インタビュー

エボラウイルス感染症(エボラ出血熱)を通じて、皆さんに知ってほしいこと

エボラウイルス感染症(エボラ出血熱)を通じて、皆さんに知ってほしいこと
青柳 有紀 先生

ダートマス大学 Clinical Assistant Professor of Medicine

青柳 有紀 先生

この記事の最終更新は2015年05月27日です。

2014年から世界中を震撼させたエボラウイルス感染症(いわゆる「エボラ出血熱」)の感染の流行はおさまりつつあります。毎日のように報道されていたエボラ関連のニュースも見られなくなりました。我々も、エボラウイルス感染症のパニックのことをほとんど忘れつつあるように思います。

エボラウイルス感染症のパニックを通じて、我々はどのようなことを学ぶべきなのでしょうか。アフリカで臨床に従事する感染症専門医の青柳有紀先生に伺いました。

2015年5月9日に、WHO(世界保健機関)はリベリアにおけるエボラ出血熱の終息を宣言しました。エボラウイルス感染症の潜伏期間は2日間から21日間ですが、その倍にあたる42日間新たなエボラウイルス感染症患者さんが発生しなかったことから、終息を宣言したのです。

エボラウイルス感染症の流行地域であるギニアやシエラオネでも、感染者の数は急激に減ってきています(5月10日時点で、5月になってからの感染者はシエラオネで2名、ギニアで7名。2ヶ月前の人数は、それぞれ58名、95名)。NGOや各国の支援もあり、医療資源や感染を予防する体制が充実してきたことで、エボラウイルス感染症はほぼ終息に向かってきていると考えられます。

私はルワンダで日々診療にあたっていますが、ルワンダでもこの感染症に対しての危機感は流行発生前のレベルまで下がっているように感じます。

日本は地理的にも離れていますし、エボラウイルス感染症症例が発生する確率は、ゼロとは言えないものの極めて低いです。また万が一感染が起こったとしても、医療資源が潤沢にある日本においては、西アフリカで起こったような流行が起こる可能性はまずないと考えてよいでしょう。

今回のエボラウイルス感染症の流行は、あくまで感染症流行の一つの例にすぎません。世界の人口が増えて人々の活動範囲が広がったため、いままで人々が足を踏み入れなかった場所で未知の病原体に接触する可能性が出てきます。また人口増加による過密な環境では、病原体が人から人へ感染しやすくなり、疫病が流行するリスクが高まります。

加えて、交通網が発達した結果、人々が世界中を行き来するようになり、思いもよらなかった感染症が日本を含めた他の国々に持ち込まれる可能性が出てきます。今回のケースでも、西アフリカの流行地で感染した患者さんが近隣国やアメリカに帰国後に発症し、世界中でパニックに近いような状況を起こしました。感染症が国境を越えて拡大するのを防ぐような対策作りが、教訓として学ばれるべきことだと思います。

また、私がこの場を借りて特に強調したいのは、日本やアメリカの先進国の人々が何をすべきか、一人でも多くのこのインタビュー記事を読んで下さる方に考えてほしいということです。

多くの日本人にとって、西アフリカで人々がどのような生活をしているのかということは、まったく想像ができないのではないのでしょうか。たとえば、リベリアでは医師や病院の数が圧倒的に少ないため、このような国で感染が起こったときに国として十分な対応ができません。人々は極めて貧しく、スラム街の劣悪な環境に居住し、上下水道もないためトイレは浜辺で済ますということが日常です。このような、人口が過密で医療施設はおろか適切な公衆衛生を可能にするインフラもない状況では、今回のような感染の流行が発生してしまうことは容易に想像できるはずです。

遠くアフリカで苦しんでいる人々がいる一方で、先進国の人々は何をしてきたのか。彼らを最大限サポートして、流行の拡大を防ぐ支援をすることは、最終的には先進国への感染症の流行リスクも下げるものであるということを理解していただきたいと思います。

記事1:エボラウイルス感染症(エボラ出血熱)の原因―エボラウイルスとは
記事2:エボラ出血熱の致死率は70%?エボラウイルス感染症の高い致死率
記事3:エボラウイルス感染症(エボラ出血熱)が空気感染する可能性は?
記事4:エボラウイルス感染症(エボラ出血熱)の診断方法
記事5:エボラ出血熱の予防法と治療法
記事6:エボラウイルス感染症(エボラ出血熱)を通じて、皆さんに知ってほしいこと

  • ダートマス大学 Clinical Assistant Professor of Medicine

    青柳 有紀 先生

    国際機関勤務などを経て、群馬大学医学部医学科卒。米国での専門医研修後、アフリカ中部に位置するルワンダにて、現地の医師および医学生の臨床医学教育に従事。現在はニュージーランド北島の教育病院にて内科および感染症科コンサルタントとして勤務している。日本国、米国ニューハンプシャー州、およびニュージランド医師。

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