膵臓がん~手技の工夫で合併症の少ない膵切除を目指す~

最終更新日
2021年09月01日
膵臓がん~手技の工夫で合併症の少ない膵切除を目指す~

京都桂病院は京都府京都市西京区に位置する病院です。肝胆膵・食道・胃腸などの病気を扱う消化器センター・外科では、“あらゆる外科治療、手術において現時点で最良と考えられる治療を提供すること”をモットーとして診療にあたっています。今回は、消化器センター・外科 部長の西躰 隆太(にしたい りゅうた)先生に膵臓(すいぞう)がんの治療方法や体制などを伺いました。

*膵臓がんの一般的な治療法はこちら

治療・取り組み

京都桂病院では、手技に工夫を凝らすことで可能な限り安全で合併症の少ない膵切除手術を行えるよう努めています。また、新しい治療法も積極的に取り入れており、術前の化学放射線療法を行うケースもあります。

膵切除手術

膵臓がんでは、がんが切除可能である場合は可能な限り切除をします。膵臓がんの手術はがんができる部位によって切除範囲が異なります。膵頭部にがんができた場合に行う“膵頭十二指腸切除術”は、一般的には膵体尾部の手術より複雑になり、出血や合併症が起きやすくなります。

しかし、当院では手術の技術向上や後述する術前化学放射線療法の実施などにより膵頭十二指腸切除術の治療成績がよくなってきており、リスクの高い症例であっても輸血が必要になることはほとんどありません。また代表的な合併症である“膵液漏(すいえきろう)(切除した部分やつなぎ合わせた部分から膵液が漏れること)”の発生率も10未満に抑えられています。

また、膵臓の体尾部にできたがんに行う“膵体尾部切除術”に関しては患者さんの負担を低減するため、腹腔鏡下手術(ふくくうきょうかしゅじゅつ)も取り入れています。腹腔鏡下手術とは、お腹を切り開いて行う従来の開腹手術とは異なり、小さな穴から小型カメラ鉗子(かんし)と呼ばれる医療機器を入れて行う治療方法で、術後の(そう)が小さく回復が早い傾向にあります。また、2020年4月から保険適用となったロボット支援下手術*もこれから積極的に取り入れられる予定です。

*ロボット支援下手術:手術用ロボットを用いた腹腔鏡下手術。従来の腹腔鏡下手術よりも鉗子が多関節で操作性が高いほか、小型カメラの映像が3Dで見られる利点がある。

メリットと注意点

手術治療のメリットは以下のとおりです。

根治を目指せる唯一の治療法である

根治が期待できるのは手術治療のみであり、ほかの治療法と比較しても生存率が高いことが分かっています。また、近年では手術と化学療法や放射線治療を組み合わせる “集学的治療”の効果も期待されており、当院でも積極的に術前治療を取り入れています。

一方、以下の点には注意が必要です。

合併症のリスクがある

膵臓がん手術の合併症としては、膵液漏、感染、腹膜炎、出血などがあります。上述のとおり、当院ではこれらをできるだけ発生させないような手術や術後管理に尽力しています。

適応

切除が可能な場合には、単独またはそのほかの治療法と組み合わせて手術を行います。0期~I期は基本的に切除が可能ですが、II期では切除可能の場合と切除可能境界(手術だけでは取り切れない可能性があるもの)の場合があり、術前化学療法や術前放射線治療が検討されます。また、III期の一部やIV期では切除不可能となり、手術以外の治療方法が検討されます。

費用・入院スケジュール

膵臓がんの手術治療を行う場合、費用は保険適用です。もっとも症例数の多い膵頭部の切除の場合、手術費用だけで3割負担の場合は45万円程度(麻酔、薬剤込み)となることが一般的です。門脈の再建が必要になるような大きい手術になるとこれより上がり、60万円程度(同上)となります。

これに加え麻酔の費用や入院費などがかかりますが、高額療養費制度の利用などによって実際に支払う費用が抑えられることもありますので、詳しくは受診される診療機関にご相談ください。また、入院期間はおよそ3週間となることが一般的です。

術前化学放射線療法

化学放射線療法は、放射線療法と化学療法(抗がん剤治療)を組み合わせて行う治療法です。当院でも治療成績の向上を目的として化学放射線療法に取り組んでおり、一部の患者さんには手術の前に化学放射線療法を行っています。

当院では、コンピューターで制御することでがんに集中的に放射線を照射できる“強度変調放射線治療(IMRT)”を導入しています。mm単位で放射線の照射量を調節することができるので、より少ない副作用でがんに強いダメージを与えることができるようになりました。

メリットと注意点

術前化学放射線療法のメリットは以下のとおりです。

がんを手術で完全に取り切れる可能性が高まる

手術の前に化学放射線療法を行うとがんが小さくなることはもちろん、がん細胞の塊から毛細血管や神経に広がっている目に見えないような細かいがんを消すことができ、手術での根治の可能性が上がることが期待できます。

一方で、以下の点には注意が必要です。

化学療法や放射線治療の副作用として皮膚の色素沈着、嘔吐、食欲不振、白血球の減少などが起こることがある

ただし、IMRTの導入以降は治療期間が2週間ほど短くなって3週間程度になり、合併症も軽減できるようになりました。

適応

術前化学放射線療法の対象となるのは、主に膵頭部にがんが生じている人です。中でもがんがやや進行しているII期の患者さんで、がんを取りきれるかどうか曖昧な切除可能境界にいる方に行われることが一般的です。

また通常、切除可能の方に対して行われるのは術前化学療法のみで放射線治療は行われません。しかし当院では、より確実にがんを取りきるために切除可能の方にも術前化学放射線療法を行うことがあります。

費用・入院スケジュール

術前化学放射線療法のうち、放射線治療の費用は3割負担で18万円程度となることが一般的です。ただし高額療養費制度も適用されることがあるため、実際の支払額はこれより抑えられる場合が多いです。

手術時は入院が必要ですが、術前治療の段階では外来で通っていただくことが一般的です。ただし、化学放射線療法によって体調が変化し通院が難しくなることもあるため、治療後半から入院を検討する方もいます。また、術前化学放射線療法から手術までには1か月ほど間を空け、体調が安定してから手術治療を行います。

そのほかに行っている治療法

当院では、手術治療や術前化学放射線療法のほかにも、手術が難しい方への化学療法を行っています。

診療体制・医師

膵臓がんの治療は1つの治療方法では完結しないことが多く、病院の総合力が問われる分野です。そこで当院では、消化器外科・内科・放射線治療科・腫瘍内科(しゅようないか)・病理診断科などの医師のほかに看護師、カウンセラー、薬剤師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚療法士、検査技師、栄養士、臨床工学士、臨床心理士などさまざまなスタッフでチームを編成し、横断的に活動しています。週に1回はキャンサーボードとしてそれぞれのメンバーが集結し、治療方針の相談や患者さんの経過についての報告・相談を行い、患者さんを初診時から継続的にチームで診ることを意識しています。

また、膵臓がんはさまざまな症状や合併症が見られるため、ときには緊急で処置が必要になることもあります。当院では、各診療科で連携を取ることによって処置が必要なときにすぐ対応できるようチームワークを心がけています。

膵臓がんの手術件数実績

  • 2018年:16件
  • 2019年:20件
  • 2020年:24件

受診方法

初診の流れ

京都桂病院外観

外来は、健康保険証をお持ちになって外来診療棟1階の総合受付へお越しください。他院からの紹介状等がある場合は、必ずご提示ください。

2回目以降は、自動再来受付機にて診察受付を行っていただけます。

京都桂病院 受付ロビー

当院では厚生労働省の推進する医療機関の機能分担の推進を推奨しております。まずお近くの医療機関を受診のうえ、紹介状をお持ちください。

紹介状をお持ちでない方は、診療にかかる負担金のほか、初診時に限り“初診に係る選定療養費”として別途5,500円(税込)のお支払いが必要となります。

ただし、以下に当てはまる方はこの費用は必要ありません。

  • 小学校6年生までの方
  • 救急車による来院の方
  • 国の公費負担制度の受給者・生活保護の受給者の方、など

診察を担当する医師について

当院ではまず、消化器内科で診断を行い、消化器内科・外科・放射線治療科・腫瘍内科(しゅようないか)などの診療科で話し合いながら治療方針を決定していきます。消化器外科は現在4名の医師で膵臓(すいぞう)がんの治療を行っており、肝胆膵の高度技能専門医修練施設として医師の育成にも尽力しています。

診察・診断の流れ

膵臓がんが疑われるタイミングとしては、糖尿病の罹患や悪化、検診で見つかる異常、背部痛などの症状などが挙げられます。このようなことが見られた場合、さまざまな検査を組み合わせて膵臓がんの診断や進行度合いを確認し、治療方針を決定します。

主にCT・MRI検査などの画像検査を中心に診断されることが一般的ですが、口から内視鏡を入れて超音波で膵臓を観察する超音波内視鏡や、お腹の外から超音波を当てる超音波検査などが併せて行われることもあります。また、転移の状態を調べるためにPET-CT検査や審査腹腔鏡(しんさふくくうきょう)という検査が行われることもあります。

また内視鏡検査時に消化管から膵臓に向かって針を指し、組織を採取してそれを顕微鏡で観察する“内視鏡針生検”が行われることもあります。この検査は膵臓がんの確定診断に役立つ検査ですが、難易度も高く消化器内科の技術が問われます。

治療方針の決め方

膵臓がんの治療方針は日本膵臓学会の発行する“膵癌診療ガイドライン”に沿って検討されます。診療ガイドラインでは、放射線化学療法が推奨されているのは切除可能境界の膵臓がんですが、当院では切除可能の膵臓がんに対しても術前放射線化学療法を検討します。

入院が必要になる場合

膵臓がんでは診断前の検査の段階で検査入院が必要となることが一般的です。また、手術治療を受ける場合も必ず入院することになります。放射線治療や化学療法は外来診療となることが一般的です。

患者のために病院として力を入れていること

当院では患者さんによりよいサポートを行うために、さまざまな診療科の医師や医療従事者などが協力して診療にあたっています。たとえば、術前は手術の際に低栄養となってしまうことがないよう、管理栄養士などによる栄養面でのサポートも実施します。

また、近年注目されているがんゲノム医療にも注力しており、カンファレンスには遺伝カウンセラーも参加しています。

先生からのメッセージ

膵臓がんは予後の悪いがんというイメージがあるかもしれません。たしかに以前は治療をしても早々に亡くなってしまう方も多いがんでしたが、この10年間で手術治療・化学療法・放射線治療がそれぞれ進歩したことにより、根治は難しくても付き合っていけるがんになってきたと思います。

当院を受診される患者さんの中にも、インターネットなどでみる5年生存率などから悲観的な気持ちでいらっしゃる方もいます。しかし、現在数値が出ている5年生存率は少し前の患者さんのデータです。今は少し状況が変わってきていますので、あまり悲観的になりすぎず、前向きに治療に臨んでいただきたいと思います。

京都桂病院

〒615-8256 京都府京都市西京区山田平尾町17 GoogleMapで見る