子どもは、急に「お腹が痛い」と訴えることがあります。子どもの腹痛の原因は胃腸炎や便秘、食べ過ぎなどが大半ですが、ときに緊急対応を要する疾患である場合があります。あいち小児保健医療総合センター救急科医長の伊藤友弥先生にお話を伺いました。
腹痛の原因は様々なので、緊急度が高いものかそうでないかの見極めは医療者にも難しいことがあります。胃腸炎や便秘など消化管が原因で起こるものが多く、漠然と内科的なものをイメージしがちです。
しかしその一方、外傷が原因の腹痛もあります。例えば、お腹をどこかにぶつけたなどの場合です。子どもの腹部外傷は、大人よりも臓器損傷を起こしやすいことが知られています。これは子どもが大人に比べて脂肪が少なく、肝臓・脾臓・腎臓などの臓器自体がお腹の中で占めるスペースが大きいためです。お腹を打ったとき、大人であれば肋骨骨折になる程度でも、子どもは肝臓の損傷が起こって重症になることがあります。
また、お腹の臓器以外が原因となっている腹痛も見逃してはなりません。例えば、男子ならば精巣の痛みの可能性もあります。
医療者はもちろん、患者さんや親御さんも、共に「腹痛といっても消化管以外のこともある」ということを知っておきましょう。
(詳細は記事4『子どもの急な腹痛―重症な病気にはなにがあるのか』へ)
子どもの腹痛で重要なポイントは、「手術などの外科的処置(外科的介入)が緊急に必要なもの」をきちんと見つけることです。例えば、急性虫垂炎、腸閉塞(イレウス)、腸重積、そけいヘルニア嵌頓(かんとん)、内ヘルニアなどといった疾患がこの部類に入ります。乳幼児であれば、不機嫌が続いている・顔色が悪い・嘔吐(特に緑色の吐物は注意が必要)・血便の症状がそろう場合は、腸閉塞や腸重積を強く疑います。
また、最大のポイントは、腸に血液の流れがいかなくなる状態(血流障害)が進行し腸が壊死してしまう前に、できる限り原因を見つけ出すことです。そのため、短期間に血流障害が進行する疾患を疑う場合は原因検索を直ちに開始すること、かつ場合によっては原因を見つけるための手術が必要です。一方、血流障害の進行がゆっくりであり、病院を受診した最初の時点では診断がつかないことも多々あります。
「時間的経過」をみることも必要です。例えば急性虫垂炎は手術が必要となることがある疾患ですが、最初の痛みは激しくないため、初めの症状からは急性虫垂炎とわからないケースも多くあります。また、「右腹が痛い」という症状が急性虫垂炎の初期症状であることもあります。いずれにしても、時間経過を見ることで、急性虫垂炎の症状が現れてきて診断がつくことになります。
腹痛は時間経過を追う必要もありますが、再受診を我慢する必要はありません。例えば、急性虫垂炎の場合、時間を置き過ぎると炎症が進行しすぎてしまうこともあります。強い痛みが続くならば、同じ日にもう一度受診することも必要です。
子どもが腹痛を訴えてもすぐに治ったり、食欲や元気があり、かつ顔色がよければ自宅で様子をみてよいでしょう。
お腹の痛みの性状、いつから始まったのか、どのようなときに痛くなったり治まったりするかの3つを伝えましょう。また、嘔吐した場合は吐物がどういう色だったかも重要な診断材料になります。最近ではスマートフォンなどで写真を撮り、持ってきてくれる方もいらっしゃいます。また、便に特徴がある場合も、便をオムツごと持ってきたり、スマートフォンで写真を撮ってきていただけると診断の参考になります。
また、お腹をぶつけた経歴を親御さんが把握していれば教えてほしいです。腹部外傷では、「このくらいの打ち方であれば平気である」という目安はなかなかありません。大人であれば大したことのない程度の打撲でも、子どもの場合だと臓器損傷を起こしている可能性があります。
「こどもの様子がおかしい」と思ったときは、日本小児科学会が運営する「こどもの救急(ONLINEQQ)」も参考にしてみてください。
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