“はしか”として昔から知られている麻疹は、“麻疹ウイルス”が原因となる感染症です。症状の特徴は、高熱と発疹(皮膚が赤くなるなどの病変)です。
このウイルスに対する特効薬は残念ながら存在しないため、感染してしまった場合は自然によくなるのを待つしかありません。症状が現れてから1週間前後で熱が下がり、発疹も消えていきます。しかし、1000人に1人の割合で脳にも炎症が起こり、歩けなくなったり、記憶力が低下したりします。このような症状は基本的に治ることがなく、発症から数年で亡くなってしまうことがほとんどです。
また麻疹ウイルスに感染している間は免疫力が弱くなるため、他の細菌による肺炎などで亡くなってしまうこともある怖い病気です。
麻疹ウイルスはどこからやってくるのでしょうか。基本的に麻疹ウイルスは、人にだけ感染するウイルスです。そのため、感染してしまった場合は誰かからもらった可能性が高いのです。このウイルスは非常に感染力が強く、感染した人と喋ったり体に触ったりしなくても、空気中をただようウイルスによってうつってしまいます。1人の感染者は周囲の12~18人にうつしてしまうといわれています。
麻疹にかかってから治癒するまでの典型的な経過は、1. 潜伏期、2. カタル期、3. 発疹期、4. 回復期の4つの期間に分けられます。
ウイルスが体に侵入してから、実際に症状が出るまでの期間です。
麻疹の最初の症状は、発熱・鼻水・目やに・せきなど、いわゆる「風邪」と同じ症状です。この時期にはまだ特徴的な発疹が現れず、麻疹に気付かない可能性があります。しかし、鼻水や痰にはウイルスが含まれているため、人にうつす危険はあります。
この時期に頬の粘膜を見ると、「コプリック斑」と呼ばれる、周囲が赤くて真ん中が灰色の砂粒くらいの斑点を見られることがあります。
前駆期の終わりには一度熱が下がり気味になりますが、再び40℃近くまで上昇するとともに全身に小さくて赤い発疹が出現します。顔や耳の後ろから始まり、体幹、そして手足の順で全身に広がります。また発疹どうしが融合していく(くっついていく)ことも麻疹による発疹の特徴です。
解熱とともに発疹も自然に消えていきますが、肌に色素の沈着が茶色に残ります。
麻疹は多くの場合、自然に治癒する病気です。
しかし、麻疹にかかっている間とその後しばらくは免疫力が衰えているので、別の細菌による中耳炎や肺炎を同時に起こしやすくなります。細菌感染症にかかったら、抗菌薬を使って治療をしますが、肺炎により死亡する場合もあります。
また、脳に炎症を起こしやすいことも知られていています。皮疹が出現してから数日で発症する型と、感染から約10年後に学習障害や痙攣といった症状から始まる「亜急性硬化性全脳炎」という型があります。いずれにも有効な治療法はありません。先進国では麻疹に罹患した人の1000人に2人、発展途上国では1000人に20人もの人が亡くなっている現状を考えると、麻疹は非常に怖い病気といえます。
「麻疹である」という診断は、症状や周囲の流行状況が手がかりとなります。血液検査で麻疹ウイルスに対する「抗体」という免疫物質を検出したり、血液や尿、のどから直接麻疹ウイルスの遺伝子を検出したりすればより診断が確実になります。
麻疹に対する特効薬はありません。麻疹にかかっている期間中は安静にして、必要な水分や栄養補給をしながら、自分の免疫力でウイルスを排除するのを待つしかありません。栄養に関しては、特にビタミンAの補給が症状を軽くするために有効であるともいわれています。
肺炎などの他の細菌感染症を合併した(伴って起こった)場合は抗菌薬を使用しますが、脳炎が生じた場合には、入院をして、人工呼吸やステロイドなどを適宜使いながら全身の管理をすることになります。
熱が下がっても2日間は周囲に感染させる恐れがあります。そのため、児童・生徒の方が感染してしまった場合は、学校保健安全法で「解熱後3日を経過するまでの出席停止」と定められています。
このような恐ろしい麻疹ですが、唯一感染しない方法があります。それが予防接種です。
日本では1歳の時と5から7歳の時の2回、麻疹の予防接種を無料で受けることができます。このワクチンが開発されてから患者さんの数は99%以上減少しており、麻疹は以前に比べて珍しい病気となりました。
もしある地域で92~94%の人が免疫を持っていたら、その地域で麻疹の流行はなくなるといわれています。それにもかかわらず、まだ世の中で麻疹が流行してしまうのは、一部に予防接種を受けない人たちがいるからです。免疫力がない白血病の患者さんや、予防接種を打ちたくても打てない病気の患者さんがいます。自分だけでなく、周囲の人を守るためにも予防接種は大切なものです。麻疹の予防接種は「弱毒生ワクチン」という効果の高いタイプを使用しているため、2回の予防接種で有効な抗体を獲得する確率は99%です。
予防接種の大きなメリットを考えると、ほとんどの人が接種の対象となります。ただし、治療中の病気や使用している薬によっては接種を見送ることもあります。ですから、予防接種を受ける場合は、アレルギーの情報を含めて正確に予診表(医師にあらかじめ情報を伝える紙)に記入してください。接種当日に発熱している場合は、接種可能かどうか接種予定の医療機関へお問い合わせください。
予防接種後の副反応で多いものが発熱と発疹です。接種から約8日をピークに20%の人に発熱が、10%程度の人に発疹が現れます。いずれも一時的なもので、自然によくなります。
もし予防接種をしていない状態で、麻疹の患者さんに接触した場合には、医療機関へご相談ください。急いで麻疹ワクチンや免疫グロブリンというお薬を使用すると、発症を予防できる可能性があります。
記事1:麻疹(はしか)とはー特徴的な症状と予防接種の重要性
記事2:こどもが起こす「熱性けいれん」とは?
記事3:熱性けいれんの対処法・予防法:慌てずに様子をみる
記事4:「熱性けいれん」の気になるQ&A
国立成育医療研究センター 器官病態系内科部 消化器科 医員
国立成育医療研究センター 教育センター センター長/臨床研究センター 副センター長/臨床研究教育部長(併任)/血液内科診療部長(併任)
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海外渡航に際して、麻疹、風疹、破傷風、A型肝炎などの予防接種を求められています。 過去の接種歴はありますが、一般的に言われている持続期間は過ぎてしまっています。 麻疹/風疹に関しては接種歴あるものの1回しか摂取していませでした。 このような場合、通常、抗体検査をして抗体の有無を確認してから接種の検討をするのでしょうか。それとも切れている前提で抗体検査はせず接種をするのでしょうか。ご助言いただけますと幸いです。
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全身に発疹
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