消化器外科

胃がん~機能温存手術で後遺症を軽減する~

最終更新日
2021年04月16日
胃がん~機能温存手術で後遺症を軽減する~

がん研有明病院は東京都江東区に位置する日本初のがん専門病院です。1934年に開院して以来、日本のがん医療の中心としてさまざまながんの治療に従事してきました。

胃外科部長の布部創也(ぬのべそうや)先生は消化器外科の医師として、胃がんを中心に治療に尽力されてきました。今回は布部先生にがん研有明病院の胃がん治療の特色や取り組みについてお話を伺いました。

胃がんの一般的な治療方法についてはこちら

治療・取り組み

がん研有明病院では、胃がんに対する機能温存手術やロボット支援下手術を積極的に行っています。

胃を少しでも多く残す“機能温存手術”

胃がんの手術では、胃の全てあるいは一部を切除するため消化機能が弱くなり、術後の食生活などに悪影響が生じることがあります。特に早期胃がんの場合、手術によってがんが治っても、胃が小さくなることによって術後の生活の質が落ちてしまうことが懸念されます。そこで、当院ではよりよい術後のQOLを目指して機能温存手術を行っています。

がん研有明病院で行われている胃の機能温存手術

  • 幽門保存胃切除……機能温存手術としてもっとも代表的な術式です。胃の出口(幽門(ゆうもん))を温存して胃の中央部の半分を切除する手術です。幽門を残すことによって、食べ物がゆっくりと十二指腸に流れ込むなるほか、十二指腸液が胃に逆流する心配がなくなるため、術後の生活の質の向上が期待できます。
  • 噴門側胃切除術……胃の入り口側の約3分の1を切除する手術です。この手術では、胃から食道への逆流を防止する機能を持つ噴門を切除するため、術後に胃酸の逆流が起こることが懸念されてきました。しかし、当院では観音開き法再建と呼ばれる吻合方法によって術後の後遺症を極力少なくする工夫を行っています。
  • 胃亜全摘術……胃の上部を残したうえで、中央部から幽門までを切除する手術です。胃の上部には食道への逆流防止弁である噴門や、食欲に関連するホルモンを分泌する部位があるといわれています。そのため、胃の上部を残して手術をすると、全摘をした場合よりも逆流などの後遺症が少なく、術後の栄養状態もよくなることが期待されます。

機能温存手術のメリット・デメリット

機能温存手術のメリットとしては、以下のような点が挙げられます。

  • 後遺症を軽減できる

胃を切除する手術を行うと1度に取れる食事量が減り、栄養状態が悪化するため、体重が大きく減少することがあります。また、食べ物が胃で十分に分解されないまま小腸へ流れていきやすいので、食後に気分が悪くなったり(ダンピング症状)、下痢や食後の腹痛などの症状が現れたりすることもあります。

しかし、機能温存手術を行うとこれらの症状が生じにくく、生じた場合でも軽度で済むことが期待できます。

一方、リスクとして以下の点を頭に入れておく必要があります。

  • がんを取り残す恐れがある

通常がんの術前診断の正確度は70~80%といわれており、手術をしてみたら思った以上に進行したがんだったということもありえます。

当院では、機能を温存しながらもきちんとがんを取り切れるよう、事前の検査として通常の内視鏡検査やCT検査だけでなく、特殊な光を当てて細かい血管などを詳しく見るNBI内視鏡検査や超音波内視鏡検査などを行うこともあるほか、手術中も術中迅速病理検査を行うなどして、がんの範囲を正確に掴むことを心がけています。

また、機能温存術はただ胃を残せばよいというものでもありません。そのため機能温存に重点を置き、その術式に慣れた施設で治療を受けることが大切です。

適応

機能温存手術の主な適応しては、早期胃がんの方が挙げられます。また、胃全摘が必要な患者さんであっても、年齢や全身状態から少しでも全摘を避けたほうがよいと判断される場合には、機能温存手術が検討されます。

具体的な適応としては、早期がんで胃の中部に位置し、幽門から4cm以上離れているものは“幽門保存胃切除術”、胃の上部に位置するがんで、胃の2/3以上を温存できると判断できるものは“噴門側胃切除術”、早期がんで胃の上部に位置するが、噴門から3cmほど距離があれば“胃亜全摘術”が検討されることが一般的です。

ロボット支援下手術

当院では、2019年より手術用ロボットを用いた胃がん手術も実施しています。

胃がんのロボット支援下手術は2018年4月より保険適応されるようになりましたが、実施するためには、日本内視鏡外科学会が定める施設基準を満たすことが求められます。当院は施設基準を満たし、同学会の認定するロボット支援下認定プロクター(胃)を中心にロボット支援下手術にあたっております。さらに、2019年12月には3台目の手術用ロボットを導入するなど、より多くの患者さんが手術を受けられる環境づくりが進められています。

胃がん手術の入院期間・費用

胃がんの手術を受けた場合の入院期間は患者の状態によっても異なりますが、手術の前日から入院していただき、術後8日程度療養していただくことが一般的で、トータル10日間程度と考えられます。また、費用は保険適用となり、患者さんの状態などによって異なります。ただし、高額医療費制度などが活用でき、実際に負担する費用が異なる場合もありますので、詳しくは病院にご確認ください。

胃の粘膜下腫瘍(ねんまくかしゅよう)に対する手術

このほか当院の特徴としては、胃粘膜下腫瘍の手術治療に関して豊富な経験があることが挙げられます。胃粘膜下腫瘍とは胃がんとは異なる病気でリンパ節などへ転移しにくいため、胃がんよりも予後がよいことが一般的です。種類が豊富で良性、悪性のさまざまな腫瘍が含まれ、代表的な病気に消化管間質腫瘍(GIST)があります。GISTや2cm以上の粘膜下腫瘍が生じた場合には、手術治療が必要となってきます。

胃粘膜下腫瘍の腹腔鏡(ふくくうきょう)・内視鏡合同手術(LECS)

当院では、胃粘膜下腫瘍に対する新しい手術方法として腹腔鏡・内視鏡合同手術(LECS)を開発しました。名称のとおり、外科医の腹腔鏡下胃局所手術と内科医の内視鏡(胃カメラ)治療を同時に行う治療方法で、従来の手術方法よりも胃の過剰な切除を避けることができ、また定型的な胃切除を避け得る治療と考えられます。

従来この治療は外科医による腹腔鏡下手術のみで完結されていましたが、腹腔鏡によって胃の外側からのみ治療を行うと、腫瘍に対して過剰に胃壁を切除してしまうことがありました。そこで、腹腔鏡下手術と同時に口から胃カメラを入れ、胃を内部からも観察しながら手術を進めるようにしたところ、切除範囲をより正確に定めることができるようになり、切除範囲が最小限で済むようになりました。

2014年には保険適応となり、現在はさまざまな医療機関で行われるようになっています。

その他の胃がん治療

  • 手術
  • 内視鏡治療
  • 化学療法

診療体制・医師

受診方法

写真:胃外科の先生方

当院はがん専門病院として総合力の高いがん治療の提供に努めています。さらに、それぞれの診療科の医師やスタッフが高い技術を持ち、協力して患者さんを診る体制が整っています。

とりわけ特徴的なのは、診断に至るまでの検査スピードの速さです。がんの診断や治療方針の決定までにはさまざまな検査を受ける必要があり、一般的には全ての検査が終わるまでに1か月以上かかることも少なくありません。

しかし当院は内視鏡科、放射線治療科などの診療科の連携・協力もあり、短期間に外来で全ての検査を行うことが可能です。検査がスピーディーに完了すれば、それだけ治療も早く行うことができます。このように、がんの治療時期を逃さずに治療に臨める体制がある医療機関として体制を整えています。

受診方法

がん研有明病院では、以下のように予約受付および診療を行っています。

初診の流れ

当院の診療は原則予約制となっているため、初診の方は診療予約室に直接電話にて診療の予約をとってください。また、基本的には紹介状が必ず必要です。そのため、紹介状がない場合は、まずほかの医療機関を受診後、治療を要する、精査が必要、等の紹介状をご準備ください。

詳しくは「がん研有明病院の診療案内ページ」を参照ください。

診察を担当する医師

診療を担当する医師については、希望があれば初診時に指名をすることも可能です。お気軽にお申し付けください。ただし、どの診療科・医師を受診した場合でも、治療方針についてはカンファレンスで相談して決定するため、大きな違いが生じることはありません。

診察・診断の流れ

胃がんの診断方法

胃がんの疑いがある場合、まずは確定診断のために内視鏡検査を行います。内視鏡検査で病変を採取し、病理検査*を行うことでがんを確定診断することができます。がんと診断された場合、続いてがんの進行度合いや周囲の臓器、リンパ節などの転移の状態を調べるためにCT検査が行われます。場合によっては腹部超音波検査や胃X線検査、超音波内視鏡検査が行われることがあります。

*病理検査……細胞や組織を採取し、顕微鏡で見る検査

治療方針の決定方法

当院では患者さんの希望を伺いながら、毎週行われるカンファレンスによって治療方針を決定しています。

胃がん症例全例について話し合う胃がんカンファレンス

胃がんの治療方針は、日本胃癌学会の胃癌治療ガイドラインに基づいて決定されることが一般的です。ガイドラインに即した治療を行う患者さんについては、胃がんを専門に扱う医師が集まって行う胃がんカンファレンスにて、全例治療方針を話し合って決めています。外科はもちろん、内視鏡治療の医師や化学療法の医師が集まって、その患者さんに適した治療方法について話し合います。

治療選択に悩む症例を集めた消化器センターキャンサーボード

ガイドラインがあっても治療選択に迷ってしまうような症例もあります。当院ではこのような症例に出会った際に担当医が一人で治療方針を決定するのではなく、内科医・外科医など複数の専門家が話し合って治療方針を決定できるよう、消化器センターキャンサーボードと呼ばれるカンファレンスを行っています。近年、あらゆる病院でキャンサーボードが行われていますが、当院は導入時期が早く、各診療科の風通しもよいため、闊達な意見交換が行われていることが特徴です。また、臨床試験にも積極的に取り組んでいるため、条件に合致する患者さんがいらっしゃったときは、内容をじっくり説明し、患者さんにご了承いただいたうえで臨床試験に参加いただくことがあります。

入院が必要になる場合

胃がん治療において入院が必要となるのは、手術治療です。また化学療法も初回だけは入院治療で行って副作用の状態などを確認し、次回以降は外来で受診いただくことが多いです。

患者さんのために病院が力を入れていること

胃がんの手術では、周術期(手術前後)の管理が非常に大切です。そこで当院では、多職種による周術期管理チーム“PERICAN(Perioperative team at Cancer Institute Hospital)”を結成し、一丸となって患者さんのケアにあたっています。たとえば、胃がんの周術期管理としては、管理栄養士による栄養管理が欠かせません。手術後は大きく体重や筋肉量が減少する方もいますので、生活の質を落としてしまわないように、主に術後の栄養指導を行っています。また、理学療法士によるリハビリテーションも大切です。手術が決定した段階で介入し、術前に体力チェックや指導を行います。また、術後の運動指導も行い、筋力低下の予防に取り組んでいます。

このようにさまざまなケアを行うことにより、がんを治すだけでなく、術後の生活の質を高めることを目指しています。

先生からのメッセージ

胃がんは診断・手術・術後の管理・薬物療法などさまざまな技術を組み合わせて治療を行う必要があります。そのため各診療科が高いレベルの診療体制を持ち、さらにはさまざまな科の協力体制が整っているような総合力の高い病院で治療を受けていただきたいと思っています。

また、がん治療においては医師と患者さんが信頼関係を築き、患者さん自身が納得して治療を受けることが大切です。今は患者さんが病院や医師を選べる時代ですので、「この人に任せたい」という医師に出会えるよう、ぜひセカンドオピニオンを利用することなどを検討してみてください。

がん研究会有明病院

〒135-8550 東京都江東区有明3丁目8-31 GoogleMapで見る