2014年に大きなニュースになったエボラウイルス感染症(いわゆる「エボラ出血熱」)。その致死率の高さだけではなく、アメリカ、ヨーロッパなどの先進国でも感染者が見られたことで世界を震撼させました。日本でもエボラウイルス感染症の疑いがある患者さんが出るたびに大騒ぎになったことは、記憶に新しいのではないでしょうか。
エボラウイルス感染症とはどのような病気なのか、私たちは何を知らなければならないのかということについて、青柳有紀先生に聞きました。青柳先生はアメリカで感染症専門医の資格を取り、現在はルワンダで日々感染症と戦っています。
今回は、エボラウイルス感染症ではどのような症状が出るのか、どれほど怖い病気なのかについて伺いました。
エボラウイルス感染症の原因は、エボラウイルスの感染です。エボラウイルスに感染してから、ウイルスが体内で増殖して症状が出てくるまでには、潜伏期間があります。潜伏期間は2~21日といわれていますが、特に8~10日程度が一番多いようです。
症状としては、出血「熱」ということでわかるように、高熱が出ます。体温が38.6度以上になることが多く、多くの医療機関でエボラ出血熱(エボラウイルス感染症)を疑う際の基準になっています。
高熱とともに、下記のような初期症状が出ます。
症状が進行してくると、皮膚・口の中・目・消化管などから出血を起こすようになります。ただし、すべてのエボラウイルス感染例で出血がみられるわけではありません。したがって、一般的には「エボラ出血熱」と呼ばれている病気ですが、医療の専門家の間では「エボラウイルス感染症」と呼ぶのが一般的です。
エボラウイルス感染症の初期症状は発熱・頭痛・嘔吐・下痢・腹痛などと書きましたが、これらの症状は「非特異的」な症状です。つまりエボラウイルス感染症以外の病気、たとえば腸チフスやマラリアなどでも同じような症状を起こすので、症状だけでエボラウイルス感染症であると診断することは難しいです。特に、エボラウイルス感染症の流行地域はマラリアの流行地域と重なっているので、注意が必要です。
たとえば、私が普段働いているルワンダの病院でもエボラウイルス感染症の疑いのある患者さんが来たことがあります。エボラの流行地域であるリベリアでボランティア活動を行っていた、ドイツ人の医学生さんです。エボラウイルス感染症の拡大によりリベリアからヨーロッパへの渡航制限が出されたため、ドイツに直接帰国できなくなってしまい、ルワンダ経由で帰ろうと思ったようです。ところが、ルワンダで体調を崩してしまい、高熱・頭痛などの症状を示しました。リベリアでエボラウイルス感染症の患者さんとの接触があったため、エボラ疑いで、すぐさま病院に搬送されました。私の同僚が担当した患者さんで、色々な検査を行ったところ、結局エボラウイルス感染症の検査結果は陰性でした。マラリアの検査結果が陽性であったので、マラリアであることが判明したのですが、そのときには大変な緊張感が走りました。
エボラウイルス感染症は、致死率(感染による症状を示した人の中で、死亡する人の割合)が非常に高い感染症です。
エボラウイルスの型によって異なりますが、エボラウイルス感染症の致死率は30%から時として90%にもおよぶことが知られています。現在、西アフリカで流行しているエボラ出血熱(エボラウイルス感染症、ザイール型エボラウイルスによるもの)では、致死率は60~70%程度と報告されています。
致死率は患者さんの置かれている状況によって大きく異なります。症状が軽い段階で治療を開始すれば、致死率はその分下がります。
エボラウイルス感染症がこれほど報道される理由の一つは、その致死率の高さにあります。ただし、先進国である日本の皆さんに理解していただきたいのは、この致死率60~70%という高さは、リベリアやギニア、シエラオネなど医療の体制が十分に整っていない環境による部分が大きいということです。仮に日本やアメリカのように、きちんとした医療設備が整っており、最適な治療が行われる環境があるのであれば、致死率は高くても西アフリカの半分程度(30~35%程度)に留まるのではないかと考えられています。
記事1:エボラウイルス感染症(エボラ出血熱)の原因―エボラウイルスとは
記事2:エボラ出血熱の致死率は70%?エボラウイルス感染症の高い致死率
記事3:エボラウイルス感染症(エボラ出血熱)が空気感染する可能性は?
記事4:エボラウイルス感染症(エボラ出血熱)の診断方法
記事5:エボラ出血熱の予防法と治療法
記事6:エボラウイルス感染症(エボラ出血熱)を通じて、皆さんに知ってほしいこと
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