呼吸器内科
肺がん〜胸腔鏡下手術で患者さんの負担を最小限に〜
複十字病院は東京都清瀬市に位置する病院です。院長の大田 健先生は、1947年に結核の治療を目的に設立されたという背景から、肺炎・喘息・閉塞性肺疾患(COPD)などの呼吸器疾患の治療に熱心にあたっているほか、肺がん、消化器がん、乳がんでは東京都がん診療連携協力病院として、各がんにつき年間300人程度の患者さんを診療しています。また、呼吸器センター長(内科)とがんセンター長を兼任する吉森 浩三先生は、内科の医師として肺がんの治療に取り組んできました。また、がんセンター長として同院のがん治療の中心的存在を担っています。
今回は、大田先生と吉森先生に複十字病院における肺がん治療の特色や取り組みについてお話を伺いました。
肺がんの一般的な治療方法についてはこちら
治療・取り組み
複十字病院では、患者さんの生活の質を高める工夫をしながら治療にあたることを心がけています。年間300人ほどの新しい肺がん患者さんを迎え入れ、700人ほどの入院患者さんを受け入れており、入院患者さんの治療方針については、後述するキャンサーボードによって内科・外科・放射線科などの医師・医療従事者が意見交換をして決定します。
現在の内訳としては入院患者さんのおよそ40%は外科治療、40%程度は内科治療、残りの20%程度は緩和医療を行っており、手術が必要な患者さんに対しては、より患者さんの体への負担が小さい胸腔鏡下手術を積極的に行っています。
肺がんの胸腔鏡下手術
複十字病院では胸腔鏡下手術を積極的に取り入れることによって、患者さんにかかる負担を可能な限り最小限に減らすよう努めています。また術前に内科医が細かい画像診断を行い、それを外科医に共有しているため外科医が手術中に血管の位置などを把握しやすく、術中の出血量を抑えて輸血せずに手術が完了できることが多いです。
胸腔鏡下手術のメリット・デメリット
胸腔鏡下手術のメリットとしては、以下のような点が挙げられます。
患者さんの体にかかる負担が小さい
前述のとおり患者さんの体にかかる負担が小さいため、術後の傷が小さいので回復も早く、手術の翌日から歩行が可能になるほか、日常生活に早く戻れることが期待できます。また、開胸手術と比較して胸の筋肉を切る範囲が小さいので、手術による呼吸機能の損失を抑えることができます。
一方、デメリットとして以下の点を頭に入れておく必要があります。
術者の技術が必要
術者に胸腔鏡下手術特有の技術が必要であるため、受けられる施設が限られてしまうことが挙げられます。また術中に予期しない出血が現れたときには、カメラに映る視野が狭くなるため、途中で開胸手術に切り替えられることもあります。
胸腔鏡下手術の適応
胸腔鏡下手術は主に早期の肺がんを対象に検討されます。
がんの進行度合いはI〜IV期のステージで示されることが一般的ですが、当院ではI期の肺がん患者さんに対する胸腔鏡下手術を行うほか、II期以降の手術では胸腔鏡下手術と開胸手術を併用してできる限り小さな傷で済む手術を行っています。なお、I期の肺がん手術では、小さな穴のほかに6〜7cmの補助開胸創を用いて手術にあたっています。
胸腔鏡下手術の入院期間・費用
入院期間は個人差がありますが、通常は胸腔鏡下手後8〜10日間程度入院することになります。また、費用は保険適応で、3割負担の方の場合13〜17万円程度(入院費用を含む)と考えられます。ただし、費用も個人差があるため、詳しくは医療機関にご確認ください。
胸腔鏡下手術以外の肺がん治療
複十字病院では胸腔鏡下手術以外にもさまざまな治療を行っており、呼吸器内科・外科・放射線科などが連携して治療にあたっています。当院で診断前の検査から診断、治療(手術治療・薬物療法・放射線治療)までを一貫して受けることができるほか、術後5年間はかかりつけ医と連携をとって経過観察を行っています。
診療体制・医師
複数の診療科が連携して治療にあたる
当院の肺がん治療における最大の特徴は、呼吸器内科・外科・放射線科など複数の診療科における連携体制です。肺がんの治療において、内科・外科・放射線科それぞれの治療を組み合わせる“集学的治療”という考え方は欠かせません。
そこで当院では、週に1回各診療科の医師や薬剤師、理学療法士などの医療従事者が集まって患者さんの治療方針を相談したり、現在の様子を共有したりする“キャンサーボード”と呼ばれるカンファレンスを行っています。このカンファレンスを行うことにより、内科で行った画像診断の結果を外科や放射線科の医師も把握することができ、お互いの治療方針を理解したうえで患者さんの治療にあたることが可能になっています。
ほかの病気をお持ちの患者さんに対する管理体制も整えている
また、当院は呼吸器疾患に特化した病院として、がんとそれ以外の病気を併せ持つ患者さんにも積極的に治療を行っています。
たとえば、進行した慢性閉塞性肺疾患(COPD)を持つ肺がん患者さんは全身の状態が悪く全身麻酔ができないため、手術を検討しない医療機関も少なくありません。しかし、当院ではCOPDに対する治療を積極的に行うことによって手術ができるようになることもあるため、手術を視野に入れ積極的に治療を行うこともあります。このように、患者さんの生活の質を高めるためにさまざまな手段を使って治療を行うことが当院の特徴です。
複十字病院では、肺がんの診療にあたり以下のような予約受付、および診療を行っています。
受診方法
当院は紹介制を取っておりますので、受診を希望の際はほかの医療機関からの紹介状をご用意ください。紹介状をお持ちでない場合、診療にかかる費用とは別に特定初診料として5,500円(税込)を頂戴いたしますので、ご了承ください。
初診時の予約方法
当院では予約制を取っておりますので、初診の際は事前にお電話でお問い合わせください。なお、連絡先は紹介状をお持ちの方とそうでない方で異なりますのでご注意ください。受診当日のご予約は診療予約に空きがあれば可能ですので、ご相談ください。
予約時の連絡先
●紹介状をお持ちの場合
- 電話番号……042-491-9128(地域医療連携室)
- 受付時間……平日8:30〜17:00、土曜日8:30〜12:00(祝祭日・年末年始を除く)
●紹介状をお持ちでない場合
- 電話番号……042-491-6228(予約センター)
- 受付時間……月曜日〜金曜日:8:30~17:00、土曜日8:30〜12:00(祝祭日・年末年始を除く)
セカンドオピニオン外来
当院ではすでに肺がんと診断されている方を対象に、セカンドオピニオンを実施しています。完全予約制となっておりますので、担当医に相談のうえ、地域医療連携室へお電話でお問い合わせください。なお、相談時間と料金は30分までが1万1,000円(税込)、30〜60分までが2万2,000円(税込)です。
予約時の連絡先
- 電話番号……042-491-9128(地域医療連携室)
- 受付時間……平日8:30〜17:00、土曜日8:30〜12:00(祝祭日・年末年始を除く)
診察・診断の流れ
肺がんの診断方法
肺がんが疑われ、当院に紹介されてきた場合には、まず胸部CT検査によってがんが疑われる所見があるかどうかを調べます。
CT検査の結果、肺がんが疑わしい所見が見られた場合には、気管支鏡下検査や痰の中にがん細胞がないかどうかを調べる喀痰細胞診検査が行われます。気管支鏡下検査とは、小型カメラ(内視鏡)を鼻や口から挿入して気管支の中の様子を観察する検査です。この検査中に気管支内の細胞や組織を採取して、顕微鏡で見る病理検査が行われます。病理検査によってがんの確定診断が可能なほか、がんのタイプを示す組織型などがわかります。
がんと診断されたら、今度はがんの進行度合いを調べるためにPET-CT検査やMRI検査、骨シンチグラフィ検査などの画像検査が行われます。これらの検査結果をもとに、キャンサーボードと呼ばれる各診療科が集まるカンファレンスで治療方針を決定します。当院では、これらすべての検査を院内で行うことができ、ワンストップで診断から治療までを行うことができます。
治療方針の決定方法
肺がんの治療方針は日本肺癌学会が発行する『肺癌診療ガイドライン』に則って決定されます。当院でもこの指針に則りながら、キャンサーボードと呼ばれる呼吸器内科・外科・放射線科の医師や医療従事者が集まって行うカンファレンスのなかで、各専門家が意見を出し合い治療方針の決定を行っています。
入院が必要になる場合
肺がん治療のなかで入院が必要となるのは、手術治療、初回の薬物治療や放射線治療などです。薬物治療や放射線治療は初回のみ副作用等の確認のために入院となり、問題がなければ2回目以降から外来での受診となります。なお、診断前に行われる気管支鏡検査では、検査入院が必要です。
また、当院では新型コロナウイルス感染症の拡大防止のために、入院前には必ず患者さん全員にPCR検査を行い、安心して治療を受けていただけるよう努めています。
患者のために病院が力を入れていること
当院は地域医療支援病院として、自分や自分の家族がかかりたいと思える病院を目指しています。がん診療の場で特に力を入れているのは、緩和ケアやリハビリテーションです。
緩和ケア病棟を開設
緩和ケアでは、2020年11月に緩和ケア病棟をスタートさせ、がんによる苦痛を取り除く治療に従事しています。緩和ケアというと“最後の治療”というイメージを持つ方も多いのですが、そうとは限りません。治療中に感じる肉体的・精神的苦痛についても熱心に取り扱い、患者さんの生活の質の向上に取り組んでいます。また、ターミナルケアとしては、病棟に入院していただくこともありますが、患者さんの希望に合わせて自宅で過ごすこともできるようにケア体制を整えています。
症例数が豊富だからこそ行えるリハビリテーション
また、がん治療では治療後に普通の日常生活を送れるようにするため、リハビリテーションが重要な役割を持っています。当院では理学療法士が患者さんへ術前・術後の指導を行うことにより、早期退院や退院後の日常生活の復帰をサポートしています。特に肺がん患者さんの場合、年齢も高く喫煙歴の長い方が多いため、もともと呼吸機能が落ちているうえ、治療によって一時的に呼吸機能や筋力が落ちてしまう方も少なくありません。このような方が日常生活に戻った際に困らないよう、積極的なリハビリテーションを行っています。
先生からのメッセージ
肺がんの治療は近年飛躍的に進歩してきています。特に内科治療では、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬などの治療薬が発展してきたことにより、手術ができずこれまでなら余命6か月といわれていた方が4年ほど生きられるという例も出てきています。がんが進行してしまっている方でも適切な治療は必ずありますので、希望を持って治療に臨んでいただきたいと思います。
また、肺がんは自覚症状のない方も多いのですが、自覚症状があって病院にお越しになる方もいます。咳、血痰などの呼吸器症状や体重減少、食欲不振などの症状が現れたときは放っておかずに、すぐ病院を受診することを検討しましょう。