インタビュー

「手術室に入る放射線科医」常に現場に出ていた放射線治療医として

「手術室に入る放射線科医」常に現場に出ていた放射線治療医として
西尾 正道 先生

北海道がんセンター 名誉院長

西尾 正道 先生

この記事の最終更新は2015年12月11日です。

独立行政法人国立病院機構北海道がんセンター名誉院長の西尾正道先生は、診断と治療両方を手掛ける、世界でも非常に珍しい放射線科医として名高い医師です。診察から検査、診断、治療、その後のケアまでを一貫しておひとりで行われ、常に患者さんと向き合ってきています。西尾先生が放射線科医として手術室でどのような治療を行っているのか、なぜ放射線科医でありながら手術室に入るのか、その思いをお聞きしました。

これまで放射線に関わる医療行為にはすべて関わってきました。具体的には、診察、検査、診断も行い、治療にあたって手術室にも幾度となく立ってきました。裏を返せば周りにスタッフがいない職場環境だったのです。

具体的には、現在までに舌癌などの頭頸部がん肺がん乳がん子宮頸がんなどを中心にほぼ全領域のがんに対して放射線治療をしてきました。ただ、手術室に入る放射線治療医というのは、日本でもほとんどいないのではないでしょうか。

私は、小線源療法という放射線療法を多用してきました。小線源療法では、上記のさまざまながんに対して「小線源」という細く小さな放射線を出す線源を使用します。がんに侵された臓器に、放射線を出す管状・針状・粒状の線源を埋め込んだり貼り付けたりして、臓器の内側から病巣を制御できる線量を照射します。このため周囲組織への影響は少なく、患部のみに放射線を浴びせることができる治療法であるといえます。

小線源療法は組織内照射や腔内照射として、様々ながんの治療に使われてきました。低い線量でじわりと照射する低線量率小線源療法が、私が従来から最も得意としている放射線療法です。

前述のとおり、一般的に使われている頭頚部がん子宮頸がんの他、食道がんにも200例以上の腔内照射を行いました。

食道がんに対しては内視鏡の手技に準じて管を飲ませ、外部照射後の追加照射としてその中に線源を入れて食道への腔内照射をしました。

また、イリジウムというワイヤー状の線源を使用していたときには、脳腫瘍膵臓がん、軟部組織の肉腫なども手掛け、あらゆるがんに対して小線源療法を試みてきました。

小線源治療は高価な抗がん剤を使う必要もなく、手技の費用も高くないため、コスト的には圧倒的に安いと考えて差し支えないでしょう。その意味からか、「一番安いコストで患者さんを治す医師」といわれることがあります。私としては一番患者さんにとって良い治療法を考えて、それを実行しているに過ぎないのですけれども、負担が少ないがん治療が受けられることは患者さんのためにもなるのではないかと考えています。しかし残念なことに術者は被ばくしますし、診療報酬が低いために普及するどころか絶滅危惧種の治療法となっているのです。