インタビュー

胃静脈瘤の治療

胃静脈瘤の治療
山本 博 先生

倉敷中央病院 顧問

山本 博 先生

この記事の最終更新は2015年10月30日です。

静脈瘤は胃の内部にある静脈に瘤(こぶ)ができる病気です。肝臓の働きが低下することによって発症の危険性が高まり、静脈瘤が破裂してしまうと出血多量で命の危険性がおよぶ可能性もあります。今回は、胃静脈瘤の治療法について、倉敷中央病院顧問の山本博先生にお話し頂きました。

静脈瘤とは、胃の粘膜内ならびに粘膜下層にある静脈が腫れ、こぶのようになっている状態のことを指します。

通常、消化管で吸収した栄養分は、肝臓へと運ばれます。その際に通る通り道を「門脈」といいます。何らかの原因で肝臓の門脈血流の流れが悪くなると、その門脈にかかる圧力が高まり、「門脈圧亢進症」という状態になります。すると胃の静脈にこぶができてしまいます。

一見、胃に問題があるかのように思えますが、実は肝臓の働きが悪くなることによって胃の静脈に影響が出るのです。胃静脈瘤は、瘤が存在しているだけでは痛みなどの自覚症状はありません。しかし、この静脈瘤が破裂して出血すると、吐血(胃から血を吐くこと)という形で症状が現れます。吐血量が多い場合、ショック状態になり命の危険にもつながりかねません。

静脈瘤が破裂して出血した際は、出血した部位によって治療法が変わります。

胃と食道の繋ぎ目である「噴門(ふんもん)」にある静脈瘤が出血した場合は、食道静脈瘤の出血時に行われる緊急止血を行います。(詳細は食道静脈瘤の治療

胃穹窿部にある静脈瘤が破裂した場合、大量に出血する可能性が高いです。その際、まずは「ストマックバルーン」という器具を挿入します。風船を膨らませ、血管を圧迫することで一時的に出血を止めます。

その後は、内視鏡的硬化療法(EIS)を施します。内視鏡的硬化療法(EIS)では静脈瘤に硬化剤(シアノアクリレート)を注入し、静脈瘤を固めて止血を行います。

まだ出血がない胃静脈瘤が発見された場合には、2つの治療法が用いられます。

前述の内視鏡的硬化療法を用います。この際、静脈瘤ができている部分の血流の速さによって硬化剤を調整する必要があります。血流が速い部分にできた静脈瘤の場合には、門脈圧を低下させるバソプレシンという点滴を併用します。また、静脈瘤のサイズが大きく、さらに血流が速い場合には、硬化剤の濃度を高くします。

大きな風船がついたカテーテルを用いておこなう治療法です。バルーンによって血流を止めた状態で硬化剤を注入し、静脈瘤を固めて閉塞させます。この治療法は、食道と連結していない胃の静脈で起きた静脈瘤に対して優れており、根治あるいは長期の改善が期待できます。

薬物療法として、β遮断薬やアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬などを用いることがあります。このふたつの薬には、どちらも門脈圧を低下させる働きがあります。ただし、これらの薬物療法はどちらも保険適用が認められていません。