移行医療は、1993年にアメリカで提言され2000年頃から動き出し、日本では2010年頃から動き出した比較的新しい分野の医療です。小児慢性疾患で小児科にかかっていた患者さんが成長して成人の病院に転科する際、両科の診療の考え方の相違を踏まえて、両親中心から本人中心の医療へ移行することになります。移行医療の主な対象となる思春期・青年期は非常に心理的に不安定なうえ、教育・就職など将来の自立の上でも重要な時期です。それらの中でいかに良質な医療をシームレスに行っていくかが移行医療という領域であり、現在非常に注目されている分野です。移行医療とは何なのか、小児腎臓病を具体例として都立小児総合医療センター院長の本田雅敬先生にお話頂きました。
慢性腎臓病(CKD)患者は、小児期から発症すると成人になっても治療を要することが多く、綿密な支援が必要となる病気です。そのため小児CKD患者が成人向けの医療に移行する際、特別な移行プログラムが必要であるという意見は、他の慢性疾患と同様に相次いでいました。そこで、小児病院から成人病院へ移る可能性がある患者さんに対して移行プログラムが推進され始めました。
小児腎疾患において、小児期発症のネフローゼ症候群や慢性糸球体腎炎、CAKUT(先天性腎尿路奇形)、ESKD(末期腎不全)などは成人期になっても完治せず、治療が必要となるケースが多いです。しかし、長期間小児科で診療を受けていた患者さんは、一般の内科へ転科することがなかなか容易ではありません。転科してもうまく適応できず、小児科に戻ってきてしまったり、治療そのものを止めてしまう患者さんがいるのです。
「小児慢性腎臓病患者における移行医療についての提言」によると、移行プログラムとは1993年の米国思春期学会(SAM)において、『小児科から内科への転科を含む一連の過程を示すもので、思春期の患者が小児科から内科に移るときに必要な医学的・社会心理的・教育的・職業的支援の必要性について配慮した多面的な行動計画である』と定義されています。
成人診療科への転科は、社会的・心理的に発達し患者さんのこころが安定している時期に行うことが望ましいとされています。そのために小児科側で十分に自立のための準備と評価を行った後で行います。また、小児科から成人の診療科へ移行するための専門医師の連携や看護師、心理士、SWなどでチームを作り、内科と協力体制を組んで移行プログラムを実施する必要があります。
2014年、日本小児科学会で「小児期発症疾患を有する患者の移行期医療に関する提言」が発表されました。そこでは移行医療の考え方として、小児期医療の担い手と成人期医療の担い手が途切れのない医療サービス(シームレスといいます)を提供することが目指されます。子どもであった患者さんが成長するに応じて周囲の環境を変化させ、患者さん一人一人の個性に合わせた医療体系が組まれることが期待されています。
『小児慢性腎臓病患者における移行医療についての提言 -思春期・若年成人に適切な医療を提供するために-』によると、移行プログラムは、以下の点について各々行動計画を作成し、実行、評価することとされています。
東京都立小児総合医療センター 臨床研究支援センター 医員/非常勤
日本小児科学会 小児科専門医日本腎臓学会 腎臓専門医・腎臓指導医日本透析医学会 透析専門医・透析指導医
1976年慶応義塾大学医学部卒。小児の腎臓病治療に対するトップランナー。1981年に当時生存すらできない乳幼児に日本で初めて在宅透析を導入し、健常人に近い成人にすることを可能とし、1986年に小児PD研究会を立ち上げ、日本の小児透析の実態調査と治療の標準化を行ってきた。1997年から小児難治性腎疾患治療研究会の立ち上げを行い、日本から難治性ネフローゼ症候群を中心に治療法を開発し、世界へ治療エビデンスの発信を行ってきた。2010年より小児腎臓病学会理事長として活動し、現在は小児腎臓今日の早期発見や治療など、慢性腎臓病対策の啓発と小児施設から成人施設への移行医療について、厚生労働省・文部科学省などで活動している。
本田 雅敬 先生の所属医療機関