大腸がん~多数の診療実績を誇る がん専門病院の大腸がん治療~
東京都江東区に位置するがん研有明病院は、がん専門病院としてさまざまながんの治療にあたっています。消化器センター・大腸外科部長の福長洋介先生は消化器外科をご専門とされ、大腸がんの治療に従事してきました。今回は、福長先生にがん研有明病院における大腸がんの治療の特色や診療体制についてお話を伺いました。
大腸がんの一般的な治療方法についてはこちら
大腸がんに対するがん研有明病院の取り組み
当院では、大腸がんに対する腹腔鏡下手術に注力しています。また、直腸がんに対しては2018年より保険収載となったロボット支援下手術も実施しています。
大腸がんの腹腔鏡下手術
がん研有明病院では2021年7月時点で、術者となる6名の医師が日本内視鏡外科学会の技術認定医資格を有しています。そのため当院では、手術可能な結腸がんのおよそ95%、また直腸がんではほぼ100%の症例で腹腔鏡下手術(ロボット支援下手術も含む)*による大腸がん手術を行っています。
*直腸がんの場合、ロボット支援下手術も腹腔鏡下手術の1つとして捉えられます。
腹腔鏡下手術のメリット・デメリット
腹腔鏡下手術の主なメリットは以下のとおりです。
患者さんの回復が早い
腹腔鏡下手術は手術の際の傷が小さく、痛みが少なく済みます。また、術後早い段階で食事が取れることや開腹手術のように消化管が大気にさらされないため、合併症などが生じにくいことも理由と考えられます。
高性能の小型カメラで内部を詳しく見ることができるため視野がよく、開腹手術のように肉眼で内部を見るよりもがんをしっかり取り切ることが期待できる
一方、以下の点には注意が必要です。
医療機関ごとに技術の習熟度が大きく異なる
手術を受ける際には豊富な手術経験や治療成績のある医療機関を選択することが大切です。
腹腔鏡下手術の適応
前述のとおり、当院では手術治療ができるほとんどの患者さんに対し、腹腔鏡下手術(ロボット支援下手術も含む)を行っています。腹腔鏡下手術が取り入れられた当初は早期がんに対してのみ行われていましたが、現在は進行がんでも腹腔鏡下手術で治療できるケースがほとんどです。そのため、直腸がんの場合では腹腔鏡下手術の適応とならないものはほとんどないといってよいでしょう。
一方、結腸がんではごく一部で腹腔鏡下手術が適応とならない症例もあります。たとえば、肝臓に転移のある結腸がんは、原発巣である大腸のがんと転移した肝臓のがんを1度の手術でまとめて切除することもあります。このような場合、肝臓のがんを取り除くには開腹手術が必要となることがあるため、大腸がんも腹腔鏡下手術ではなく開腹手術で同時に切除することが一般的です。
直腸がんのロボット支援下手術
ロボット支援下手術とは腹腔鏡下手術の一種で、手術用ロボットを用いて行われます。通常の腹腔鏡下手術と比較すると体に入るロボットアームが多関節で動かしやすく、モニターに映る映像も立体的なので、より細かい作業に適しているといわれています。
大腸がんでは、直腸がんの手術において2018年からロボット支援下手術が保険適用となりました。当院でも2018年5月より導入を開始し、症例によって腹腔鏡下手術とロボット支援下手術のいずれかを選択する体制をとっています。現在の比率としては腹腔鏡下手術とロボット支援下手術が2:1の割合で行われています。これから手術用ロボットがさらに発展すれば、ロボット支援下手術による直腸がん手術の比率もさらに高まると考えられます。
ロボット支援下手術のメリット・デメリット
ロボット支援下手術のメリットは以下のとおりです。
腹腔鏡下手術と同様に、患者さんの回復が早く視野がよい
術者がスムーズに手術を行える
腹腔鏡下手術では術者のほかに鉗子やカメラを動かす助手が2人おり、計3人で手術を行いますが、腹腔鏡下手術では全て術者がコントロールできるという利点があります。また、多関節のロボットアームを使用して手術を行うため組織同士の剥離がしやすく、骨盤の奥深くにある直腸に対してもスムーズに治療ができます。
一方、大きなデメリットはありませんが、以下の点には注意が必要です。
現段階ではロボット支援下手術に適さない症例もある
ロボット支援下手術の適応
ロボット支援下手術は、直腸がんのなかでも特に肛門に近い部位にがんがあるケースで検討されます。肛門に近い部分はお腹側から手術を行う場合、骨盤の深い位置にあるため手術がしにくく、多関節のロボットアームが使えるロボット支援下手術の利点を活かしやすいと考えられています。
一方ロボット支援下手術が適さない症例としては、ほかの臓器への浸潤があり、手術による切除範囲が広い症例が挙げられます。このような手術では出血量が多くなりやすく、カメラの視野が取りにくくなってしまいますので、腹腔鏡下手術あるいは肛門側から切除する手術などが検討されます。
大腸がん手術の入院スケジュール・費用
腹腔鏡下手術で結腸がんの手術を行った場合、個人差がありますが術後の入院期間は7日間程度となることが一般的です。
また、直腸がんの場合には腹腔鏡下手術でもロボット支援下手術でも、一時的に人工肛門となる場合もあり術後の管理が必要なので、念のため7~10日間程度入院することが多いです。腹腔鏡下手術やロボット支援下手術は、開腹手術と比較すると腸管の機能が回復する速度が早く、術後翌日は水を飲めることが一般的です。そこから徐々に食事も取れるようになっていきます。
また、費用は健康保険が適用可能です。加えて、高額療養費制度を活用すればさらに支払額が抑えられます。ただし患者さんによって費用は変わりますので、詳しくは受診する医療機関に尋ねてみるとよいでしょう。
その他の治療方法
当院ではがんの進行度合いや患者さんの状態・希望に応じて、さまざまな治療方法を用意して治療にあたっています。とりわけステージIII以降の直腸がん患者さんでは、仮に手術ができた場合でも薬物治療や放射線治療を組み合わせることが大切です。実施している主な治療は以下のとおりです。
がん研有明病院の大腸がん治療
- 手術治療
- 内視鏡治療
- 放射線治療
- 薬物治療
診療体制・医師
大腸外科の先生方
当院では、大腸がんを専門とする外科医・内科医・薬物治療の医師などがチームとなって大腸がん治療に従事しています。近年、大腸がんは仮に手術が難しいと判断された進行がんであっても、薬物治療や放射線治療を行うことによってがんが小さくなり、手術が可能となるケースが増えてきています。当院でもさまざまな診療科の医師が協力することによって、複数の治療を組み合わせて行う“集学的治療”を熱心に行っています。また、治療のタイミングを逃さないよう、どの患者さんに対しても2週間以内に治療方針を決定し、速やかに治療を行います。
また、食道・胃・大腸・肝胆膵など消化器外科全体のカンファレンスも実施しており、外科治療内での治療選択についても意見交換をしながら決定しています。
人工肛門の管理を行う認定看護師が多く在籍
直腸がんの患者さんで「肛門を温存して手術を受けたい」という希望がある場合には、患者さんの希望と病気の状態を考慮し、医師同士で話し合いながら可能な範囲で肛門温存術を検討します。ただし、肛門温存術を行うことで便漏れなどの機能障害が懸念されるケースでは、患者さんとよく相談して人工肛門を検討することもあります。
当院は、人工肛門の患者さんをケアする皮膚・排泄ケア看護師(WOC看護認定看護師)*も多く在籍しています。人工肛門が必要になる場合、どの装具を使用するか、装具を貼り付けている皮膚にダメージがないかどうかなど注意が必要な点がいくつかあります。そのため、日常生活に支障が出ないよう専門の看護師がケアを行います。
*認定団体:日本看護協会
診療実績
大腸がん手術件数(2017年1月~12月)
腹腔鏡下手術:699件
開腹手術:38件
合計:737件
受診方法
がん研有明病院では、大腸がんの診療にあたり以下のような予約受付、および診療を行っています。
初診の流れ
当院の診療は原則予約制となっているため、初診の方は診療予約室に直接電話にて診療の予約をとってください。また、基本的には紹介状が必要です。そのため、紹介状がない場合は、まずほかの医療機関を受診後、治療を要する、精査が必要などの紹介状をご準備ください。
詳しくは「がん研有明病院の診療案内ページ」を参照ください。
診察を担当する医師
診療を担当する医師については、希望があれば初診時に指名をすることも可能です。お気軽にお申し付けください。ただし、どの診療科・医師を受診した場合でも、治療方針についてはカンファレンスで相談して決定するため、大きな違いが生じることはありません。
診察・診断の流れ
大腸がんの診断方法
大腸がん検診の便潜血検査などで異常が見つかった場合、大腸内視鏡検査によって病変の位置や大きさを調べます。また検査中に病変の全体や一部を採取し、病理検査*を行うことでがんの確定診断を行います。
大腸内視鏡検査で大腸がんと診断された場合、今度はがんの広がりや転移を調べるためにCT検査やMRI検査などの画像検査が行われます。これらの画像を元に治療方針の決定を行います。
*病理検査:病変を採取し、顕微鏡で見る検査
治療方針の決定方法
がん治療においては、各学会の発行するガイドラインに沿って治療を検討することが一般的です。当院では手術治療については日本のガイドラインを参考にするほか、集学的治療*についてはアメリカやヨーロッパなど海外のガイドラインを参考にして治療方針を決定しています。そのほか、がん専門病院として多くの大腸がんを治療してきたことにより集積されたデータを元に治療方針を検討することもあります。
また、治療方針を決める際は外科・内科・薬物治療の専門医など複数の診療科でカンファレンスを行い、意見交換をしながら治療を決定しています。
*集学的治療:手術治療・薬物治療・放射線治療など複数の治療方法を組み合わせて行う治療
入院が必要になる場合
大腸がん治療では、手術治療の際に入院が必要となります。また、化学療法を行う際も1回目は入院で行い、副作用の状態などを確認した後、外来による治療を行うことが一般的です。放射線治療においても、患者さんの体の状態などによっては入院が検討されます。
患者さんのために病院が力を入れていること
当院ではがん治療を受ける方のトータルサポートを目指し、さまざまな取り組みを行っています。たとえばがんによる肉体的、精神的な痛みをサポートする緩和ケアでは、腫瘍内科、外科、腫瘍精神科などさまざまな医師のほか、看護師や薬剤師などの多職種が一丸となって患者さんの痛みを緩和する治療を実施しています。また、日常生活において困ったことがあれば、がん相談支援センターを利用することも可能です。
検診センターの充実
当院では検診センターを構え、がんの早期発見を目指して検診を行っています。大腸がんはある程度進行しても根治が期待できるがんではありますが、それでも早期発見・治療ができるに越したことはありません。しかし、発見・診断率の高い大腸内視鏡検査は2Lもの下剤を飲まなければならないなど肉体的な負担が大きく、「できれば受けたくない」と考える方が多いようです。
そこで当院では、検診のオプションとして大腸内視鏡検査の代わりにバーチャルコロノグラフィー検査を実施しています。この検査は大腸を空気で膨らませた後、CTを撮影して内部の様子を確認する検査です。大腸内視鏡検査よりも少ない体の負担で検査を受けることが可能ですが、もしこの検査で疑わしい病変が見つかった場合には、最終的に大腸内視鏡検査を行う必要があります。
先生からのメッセージ
大腸がんは、進行して手術が難しいと判断される場合でも、薬物治療や放射線治療を行うことによって手術が可能となることがあります。また、ほかのがんと違って肝臓や肺などほかの臓器に転移があっても、手術によって根治を目指せることがあります。そのため、診断されても悲観的になりすぎず、前向きに治療を受けていただきたいと思います。
病院選びで迷ったときは症例数が多く、認定医が在籍している病院を選ぶとよいでしょう。多くの医療機関はホームページで情報を掲載しておりますので、よく調べてセカンドオピニオンを受診するなど、納得の行く治療を受けることをおすすめします。
また、現在がんに罹患していない方には定期的に検診を受けてほしいと思います。2020年以降、新型コロナウイルス感染症の流行によって病院の受診を控える方が増えてきています。それに伴い、検診を受けていれば早期で見つかったかもしれないがんが、進行がんで見つかることも増加しています。医療機関でも感染対策をしっかり行っていますので、定期的な検診を受けること、気になる症状があれば病院を受診することを心がけましょう。