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日本の医療をより良くするために—ビッグデータの活用(2)

日本の医療をより良くするために—ビッグデータの活用(2)
岩中 督 先生

埼玉県病院事業 管理者、東京大学 前小児外科学教授、日本小児外科学会 元理事長/元監事/元会長

岩中 督 先生

この記事の最終更新は2015年07月20日です。

岩中督先生は東京大学で小児外科学の教授を務めた後、現在は埼玉県立小児医療センターで病院長を務めながら、日本の小児医療と外科医療双方の向上を目指し日々尽力されています。
2011年から始まり、岩中先生が代表理事を務める、すべての外科学会によるビッグデータの集約「ナショナルクリニカルデータベース」について、「日本の医療をより良くするために―ビッグデータの活用(1)」に続いてお話しいただきました。

昨今、小児外科・成人外科に関わらず、手術に関する話題がニュースになることは多々あります。
適切に手術が行われていたのかをどのように検証していけばいいのでしょうか。実は、これもビッグデータを元に検証することができます。その方法は、行われた手術の内容と、どのような患者さんに行われていたのかという点から手術成功率を出し、それらが今までのデータと比較してどの程度のものであるかを調べるというもので、すぐに検証することができます。

ビッグデータがあれば、通常の手術成績に比して「ハズレ値(悪い結果)」らしきものが出てしまった場合、手術技術自体の問題だったのか、たとえばICUがないのが問題だったのかなど、院内体制までも検証していくことができます。

ビッグデータは患者さんへの説明にも活用することができます。
例えば、ある病院が75歳の患者さんの肺がんの手術を胸腔鏡で行うとします。ビッグデータを使うと、その患者さんの年齢・条件など個別の状況にあわせ、その手術のリスクや合併症の確率・死亡率などが、ビッグデータを解析した全国平均値を元に、手術前に呈示できるようになります。それを患者さん自身やご家族が理解した上で手術を行うことになります。
今までは、患者さん一人ひとりの背景にあわせて細かい予測の数値(データ)を出すことなどは不可能でした。これからのテーラーメイド医療を支える基盤としてのビッグデータに期待したいと思います。

先天異常と小児外科医(3)―小児外科の訓練・取り組みとは」で述べたように、若手小児外科医のような人材の育成には、その人材が本当に育ったのか、具体的には専門医としてふさわしいのかを検証していく必要があります。それも、ビッグデータにより可能になります。
現在、専門医試験を受ける医師は、すべての手術をこのナショナルクリニカルデータベースにデータ入力しています。このデータはすべて医籍番号で紐付いたものであり、専門医試験に向けて必要な350件の手術がすべて入力されます。

これにより、さまざまなことが分かります。その医師の手術成績はどれくらいか、専門医として相応しいかどうかもすべてビッグデータで分析できます。このデータは医師一人ひとりが専門医を取得すること、さらには専門医の質を維持し、自己研鑽をするために必要なデータですし、学会としてもこのデータを基に専門医の質・施設の医療水準を評価することが可能です。こうすることにより、専門医の質を担保することができるのです。

2011年から始めたナショナルクリニカルデータベースには、現在560万件のデータが集まっています。今後、さらにスムーズに大量のデータを集められる体制を維持していかなくてはなりません。ビッグデータは外科医療・小児医療だけでなく医療全体にとって役に立つものになると、私は確信しています。

 

  • 埼玉県病院事業 管理者、日本小児外科学会 元理事長/元監事/元会長、東京大学 前小児外科学教授

    日本小児外科学会 小児外科指導医・小児外科専門医日本外科学会 外科認定医・外科専門医・指導医

    岩中 督 先生

    東京大学小児外科学教授、東京大学附属病院副院長を経て埼玉県立小児医療センターで病院長を務める。全外科系学会を束ねた「ナショナルクリニカルデータベース」においては代表理事を務めており、ビッグデータを用いて小児外科だけではなく外科分野、さらには全体的に日本の医療レベルを上げるために精力的な活動をしている。現在は埼玉県病院事業管理者として病院経営に深く携わる。