股関節の痛みや機能障害はスポーツによる外傷以外にもさまざまな理由で起こります。その中で近年話題になっている股関節唇(こかんせつしん)損傷とFAIと呼ばれる新しい概念について、膝関節・股関節外科を専門とされている武蔵野赤十字病院整形外科の望月義人先生にお話をうかがいました。
FAIは2003年にスイスのGanzらのグループによって提唱され、近年注目されている概念です。Femoroacetabular impingementを略してFAI、または日本語で「大腿臼蓋インピンジメント」や「股関節インピンジメント」とも呼ばれます。インピンジメントは「衝突」や「挟み込む」という意味です。
股関節の受け皿となる骨盤の臼蓋や大腿骨の骨形態異常があると、股関節を大きく動かす際にこれらが衝突し、挟み込まれる股関節唇が損傷するということが分かってきました。これまで原因のはっきりしなかった股関節痛のうち、ある程度の割合でFAIがあるとみられています。ただしこれは数字としてはっきりしているわけではありませんし、FAIという病態そのものが特に増えているということを意味するものでもありません。
FAIにはその原因によってカムタイプ(Cam Type)とピンサータイプ(Pincer Type)の2種類があり、さらにその2つが複合しているコンバインドタイプ(Mixed)もあります。
カムタイプは大腿骨頭に出っ張り(Cam)があるために衝突が起こるものをいいます。一方、ピンサータイプは受け皿側の臼蓋に骨棘(トゲのように突き出た部分)などの形態異常があるものをいいます。ピンサー(Pincer)は「つまむ・挟む」という意味のピンチ(Pinch)から来ています。
股関節唇とは、臼蓋の周囲を幅4〜7mmで環状にとりまいている部分です。繊維軟骨で構成され、唇状の形状をしています。大腿骨頭を周囲から包み込んで受け皿である臼蓋への収まりをよくし、衝撃を吸収する役割があります。股関節の動きによってこの部分が損傷を受けるのが股関節唇損傷です。損傷の原因には前述のFAIのほか、関節包弛緩や臼蓋形成不全、外傷(けが)などがあります。
通常はリハビリと非ステロイド系消炎鎮痛剤の内服による保存療法を行います。それでも改善されない場合は、手術療法が適応されます。
股関節鏡手術では股関節を牽引してスペースを確保した後、股関節の中に内視鏡(股関節鏡)を入れて股関節唇の状態を評価し、損傷部位を確認します。
もうひとつの方法として、股関節を脱臼させた状態にして手術を行うこともあります。これを手術的脱臼法(Surgical dislocation of the hip joint)といいます。また、両者の中間的な手術法としてミニオープン法というものもあります。
関節の状態を確認したら、まず股関節唇を臼蓋(きゅうがい)の骨棘(こつきょく)からはがして、骨棘を切除します。次に、いったんはがした股関節唇を臼蓋に縫合します。縫合にはアンカーというインプラントを使用します。関節唇がしっかり修復できたら、次は大腿骨の骨棘を削ります。最後に手術のために切開した関節包を縫合します。
浅草病院 整形外科 人工関節センター長
望月 義人 先生の所属医療機関
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