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新型コロナウイルス 致死率はインフルエンザ並みか

公開日

2020年02月04日

更新日

2020年02月04日

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2020年02月04日

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東京医科大学病院 渡航者医療センター 客員教授

濱田 篤郎 先生

この新型コロナウイルス感染症に関する記事の最終更新は2020年02月04日です。最新の情報については、厚生労働省などのホームページをご参照ください。

中国の湖北省・武漢市で昨年12月に発生した新型コロナウイルスの流行は、今年1月になって中国全土へと拡大し、1月30日(日本時間31日未明)に世界保健機関(WHO)は「国際的な公衆衛生上の緊急事態である」との宣言を発しました。患者数は1月下旬から急増し、記事執筆(2月2日)時点で1万4000人以上、死亡者数も300人以上にのぼっています。海外でも26の国と地域で170人の感染者が確認されており、日本国内でもその数は20人になりました。

このように流行が拡大する中、さまざまな医学的な情報が発信され、今回流行している新型コロナウイルスの正体が次第に明らかになってきました。

明らかになった流行メカニズム

ヒトに感染するコロナウイルスの中にはSARS(重症急性呼吸器症候群)MERS(中東呼吸器症候群)のように重症の肺炎をおこすものもありますが、多くは軽い風邪の症状をおこすウイルスです。動物に感染しているコロナウイルスも数多くあり、それがヒトに感染して流行することがあります。SARSやMERSの流行はその典型例で、今回の流行も同様です。武漢の市場で販売されていた何らかの動物から、コロナウイルスがヒトに感染し、流行が始まったと考えられています。12月中は患者数があまり増えませんでしたが、1月には武漢の町中でウイルスがヒトからヒトに拡大するようになっていきました。

コロナウイルスの多くは呼吸器に侵入して増殖します。このため患者は鼻水やせきといった上気道の症状や、肺炎など下気道の症状をおこします。こうした患者がクシャミやせきで周囲にウイルスを放出し、その飛沫(ひまつ)から感染が拡大するのです。

武漢で動物からヒトにウイルスが感染していた時期は、肺炎を起こす人が多くみられました。これはウイルスが下気道で増えていたためで、感染力はそれほど強くありませんでした。しかし、ヒトからヒトへの感染がおこってから、ウイルスが上気道の咽頭(いんとう)や鼻などでも増えるようになり、周囲に飛沫を放出しやすくなったようです。その結果、1月下旬から患者数が急激に増加していきました。

感染力と毒性~感染者数が急増した理由

感染症は原因となる病原体の「感染力」と「病原性」によって、流行のスピードや重症度が決まります。病原性という言葉は難しいので、ここでは「毒性」という言葉を使います。

今回の新型ウイルスの場合、動物からヒトに感染している時点では、感染力はあまり強くなかったようです。しかし、ヒトからヒトの感染を繰り返し、上気道で増殖するようになると、周囲に多くのウイルスが飛散するため、感染力が増強しました。

一方、毒性に関しては、流行当初は肺炎をおこすなどして強かったようです。それが上気道で増殖するようになると、症状も咽頭炎や鼻炎と軽くなっていきました。しかし、患者は軽い症状になることで町中を動き回るため、感染力はさらに増強しました。これが1月下旬に患者数が急増した原因と考えられています。

感染力の指標として1人の感染者から何人に感染させるかという数値が使われます。インフルエンザやSARSでは1人から2~3人になります。今回の新型ウイルスは1月中旬の時点で1人から2人に感染するとされていますが、現時点ではもっと多い可能性もあります。この指標からすると、今回の新型ウイルスの感染力はインフルエンザやSARSとほぼ同様で、かなり感染しやすい状態です。

毒性の指標としては致死率が目安になります。これは患者のうち死亡した人の割合で、SARSでは約10%、インフルエンザでは約0.1%という数値です。新型ウイルスはどうかというと、2月2日現在の患者数(14549人)と死亡者数(305人)で算出すると約2%になります。この致死率はSARSよりも低くなりますが、インフルエンザの20倍もあり、これが多くの人々の不安を招いているようです。しかし、私は実際の致死率がもっと低いと考えています。

中国・湖北省とそれ以外の地域は分けて考える

現在、流行が最も深刻なのは武漢を中心とする中国・湖北省です。全世界の患者数の6割以上はこの地域で発生しています。この地域は流行の震源地であるとともに、中国政府が流行制圧の目的で封鎖しました。医療施設は患者であふれ、医療従事者も不足し医療器材や薬品も欠乏しています。まさに医療体制が崩壊している状況です。

この湖北省で全世界の死亡者の約95%が発生しています。湖北省だけで患者の致死率を算出すると3%を超えているのです。一方、湖北省以外の中国国内や海外を含めても、致死率は0.2%と低くなります。

なぜ、こんなに致死率が違うのでしょうか。その理由は湖北省で医療体制が崩壊し、高齢者などの重症になった患者に適切な医療が提供できない状況にあるからです。このため、死亡者が増えているのです。

私は今回の新型ウイルスの真の致死率が、湖北省以外で計算された0.2%に近いと考えています。この数値であれば、感染力にしても毒性にしても、インフルエンザとほぼ同等と言えるのではないでしょうか。

日本でも流行は必至…その時に必要な備えは

マスクをする女性
写真:PIXTA


現在の新型ウイルスの感染力からすると、日本の国内流行も近いうちに始まるでしょう。現在は患者が発生した時、誰から感染したかが分かりますが、これが分からなくなると、本格的な国内流行の始まりです。

その時点で大事なのは、日本の医療体制を湖北省のように崩壊させないこと。新型ウイルスの患者を診療する医療機関が正常に機能していれば、インフルエンザの流行と同等の被害で済むはずです。日本では全国400カ所の指定医療機関が新型ウイルス患者の診療を行う予定です。しかし、患者数が急増した場合にこの医療機関だけで処理できるのか。こうした医療機関は、日頃、慢性疾患やがんの患者の診療も行っています。近隣の医療機関がこの負担を肩代わりすることも必要になってくるでしょう。また、2009年の新型インフルエンザ流行時のように、一般の医療機関でも患者を診療する体制を検討する必要があります。

こうした体制の整備は直ちにできるものではなく、ある程度の時間が必要です。この時間稼ぎに必要なのが「水際対策」です。すなわち検疫での対応や流行地への渡航自粛になります。この水際対策で日本への新型ウイルスの侵入を完全に防ぐことは無理ですが、国内流行時の医療体制を整備する時間を稼ぐことはできます。

新型のウイルスというリスク

このように新型ウイルスが流行したとしても、国内の医療体制が正常に機能していれば、毎年のインフルエンザ並みの被害で終わるはずです。しかし、これがアジアやアフリカの貧しい国の場合はどうでしょうか。平時においても医療体制が脆弱(ぜいじゃく)な国で、新型ウイルスの流行がおきると、現在の湖北省での流行のような事態になりかねません。1月30日にWHOは緊急事態宣言を発した時に、医療体制の脆弱な国への国際援助を呼びかけました。日本も自国対策だけでなく、こうした国への支援を行う必要があります。

最後に、今回のコロナウイルスが「新型」であることのリスクも知っておく必要があります。動物からヒトに感染し、流行が始まったばかりのウイルスは変異をすることがよくあります。1月に感染力が増強したのも、ウイルスの変異の可能性があります。そして、私が懸念するのは、ウイルスの毒性が強くなる変異です。こうした変異がおきていないかを常時監視し、それに応じた臨機応変な対応をとることが必要です。

現時点で流行している新型コロナウイルスは、感染力が強いものの、毒性はあまり強くありません。被害は毎年流行するインフルエンザ並みと考えていいでしょう。それを保障するためには、通常の医療体制を維持することやウイルスの毒性を常時監視することが欠かせません。

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東京医科大学病院 渡航者医療センター 客員教授

濱田 篤郎 先生

1981年に東京慈恵会医科大学卒業後、米国Case Western Reserve大学に留学し熱帯感染症、渡航医学を修得する。帰国後に東京慈恵会医科大学・熱帯医学教室講師を経て、2004年より海外勤務健康管理センターのセンター長。新型インフルエンザやデング熱などの感染症対策事業を運営してきた。2010年7月より現職に着任し、海外勤務者や海外旅行者の診療にあたっている。