消化器外科

肝細胞がん~いろいろな外科治療~

最終更新日
2022年07月08日

肝細胞がんに対する北海道大学病院の取り組み

北海道大学病院は北海道札幌市に位置する大学病院です。2021年には設立100周年を迎えた歴史ある大学病院として、地域の方を中心にさまざまな病気の患者さんを治療しています。肝臓・下部消化管などを診療する消化器外科I教授の武冨 紹信(たけとみ あきのぶ)先生は、消化器外科・肝胆膵外科を専門とし、がんを中心とするさまざまな病気の治療にあたってきました。今回は武冨先生に北海道大学病院における肝細胞がん治療の特徴や取り組みについてお話を伺いました。

肝細胞がんの一般的な治療方法についてはこちら

治療・取り組み

当院では年間100例前後の肝切除を行っています。病気は肝細胞がんをはじめ、肝内胆管がん、転移性肝がんなどの肝悪性腫瘍(かんあくせいしゅよう)、北海道に特異的な肝エキノコックス症を対象としています。最近では患者さんの負担を軽減するため、可能な範囲で腹腔鏡下手術(ふくくうきょうかしゅじゅつ)を行っています。また肝機能が低下し、切除が難しい肝細胞がんの患者さんに対しては、肝移植を行うこともあります。

肝細胞がんの腹腔鏡下手術

腹腔鏡下手術とはお腹に小さな穴を開け、そこから小型カメラや鉗子と呼ばれる細い医療器具を入れて行う手術方法です。カメラで撮影した映像をモニターに映し、それを見ながら手術を行います。開腹手術と比較すると傷が小さく、患者さんの体に負担がかかりにくいことから“低侵襲手術(ていしんしゅうしゅじゅつ)”の1つとして知られています。当院では肝細胞がんで手術を行う患者さんのうち、2030%の方に対して腹腔鏡下手術を行っています。

腹腔鏡下手術のメリットと注意点

腹腔鏡下手術の大きなメリットは、患者さんの体に負担がかかりにくいことです。開腹手術と比較すると傷が小さく痛みや出血量が少ないため、術後の回復が早く、追加の治療や再手術にも有利と考えられています。また、術者にとってもモニターで内部を拡大しながら手術に臨めますので、細かい血管などをよく見ることができ、より緻密な手術ができるといえます。

一方注意点としては適応が限られることが挙げられます。腹腔鏡下手術を希望する方であっても、がんの大きさなどによっては開腹手術でしか治療を行えないことがあります。

腹腔鏡下手術の適応

肝細胞がんの手術治療は、開腹手術でも腹腔鏡下手術でもがんの大きさ、肝機能などから手術ができるかどうかを判断します。腫瘍が大きい場合、腫瘍の中に重要な血管が入り込んでいる場合、過去にも手術歴があってお腹の中に癒着が生じている場合などは腹腔鏡下手術が難しく、開腹手術を提案することもあります。

肝細胞がんに対する肝移植

肝移植とは肝機能の悪い方に対し、新しい肝臓を移植する手術のことです。健康な成人から肝臓の一部の提供を受ける“生体部分肝移植”と脳死した方から肝臓の提供を受ける“死体肝移植”が代表的で、当院ではさまざまな病気を合計してこれまでに生体肝移植を268例、脳死肝移植を58例行っています(20203月時点)。このうち、肝細胞がんに対する肝移植は2030%です。

肝移植のメリットと注意点

肝細胞がんに対する肝移植のメリットとしては、がんの治癒が見込めることのほか、肝機能が回復することによって長期生存を目指せるようになったり、生活の質(QOL)が向上したりすることが挙げられます。

注意点としては術後の回復にかなり時間がかかることや、重篤な合併症が起こる可能性があることが挙げられます。肝移植では他人の臓器を体に入れることになるため、術後に拒絶反応が生じる可能性があります。また生涯にわたって免疫抑制剤を服用する必要があるために、感染症などにかかりやすくなるほか、長期的にみると腎障害や悪性腫瘍の発生が懸念されます。術後の生活については、医師や看護師からしっかり説明を受けるようにしましょう。

肝細胞がんにおける肝移植の適応

肝移植は主に肝硬変を伴う肝細胞がんの患者さんに対して検討されます。がんの大きさが大きい場合やがんが多発している場合には、治療後に免疫抑制剤を飲む都合もあり術後の再発率が高いため、保険適用で肝移植を行える範囲は厳密に定められています。

具体的な適応としては、肝硬変の程度を示すChild-Pugh(チャイルド・ピュー)分類がCともっとも悪い方のうち、3cm以下の腫瘍が3個以内の方、あるいは5cm以内の腫瘍が1個以下の方(ミラノ基準)が適応とされていました。その後、適応拡大を図る目的で全国の移植後生存再発データを検討し、新しく5-5-500基準(5cm以内の腫瘍が5個以内、肝臓がんの腫瘍マーカーであるα-フェトプロテイン(AFP)500ngml以内)2019年に生体肝移植で、20202月に脳死肝移植で適応とされ、ミラノ基準と合わせて適応対象の拡大が見込まれています。

ただし、肺炎などの重症感染症のある方や肝臓以外にがんのある方、心肺機能の悪い方などは肝移植が行えない可能性があるため、ご注意ください。

消化器外科Iで行われている肝細胞がんに関する臨床研究

当診療科では肝細胞がんの患者さんに対してよりよい治療を提供できるよう、積極的に臨床研究を行っています。現在もさまざまな研究を行っており、その1つにがん周辺の環境に着目した“肝細胞がんの悪性度を制御するがん微小環境の役割の解明”があります。

肝細胞がんの悪性度を制御するがん微小環境の役割の解明

従来のがんの薬物治療といえば、がん細胞をターゲットとして攻撃することにより、がんの縮小を目指すことが一般的でした。しかし、近年はがん周辺の環境にはたらきかけることによってがんを小さくする治療の開発が進められてきています。2020年に肝細胞がんに対して使用が認可された免疫チェックポイント阻害薬と血管新生阻害剤の併用はその代表例であり、がん細胞そのものではなく、がん細胞を攻撃するT細胞のブレーキを外すことによって免疫を高め、がんを攻撃する力を強める効果が期待できます。

このようなことから、私たちもがん周辺の細胞に着目した研究を進めています。特に今私たちが注目しているのは、“線維芽細胞”と呼ばれる細胞です。がんの周辺にある線維芽細胞はがん関連線維芽細胞(CAF)と呼ばれ、そのほかの線維芽細胞とは性質が異なり、がんの増殖に関与しているといわれています。そこでCAFのはたらきを抑える治療薬を開発することによって、がんの縮小が目指せるのではないかと考えられています。当診療科では手術で切除した組織から培養を行い、これらの細胞についての研究を行っています。

肝細胞がんに対するそのほかの治療方法

当院では肝細胞がんに関わる消化器外科I、消化器内科、放射線治療科などの診療科が協力し、さまざまな治療方法を提供しています。以下では、外科治療以外の主な治療方法をご紹介します。

消化器内科による治療

  • ラジオ波凝固法(RFA)
  • エタノール注入療法(PEIT)
  • 肝動脈内抗がん剤投与による化学療法
  • 分子標的薬による治療

放射線治療科による治療

  • 肝動脈塞栓術(かんどうみゃくそくせんじゅつ)
  • 陽子線による治療
  • 動体追跡治療(腫瘍の近くにマーカーを埋め込み、動きを認識しながら行う放射線治療)

診療体制・医師

肝細胞がんの治療においては、さまざまな診療科の連携が欠かせません。そこで当院でも消化器外科I、消化器内科、放射線治療科、病理診断科などの診療科が集まって、週に1“キャンサーボード”と呼ばれるカンファレンスを実施しています。キャンサーボードでは、一人ひとりの患者さんの治療方針について話し合い、肝細胞がんの豊富な治療方法の中からその患者さんにとってより適した治療方法を検討します。

また消化器外科I内ではチーム制を採用し、1人の患者さんを複数の医師でサポートする体制を築いています。そのため患者さんが主治医を選択することはできませんが、医師がチームになって患者さんを診ることで、手術のチームワークが高まるほか、どんなときでも患者さんをフォローできるというメリットがあります。

受診方法  

当院は原則紹介制を取っております。ほかの医療機関からの紹介状をご用意ください。紹介状がない場合、受診の際には診療にかかる費用のほかに選定療養費として5,000円(税別)を頂戴いたしますのでご了承ください。

予約について  

当院は新規外来受診の患者さんに対して、予約制を取っております。予約なしで来院された場合、お待ちいただくこともありますのでご注意ください。現在受診中の医療機関からかかりつけ医を通して予約していただくか、患者さんご自身からのお電話で予約をお取りします。できる限り医療機関を通じて予約いただくことをお願いしておりますが、ご自身で予約を取る場合は以下の電話番号にお電話でお問い合わせください。

ご自身で予約を取る場合

  • 予約受付専用電話番号……011-706-7733
  • 予約受付時間……平日9:00~16:00(翌日の予約受付は15:00まで)

セカンドオピニオン外来 

当院では、すでに肝細胞がんと診断されている方を対象にセカンドオピニオン外来を実施しています。ご希望の患者さんは現在の主治医にご相談いただいたうえで、お電話でお問い合わせ・ご予約ください。1回の相談時間は45分で、主治医宛ての報告書作成15分を含めて合計1時間です。費用は30,000円(税別)です。

問い合わせ・申込先

北海道大学病院 医事課(新来予約担当)

  • 住所……〒060-8648 札幌市北区北14条西5丁目
  • 電話番号……011-706-6037
  • 受付時間……平日8:30~17:00
  • Fax……011-706-7963

診察・診断の流れ

肝細胞がんの診断方法

肝細胞がんが疑われる場合、まずはエコー検査、CT・MRI検査などの画像検査で病変の位置や大きさを確認します。併せて血液検査による腫瘍(しゅよう)マーカー検査を行い、異常値がないかどうかを確認します。

これらの検査で異常がみられた場合、確定診断のために肝臓に針を指して組織を採取する針生検が行われます。

治療方針の決定方法

肝細胞がんの治療方針は日本肝臓学会の発行する“肝がん診療ガイドライン”をもとに検討されます。また、肝細胞がんの治療にはさまざまな選択肢があり、がんの状態だけでなく年齢や全身状態、肝機能に応じて適したものを選択する必要があります。そのため、当院では消化器外科I、消化器内科、放射線治療科、病理診断科などさまざまな診療科の医師でカンファレンスを行い、各治療の専門家がその患者さんにより適した治療方針を話し合って治療方法を検討しています。

入院が必要になる場合

肝細胞がんの治療では、ほとんど全ての場合で入院が必要となります。なお分子標的薬による薬物治療の場合、初期は入院が必要となりますが、副作用などが安定してきた段階で外来での治療が受けられる可能性があります。

患者さんのために病院が力を入れていること

当院では患者さんが安心して治療を受けられるよう、さまざまな取り組みを行っています。とりわけ当院には北海道全域から患者さんが集まるため、遠方にお住まいの患者さんも多く、地域の病院との連携がとても大切です。治療の前後に何かあった場合にはお住まいの地域の病院で診てもらえるよう、病院同士の連携を深め、協力して治療にあたっています。

先生からのメッセージ

かつては肝細胞がんの多くがウイルス性肝炎によるものでした。しかし、近年はC型肝炎が治療によって治るようになったこともあり、ウイルス性肝炎による肝細胞がんの割合が減少しています。それに代わって近年では、アルコールによらない脂肪肝“NAFLD”による肝細胞がんの患者さんが増加しつつあります。このようにかかりやすい人の特徴が変わったことにより、肝細胞がんのハイリスク群が分かりにくくなり、早期に発見することが難しくなってきています。肥満気味の方、糖尿病にかかっている方、高血圧の方はNAFLDによる肝細胞がんにかかりやすいと考えられますので、こまめにエコー検査を受けるなどのフォローをすることを心がけましょう。

また、前述のとおり肝細胞がんの治療方法は多彩で、そのときのがんの状態や患者さんの状態に応じて、適した治療方法が異なる可能性があります。より適した治療を選択するためにも、各診療科の連携体制があり、それぞれの専門家が話し合って治療を検討するような仕組みのある医療機関を受診することを検討しましょう。

北海道大学病院

〒060-8648 北海道札幌市北区北十四条西5丁目 GoogleMapで見る