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脳動脈瘤の治療選択肢を解説――安全に手術を遂行するために総合的な観点から治療方針を決める

脳動脈瘤の治療選択肢を解説――安全に手術を遂行するために総合的な観点から治療方針を決める
木村 新 先生

市立東大阪医療センター 脳神経外科 副部長

木村 新 先生

目次
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脳動脈瘤(のうどうみゃくりゅう)というと、命に関わる病気というイメージを持っている方もいらっしゃるかもしれません。しかし、まだ破裂していない脳動脈瘤が偶然に見つかった段階ではすぐに治療が必要なわけではなく、動脈瘤の状態や患者さんの状況などさまざまな要素を総合的に判断したうえで手術を行うかどうかを決めていくことになります。

今回は、市立東大阪医療センター 脳神経外科において副部長を務める木村 新(きむら はじめ)先生に脳動脈瘤の概要や治療などについてお話を伺いました。

脳動脈瘤とは、脳の動脈に生じた風船のような膨らみ((こぶ)) のことをいいます。脳動脈瘤そのものでは症状が出ない場合がほとんどですが、破裂するとくも膜下出血を引き起こし重篤な状態に至る可能性がある病気です。まれに未破裂の動脈瘤であっても、存在する部位や大きさによってはその周囲の神経を圧迫し、物が見えにくくなったり二重に見えたりすることがあります。

脳動脈瘤ができる理由はいまだに明確にはなっていませんが、高血圧喫煙などにより血管壁にストレスがかかることや、ごく一部では遺伝による血管の脆弱性(ぜいじゃくせい)との関連性が指摘されています。有病率は男性よりも女性、加えて高齢であるほど高くなるといわれています。

また、破裂しやすい因子としては、高血圧や喫煙、高齢であることに加えて脳動脈瘤の部位や大きさ、形状、多発性などが影響していると考えられています。

一般的に脳動脈瘤そのものは、破裂しない限り症状が出ないことがほとんどです。しかし、脳動脈瘤が破裂した場合は、頭痛や吐き気・嘔吐といった症状から意識障害を伴うような重篤な状態に至ることもあります。このような何らかの症状が現れてから病院を受診したり救急車で搬送されたりすることになるかと思います。

破裂する前に発見するとなると、脳ドックあるいは頭痛やめまいなどの症状が出たときに病院でMRIを撮影して見つかるケースがほとんどです。脳動脈瘤があるかどうかは調べてみないと分かりませんから、40歳を超えたら一度は脳ドックを受けていただき、何か指摘された場合には脳神経外科を受診ください。

先方提供
脳動脈瘤

脳動脈瘤が見つかったとしても、全ての方が治療の対象となるわけではありません。一般的に動脈瘤の大きさが2~3mmであれば経過観察となります。一般的には動脈瘤が5mm以上の大きさであったり、5mm以下でも破裂しやすい部位に存在していたり、いびつな形状をしている場合には治療を検討する対象になります。

脳動脈瘤の手術は、従来から行われている開頭クリッピング術と、カテーテルを用いた治療であるコイル塞栓術(そくせんじゅつ)という2つの方法に大きく分けられます。いずれの方法であっても手術のリスクはありますから、脳動脈瘤が破裂するリスクとそれぞれの手術のリスクを天秤にかけて、担当医とよく相談して開頭クリッピング術かコイル塞栓術かを決めることが重要です。

開頭クリッピング術とは、全身麻酔をした状態で頭部の皮膚を切開し、その下にある頭蓋骨を開けて行う手術です。顕微鏡で術野を拡大しながら脳や神経を損傷しないよう気をつけながら脳の隙間を開き、動脈瘤のある奥まで進入していきます。動脈瘤のあるところまで到達したら動脈瘤と接する脳や神経を丁寧に剥離(はくり)し、動脈瘤の根元をチタン製の小さなクリップで挟んで動脈瘤の中に血が流れ込まないようにして動脈瘤が破裂するのを予防します。

動脈瘤の位置にもよりますが、多くの場合は頭蓋骨を5cmほど開ける必要があるため、こめかみ部を中心に皮膚を切開します。傷あとが残るのではないかと心配される方がいらっしゃるかもしれませんが、切開する場所は髪の毛に隠れる位置となることが多いため、傷あとは経過とともに目立たなくなります。なお通常、手術後の痛みは日を追うごとに訴える患者さんは少なくなる傾向にあります。

コイル塞栓術では多くの場合、脚の付け根から挿入したカテーテルという細い管を大動脈から首の血管を経由して脳の血管まで到達させて治療を行います。脚の付け根の傷はカテーテルを挿入するだけのため、数mm切開するだけです。

まず太いカテーテルを首のほうまで持っていき、さらにその中にマイクロカテーテルという細いカテーテルを挿入し、これを動脈瘤の中に留置して、そこからプラチナ製のコイルをできるだけたくさん詰めていきます。留置したコイルは時間が経過するにつれて瘤の中の血液が固まる(血栓化する)ため新たに血が流れ込むことがなくなり、脳動脈瘤の破裂を防ぐことができます。コイル塞栓術による脳動脈瘤の治療は、頭部の皮膚を切開したり頭蓋骨を開けたりすることなく治療できるため、近年コイル塞栓術が選択されることが増加しています。

脳動脈瘤が存在する部位や大きさ、形状などによって、いずれの方法がより安全に治療できるかが変わってきます。つまり、さまざまな要素を検討して開頭クリッピング術とコイル塞栓術のどちらがより安全に手術を遂行できるかを患者さんにご説明したうえで、治療方針を選択していただきます。

どちらの手術方法であっても共通していえることは、脳の血管を傷つけると脳出血が出現し、動脈瘤を傷つけると手術中にくも膜下出血に至ることがあるということです。コイル塞栓術ではカテーテルなど異物を体内に入れることで血栓ができ、それが元となって脳梗塞(のうこうそく)を引き起こすリスクもありますが、開頭クリッピング術でも誤って正常な血管にもクリップをかけてしまうと閉塞(へいそく)し、脳梗塞を引き起こす可能性があります。

したがって、手術によってこれらの合併症が起こるリスクがあることを必ずお話ししたうえで、合併症が起こりえる確率のより低い治療法を患者さんに提示するよう心がけています。

コイル塞栓術は低侵襲(ていしんしゅう)(体の負担の少ない)であるがゆえに簡単に治療できると思われがちですが、脚の付け根から入れたカテーテルを放射線装置や造影剤を用いて遠隔操作しながら頭部の治療を行うため、術者の技術力が必要不可欠です。また、開頭クリッピング術と比べてコイル塞栓術はやや再発率が高いということも指摘されています。これは、治療直後は動脈瘤にコイルがしっかり詰まっていたとしても時間の経過とともに動脈瘤内に隙間が生じてしまうことがあるからです。したがって、コイル塞栓術は再治療が必要となる場合もあることを事前にご理解ください。

当院の脳神経外科では主に脳卒中脳腫瘍(のうしゅよう)・頭部外傷などを中心に診療を行っています。脳卒中などの救急患者さんが発生した場合に素早く治療を行えるよう、当院では神経内科の医師5名と当科の医師5名の計10名で24時間365日の当直体制を取っています(2021年7月時点)。なかでも、特に治療を急がなければならない急性期脳梗塞に対する血栓回収療法に関しても、できるだけ迅速に対応できるよう常に院内の体制を整えております。

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脳卒中の治療では、救急車で搬送されてきた患者さんを救急外来で初期対応した後、CT・MRIなどで画像診断を行い適切な治療につなげていきます。そのため、患者さんの搬送から診断・治療を行うまでの一連の流れをできるだけ短時間で行うことが重要となります。これを実現するためには、各診療部門が一体となってチームとして医療を行うことが必要です。

このようなチーム医療をスムーズに行うために、当科では各部門のスタッフや救急隊に定期的に勉強会を開いたり、日頃からコミュニケーションを図ったりすることを心がけています。今後も院内外の連携強化に努めることで、脳卒中診療におけるスムーズな診断・治療につなげてまいります。

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脳動脈瘤が破裂して、くも膜下出血になってしまった場合には、言わずもがなすぐに治療する必要があります。しかし、今回お話しした破裂していない脳動脈瘤、いわゆる未破裂脳動脈瘤では多くの場合は直ちに治療が必要な病気ではありませんから、まずは主治医の先生から動脈瘤の説明をしっかりと聞いたうえで治療を受けるかどうかを決めていきましょう。

脳動脈瘤と診断された段階では脳動脈瘤という病気に対して知識がなく、“破裂すると命に関わることもある”と聞くと、不安や疑問ばかりを抱えてしまう方も多いかと思います。そうした不安や疑問がないように納得できるまで話を聞いて、治療の必要性やリスクなどをご理解いただいたうえで治療を受けるかどうかを決めることが大切です。不安な気持ちや疑問点を1人で抱え込むことなく積極的に質問していただいたり、必要であればセカンドオピニオンを受けたりして、ご自身が十分納得して治療を受けていただければと思います。

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