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潰瘍性大腸炎――​​新薬登場で明らかになってきた病態学とは

潰瘍性大腸炎――​​新薬登場で明らかになってきた病態学とは
仲瀬 裕志 先生

札幌医科大学附属病院 消化器内科 教授

仲瀬 裕志 先生

この記事の最終更新は2017年02月08日です。

潰瘍性大腸炎は難病に指定されている病気です。近年、潰瘍性大腸炎の病態解析が大幅に進んだことで、治療法のさらなる進歩が期待されています。本記事では、潰瘍性大腸炎について札幌医科大学 消化器・免疫・リウマチ内科学講座 教授の仲瀬 裕志先生に解説いただきました。

潰瘍性大腸炎では、免疫システムに異常が起き、サイトカイン*が過剰に産生されることによって、大腸に炎症が生じます。すなわち、大腸の炎症が現れる前には、大腸の粘膜でサイトカインのバランスの崩れが起きます。一般的に、潰瘍性大腸炎の患者さんは腹痛や発熱など、体に症状が現れてから医療機関を受診しますが、病気自体は症状が発現する前(サブクリニカル)の状態から始まっているのです。

そのため潰瘍性大腸炎の治療には、症状が現れる前、つまりサイトカイン過剰分泌の病態学を明らかにすることが重要です。これが明らかになれば、今とは違った治療アプローチができる可能性が出てきます。

*サイトカイン:さまざまな細胞間で主要な情報交換を担うたんぱく質性因子の総称。

潰瘍性大腸炎の病態研究が大幅に進んだ背景には、生物学的製剤*の登場があります。

生物学的製剤は近年登場した新薬であり、潰瘍性大腸炎の治療を大きく変えた薬剤です。生物学的製剤は既存の治療薬とは機序が異なり、サイトカインを標的とします。たとえば、現在日本で使用されている生物学的製剤“インフリキシマブ”“アダリムマブ”は、サイトカインのひとつであるTNF-αの過剰な産生を抑制します。これらの薬剤の効果は既存薬と比較すると有用である例が多いため、潰瘍性大腸炎治療を飛躍的に進歩させました。

しかし、これらの生物学的製剤では治療が効きにくい例があることが分かってきました。その原因を検討したところ、TNF-α以外のサイトカインに異常が起きていることが原因ではないか、と考えられるようになりました。つまり同じ潰瘍性大腸炎でも、TNF-αが発症の原因になっている患者さんと、TNF-α以外のサイトカインが原因になっている患者さんが存在し、このことが薬剤効果の違いに現れているのではないか、と予想されたのです。

*生物学的製剤:生物由来の物質を応用して作られた治療薬のこと。

潰瘍性大腸炎の病態には、いくつかのサイトカインが関与していることが分かっています。その中でもっとも有名なものがTNF-αですが、そのほかにもIL-6、IL-12/IL-23、IL-10などのサイトカインの関与が示唆されています。

そして近年の研究で、同じ潰瘍性大腸炎でも、患者さんによってそれぞれサイトカインの過剰分泌量が異なることが分かってきました。つまり、患者さんの中でもTNF-αが優位、IL-1bが優位であるケースがあります。また一種類のサイトカインのみが過剰になるのではなく、TNF-α、IL-6、IL-12/IL-23、IL-10、それら全てが軒並み過剰分泌されていることもあります。このように多種のサイトカインが過剰になる場合は、サイトカインの合成を担う転写因子に異常があるケースだと考えられます。

このように同様の病気であっても、症例ごとのサイトカインのプロファイルはまったく異なることが分かってきています。

このような知見から、潰瘍性大腸炎はひとつの名称でひとくくりにできるものではなく、TNF-α disease(TNF-α病)、IL-1b disease(IL-1b病)など、それぞれのサイトカイン病という疾患概念で捉えることができると思います。そして、それぞれのサイトカインのプロファイルに基づいた治療方針を組み立てることで、より適切な治療が可能になるのではないでしょうか。

仲瀬先生

私は、このような最新の病態学に基づいてサイトカインのプロファイルに基づいた治療を展開していくべきだと考えます。

現在の日本で使用できる生物学的製剤はTNF-αを標的としたものに限られ、どのような症例であっても抗TNF-α抗体製剤が使われるのが現状です。もちろんこれらの薬剤によって多くの症例が寛解へと導かれますが、サイトカインのプロファイルを調べ、TNF-α以外のサイトカインの産生が過剰になっている場合には、それぞれのサイトカインを標的とする治療が選択されるべきでしょう。

目の前にいる患者さんはいったい何が原因で症状が引き起こされているのかを考えることで、患者さんにとってもっとも適切で、より近道な治療を提供することが医師の務めだと思います。

一昔前までの潰瘍性大腸炎治療は、ステロイドによって炎症を抑える方法が主流でした。しかし生物学的製剤が登場したことで、根本的な病因に迫った治療が可能になりました。そして病態学が明らかになりつつある今、これからは根本原因を突き詰め、個々の病態に沿った治療を展開することが私たちの責務だと思います。これからはサイトカインのプロファイルを調べ、Patient-oriented therapy(個々の患者さんを意識した治療)が行われる時代になるでしょう。

潰瘍性大腸炎と似た病気である“クローン病”も、小腸や大腸に炎症が起こる病気で、大腸粘膜組織のサイトカインの産生異常が発症や増悪に関与します。しかし興味深いことに、クローン病の場合には非常に多くの症例で抗TNF-α抗体製剤による治療が奏効するのです。このことからも、炎症性腸炎の中でも特に潰瘍性大腸炎は、個々の病態に合わせたオーダーメイドの治療が必要だといえるでしょう。

潰瘍性大腸炎の病態学に基づき、オーダーメイドの治療法を普及させていくためには、より簡便に患者さんの個々の病態を明らかにする検査方法が必要です。

近年では興味深い検査法が出てきています。ヨーロッパにおける事例ですが、薬剤投与中の患者さんから採取した血清に、専用の試験紙を浸すだけで、患者さんの血液中の生物学的製剤濃度を簡便に調べる方法が確立されつつあります。薬剤の血中濃度を明らかにできることで、個々の患者さんの状態に応じ、薬剤の投与量を検討することができます。

このような治療に反映させることができる簡便な検査方法は、患者さん個々の病態に合わせた治療を実現するうえでは必要不可欠です。この潰瘍性大腸炎治療の領域でも、オーダーメイド治療の実現に役立つ簡便な検査法を生み出せたらよいと考えています。

病態解明は大幅に進んでいますが、その結果を実際に患者さんの治療へと生かしていくには、薬剤を開発し治験を行う必要があるため少し時間がかかります。しかし昔に比べれば薬剤開発のスピードは速くなっています。さらに海外ですでに使用されている薬剤を日本で使えるようにする手続きも、昔に比べると格段に早くなっています。研究の結果が実臨床に生かされるまでの期間は確実に短くなっているため、今後の成果が期待されます。

 

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