瘍が大きい場合や腫瘍が肝臓の外に飛び出している場合には適応とならないことがあります。ある程度の大きさであれば、手術が難しい場合には針を複数回挿入することによって位置をずらしながら焼くことを検討しますが、焼き残しが生じやすく、複数回焼くことにより焼いてはいけない血管や胆管などを焼いてしまうリスクがあるため、慎重な判断が必要です。
また肝細胞がんで、がんが肝臓の表面から飛び出て存在している場合には腫瘍を焼くことによってがんが体内に散らばってしまう危険性があるため、ラジオ波凝固療法以外の治療方法が検討されます。
入院スケジュール・費用
入院期間は患者さんによっても異なりますが、当センターでの平均は全体で10日間程度(治療2日前入院、治療後7日目退院)となります。費用は保険適用となり、患者さんの状態などによって異なりますが、3割負担の場合でおよそ20万円程度です。
肝動脈塞栓化学療法
当センターでは経験を積んだ放射線科医が治療にあたり、患者さんの状態に合わせて治療の方法を検討します。
メリット・デメリット
肝動脈塞栓化学療法のメリットとしては、以下のような点が挙げられます。
- ほかの治療が難しい患者さんにも治療を行うことができる
患者さんやがんの状態によって手術やラジオ波凝固療法が難しい場合にも、肝動脈塞栓化学療法であれば治療ができます。
一方、リスクとして以下の点を頭に入れておく必要があります。
- 根治性が劣る
これまでお話してきた治療方法と比較すると根治性が劣ることが挙げられます。長期的に効果が持続し、根治に近づく方もいますが、がんに別の血流が流れ込むことによって再増大してしまうこともあります。また、治療によって血管を塞栓してしまうので、再発した際に同じ血管に対して治療を行えないことがあります。
適応
肝機能がやや低下している方で、腫瘍の大きさが大きく、数が多い(4個以上)場合に選択されます。肝機能や腫瘍の状態で、手術やラジオ波凝固療法が難しい場合にも治療ができます。
入院スケジュール・費用
入院期間は患者さんによっても異なりますが、当センターでの平均は全体で7日間程度(治療1日前入院、治療後5日目退院)となります。費用は保険適用となり、患者さんの状態などによって異なりますが、3割負担の場合でおよそ20万円です。
診療体制・医師
肝臓に発生するがんの治療には、専門的な知識と経験が必要とされます。基本的には肝臓がんのガイドラインに沿って患者さんに合わせた治療方針を計画していますが、手術が難しい場合でも「状況を打開する方法を模索し続け、安易に諦めない」ということを大切にして治療にあたっています。
治療方針を決めるためには肝胆膵外科だけではなく、消化器内科や放射線科、病理検査科など、さまざまな分野の医師および医療スタッフとの意見交換が大切です。そこで当センターでは、週に1回の肝胆膵に関連する4科のカンファレンスを行い、患者さんによりよい治療を提案できるよう意見交換や情報共有、検討などを行っています。
受診の流れ
都立多摩総合医療センターでは、肝臓がんの診療にあたり以下のような予約受付、および診療を行っています。
初診の流れ
当院では、救急受診の場合を除き、原則紹介予約制をとっております。
初めて受診される方は、事前に現在かかっている医療機関の診療情報提供書(紹介状)をご準備いただき、電話予約センターにてご希望の診療科にご予約ください。名刺や検査結果、健康診断結果(一部例外あり)のみでは、診療情報提供書の代わりにはなりませんのでご注意ください。
なお、紹介状のない患者さんについては、5,000円の特定病院非紹介患者初診加算料をいただいています。ただし、診療科によっては紹介状がなければ予約を受け付けられない場合もありますので、ご了承ください。
電話予約センターで予約する方へ
受付対象者
- 当院で初めて診療を受ける方
- 過去に受診したことがあるが、今回受診する診療科は初めての方
- 前回受診から3か月以上経過している方
ただし、医師の指示で受診期間を空けた場合は除きます。
受付時間
- 予約センター専用電話番号:042-323-9200
- 電話予約受付日時:9:00~17:00/月~土曜日
予約は、受診日の前日15:00までの受付です。当日の予約は承っておりません。なお、予約受付時間9:00~13:00までは電話が集中し、大変つながりにくくなっております。
また、初診の方は、予約時間の40分前まで(予約時間9時の場合に限り、8時30分)にお越しください。“診療受付(1番窓口)”で手続きを行ってください。
予約日にお持ちいただくもの
- 診療情報提供書(紹介状)
- 健康保険証
- 各医療受給者証(お持ちの方)
診察・診断の流れ
肝臓がんの診断方法
検診などで肝臓がんが疑われた場合、まずは超音波検査やCT検査などの画像検査によって気になる病変を調べます。その後、がんの種類などの確認や診断を確定するために肝臓に針を刺して組織を採取し、顕微鏡で見る病理検査を行います。
病理検査の結果がんと診断された場合には、がんの広がりや転移の状態、肝機能の状態などを調べるために、血液検査のほかMRI検査や造影剤を使用した超音波検査などを実施します。
治療方針の決定方法
肝臓がんの治療は、日本肝臓学会が発行する『肝癌診療ガイドライン』に沿って検討します。
ただし、実際は肝機能がどの程度保たれているか、腫瘍の数やその大きさ、部位、患者の年齢、希望などの背景に応じて治療方針を検討する必要があるため、当院では消化器内科・放射線科・病理検査科・外科の4科で週に1回のカンファレンスを行い、それぞれの意見を交換しながら治療方針を決定します。
入院が必要になる場合
肝臓がんの治療中で入院が必要となるのは主に手術治療、ラジオ波凝固療法、肝動脈塞栓化学療法です。分子標的薬などの薬物療法は外来で行われることが一般的ですが、必要に応じて入院いただくこともあります。
患者さんのために病院が力を入れていること
先進医療を提供し、患者さんに安心して治療を受けていただけるかをもっとも大切にして取り組んでいます。
がん治療としてとりわけ注力しているのは、キャンサーボードです。キャンサーボードとは、診療科や職種の垣根を超えてがん患者さんの治療方針について一丸となって検討するチーム医療のことをいいます。当院では病院全体の定例キャンサーボードとして、月に1回全体のカンファレンスを行っているほか、肝臓がんを診療する肝胆膵に関連する診療科4科(消化器内科・放射線科・病理検査科・外科)で週1回のカンファレンスを実施しています。
また、このほかにも緩和ケアチームやがん相談支援センター、地域連携クリティカルパスを完備し、患者さんのサポートにあたっています。
先生からのメッセージ
肝臓がんにはさまざまな治療方法があります。当センターでは「がん治療といえば手術」というように手術治療にこだわりすぎず、さまざまな治療方法の中から患者さんに合った治療方法を検討し、患者さんの希望も踏まえながら一緒に考えていきたいと思っています。
また、手術治療をする際には腹腔鏡下手術が実施できますので、適応のある方は開腹手術よりも小さい負担で治療を受けることが可能です。治療方針を決める際は、不安なことや気になることがたくさんあると思いますので、当センターに何でもご相談いただきたいと思います。