診療は、人と人――患者さんやご家族が“納得”できる医療を提供し続けたい

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診療は、人と人――患者さんやご家族が“納得”できる医療を提供し続けたい

コミュニケーションを大切にする井上 信幸先生のストーリー

国立国際医療研究センター病院 心臓血管外科 診療科長
井上 信幸 先生

「誰か医者になってほしい」――祖父の言葉が医師を目指すきっかけに

私の実家は代々商売をしており、幼い頃は自分も将来は商人になるのだろうと思っていました。その一方で、母方の祖父が「孫の中で誰か医者になってくれるとうれしい」と何度も言っていたことが記憶に残っていました。その記憶を持ちつつ、勉強をしていくうちに、自分が人体や生物に強い興味を抱いていることに気付きました。高校生になった頃「祖父の想いと自分の方向性が一致した医学部を目指そう」と思ったのが医師を志したきっかけです。

もともと「外科系の医師が医者っぽい」という漠然としたイメージがあったのですが、大学で実習をしていく中で “手術で人を治すこと”への興味が具体的になりました。実習ではさまざまな臓器について勉強をしましたが、その中でも特に魅力を感じたのが心臓です。ポンプという単純な機能であるのに体の中核をなす心臓という臓器と、手術で人を治す外科医という自分の興味を掛け合わせた結果、たどり着いたのが“心臓血管外科医”でした。

患者さんの人生を左右する責任の重さはやりがいになって返ってくる

心臓手術では、私たち医師の治療行為がダイレクトにその後の患者さんの人生に関わります。心臓血管外科医としての経験が長くなるほどに、手術でのわずかな差が、その後の経過を左右することを実感しています。常に鍛錬が求められるのは言うまでもありませんが、その責任の重さこそが心臓血管外科医として患者さんを診るやりがいの1つだと感じています。

また、心臓手術は長時間におよぶことも少なくありません。緊急手術ともなれば夜通し手術をしていることもあります。長時間かつ精密な手技を必要とされる場面では「つらいときだからこそ皆で頑張ろう!」と医療チームがいつにも増して一体化することがあり、その“団結”を感じるときもまた、やりがいを感じる瞬間の1つです。

今でも忘れられない患者さん

心臓マッサージをしながら手術をするなど、ドラマで描かれるようなことが日常になっている私たちの科ですが、今でも忘れられないのは、若い頃に担当させていただいた心不全の患者さんです。外来で長く診ている時から延命治療を希望されず、末期心不全で入院され緩和ケアを行っていたのですが、いよいよ悪化し亡くなる寸前「先生、ありがとうね。」と私に強い最後の言葉を残し、そのまま心臓が止まりました。ドラマチックというのは言葉が不適切かもしれませんが、言葉にならない思いに涙したことを今でも鮮明に覚えています。ほかにも、ずっと昔から年賀状を送り続けてくださる患者さんもたくさんいらっしゃいます。大きな手術は医師の責任も大きいですが、患者さんにとっても人生の大きなイベントであり、それだけ強く印象に残るのでしょう。それならば、なおさら頑張らないわけにはいきません。

診療では“理解すること・理解していただくこと”を何よりも重視

診療では、まず患者さんのお話をじっくり聞き、患者さんをよく理解することを大切にしています。診療時間には限りがありますが、患者さんが話したかったことを話せない雰囲気にしてしまっては、重要な症状を見逃すことにつながりかねません。当たり前ではありますが、こちらから話を遮るようなことはありませんし、「まだお話ししたいことがありそう」と感じる場合には、じっくりお話を伺います。

また、ご自身の病気をよく理解していただくため、私は絵を描いて説明をすることが多々あります。患者さんがイメージをしやすくなるというのはもちろん、このまま絵を持ち帰ればご家族にも説明がしやすくなるためです。

心臓の病気は複雑であり、ましてや医療知識を備えていない患者さんにとってはなおのこと理解が難しいものです。診察室では理解ができたように思えても、帰宅後、ご家族に説明する際には異なった内容になって伝わってしまっていることも多々あります。そして何よりも、“よく分からない状態”で心臓にメスを入れる決断を簡単にできるはずはありません。病気を自分事として捉えたうえで、治療についてもよく理解・納得をした状態で臨んでいただくため、こちらから情報を伝えたのみで満足せず、“理解していただくこと”を重視して日々の診療にあたっています。

治療をして順調に回復をすればなによりですが、実際はそうならないこともあります。たとえ、患者さんの具合が悪化する、最終的に亡くなってしまうというような状況になったとしても、患者さんご自身や残されたご家族が納得できる状況であるかどうかはとても重要です。商人をしていた父が「最後は人間だよ」とよく言っていました。職業は異なりますが、医療もフェイス・トゥ・フェイスですし、父の言うとおり人間同士のコミュニケーションは本当に大事だなといつも感じています。最後に「ありがとう」と言っていただけるような医療を提供すべく、これからも努力を重ねていきたいと思います。

目指すは地域の医療機関が連携する“チーム医療”

医療の進歩と共に病気も複雑化しており、1人の医師が全てを解決するのは困難です。“チーム医療”という言葉がありますが、現状では1つの病院の中で他科と連携するというイメージが強いでしょう。しかし、各病院にはそれぞれ異なる得意分野がありますし、最先端と言われるような治療も各分野によってそれぞれです。今後は“チーム医療”の枠組みをさらに広げ、地域の医療機関が連携することで“総合的に患者さんを治す地域医療”を目指したいと考えています。

診療以外でも医師の立場からできることをやっていきたい

私は学生時代からコミュニケーションツールとして手話に興味があり、手話サークルに参加していました。当初はただ手話を学ぶだけだったのですが、医学部生や医師の立場で手話に関わる活動をしているというのが珍しかったようで、全国手話通訳問題研究会(全通研)神奈川支部の医療手話研究班から声をかけられたのです。取り組みは各県によって異なるのですが、神奈川県の医療手話研究班では、(ろう)者の方々に医療情報を伝える活動をしており、私もそこに非力ながら加わっていました。医師になってからも、病院を異動するたびにそれぞれの地区の支部に所属し、講演会や聾学校でのセミナーなどの活動を継続しています。

直近では、北海道の聾学校の生徒の皆さんに、医師の仕事を体験してもらうセミナーを開催しました。内容は、心臓の仕組みの解説や豚の心臓を使った模擬手術などで、これまで学んだ手話を交えて解説をしました。私が学生だった頃は、耳の聞こえない方は医療者になれないという欠格条項があり、手話サークルで欠格条項の撤廃を求める署名活動を行ったこともありました。2001年にこの欠格条項が改められ、耳が聞こえない方でも医師免許を取得できるようになりましたが、実際はまだまだ少数です。このような活動を通して、障害の有無にかかわらず医療者という職業を1つの選択肢として考えてもらえたらうれしいです。私自身は手話ができるかと尋ねられると、「まだまだ」としか答えられないレベルですが、今後も医師の立場からできることを続けていきたいと思っています。

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