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広がりつつある新型コロナウイルスからわが身を守るには

公開日

2020年02月06日

更新日

2020年02月06日

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2020年02月06日

掲載しました。
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国際医療福祉大学救急医学 主任教授、国際医療福祉大学成田病院 救急科部長

志賀 隆 先生

この新型コロナウイルス感染症に関する記事の最終更新は2020年02月06日です。最新の情報については、厚生労働省などのホームページをご参照ください。

中国の湖北省武漢市から広がった新型コロナウイルスは、日本国内でもヒトからヒトへの感染が確認され、流行の恐れを感じている人も多いのではないでしょうか。たとえ「新型」であっても、ウイルスの性質などから、予防する方法はある程度分かります。正しい方法を守れば、感染のリスクは下げられます。

最善の予防策は「手洗い」

感染予防に最も有効な方法は手洗いです。

ウイルスは一般的に粘膜から体に侵入します。手が触れやすい顔には目・鼻・口に粘膜があり、触る前に手からウイルスを洗い流しておくことが、感染予防に1番大切です。

職場や学校に着いた、自宅に着いた、トイレに行った後、食事や水分を取る前、共用の食器(ビュッフェのトングやスプーンなど)や共用スペースのドアノブ・手すり・ひじ掛けなどに触ったら――1にも2にも、粘膜に触れる前の手洗いが有効です。

正しい方法で手洗いをしなければ、確実にウイルスを洗い流すことができません。コツは「お誕生日の歌(♪ハッピー・バースデー・トゥー・ユー)を2回」です。

まず、水で手を濡らしせっけんを泡立てたら、手のひら、手の甲、手首、指先、指の間、親指の付け根をしっかり擦ります。最低20秒は洗ってください。わざわざ計らなくても、お誕生日の歌を2回歌うと、およそ20秒になります。声に出して歌うと飛沫が飛ぶ恐れもありますので、こころの中で歌ってください。また、せっけんは「抗菌」「薬用」である必要はありません。

手洗いの方法
写真:PIXTA

アルコール消毒も有効

せっけんで手を洗えない場合は、手指の消毒も有効です。ノロウイルスのようにアルコールで消毒できないものとは異なり、新型コロナウイルスは基本的にアルコール消毒で大丈夫です。コロナウイルスはエンベロープという2重の膜でできた“殻”に包まれた「エンベロープウイルス」だからです。エンベロープウイルスの膜は油に溶けやすい「脂溶性」で、アルコールによって破壊されます。

マスクは必要?

新型コロナウイルスに限らず、マスクで感染症は防げるのかという議論があります。マスクをすることが理論上肯定される状況は(1)感染している人が症状(せきやくしゃみ)によって、周囲の人々に病原体を拡散させないようにする(2)医療従事者が患者(診察など濃厚接触するため)からの感染を防ぐ――場合の2点です。

では、症状のない人々が公共の場で、不特定の、症状がある「かもしれない」方々から拡散するかもしれない気道感染症を防ぐためにマスクを常時着用することは意味があるのでしょうか。これに関しては、「強いエビデンス(科学的根拠)はない」が現段階での結論です。しかし「感染している人がマスクをしない場合には周りの人がマスクをする」必要が出てくるかもしれません。職場や公共機関で周りの人が必ずしもせきやくしゃみのエチケットをしてくれない場合には、やはりしぶきから感染してしまう可能性は理論上でてきます。ですから、「感染していて、マスクをしていない人がいるかもしれない」という視点からは、マスク使用の意義はあると判断する人はいるでしょう。

いずれにせよ、特にこういう時期は必要な人に行き渡らないことになることがありますので、マスクはどういう時に使用するべきかを考え、買い占めなどは控え、必要に応じて使うという考えが必要です。

では、感染予防にはどんなマスクが必要でしょうか。結核治療の際などに使用する密封性の高いN95と呼ばれるタイプのマスクが必要であると考える人たちもいます。しかし、過去の研究ではN95でインフルエンザの感染予防を試みた場合と、ドラッグストアなどでも市販されている密封性の比較的低い「サージカルマスク」で試みた場合で、その後の感染の差はなかったという結果になっています。したがって、通常のマスクでの対応が可能と考えてよいと思います。

もしマスクを使う時には、適正使用が必要です。マスクと顔の間にすき間ができないようにフィットさせ、鼻と口をしっかりカバーするように正しくかけてください。また、マスクは再利用せず、使ったら捨ててください。それでも、マスクは万能ではありません。マスクを触ったら目・鼻・口などの粘膜に触れる前には必ず手を洗ってください。

マスクと消毒液
写真:PIXTA

新型ウイルスの危険度は

新型コロナウイルスの感染力(1人の発症者が治るまでに何人にうつすかを示す「基本再生産数」)は2.2と考えられています。これは通常のインフルエンザと同等のレベルですのでそれほどうつりやすいとは言えません。

では、ウイルスの“毒性”はどうでしょう。中国では、重症の患者さんだけに、のどの奥をぬぐった液や痰(たん)に含まれるDNAを増幅する「PCR」という方法で、ウイルス由来のDNAがないかを調べる検査を行っていると考えられ、分母となる患者さんの数が実際の感染者数よりも少なくなっています。その結果、致死率が武漢市で6.0%、中国全体で2%(2月5日現在)など高い値になります。ただし、中国国内でも“震源地”の湖北省を除外して感染者の致死率を計算すると、公表されている患者数を分母に計算しても0.2%弱(2月5日現在)と、かなり低くなるのがわかります。

武漢から日本に帰国した人たちの検査をする中で、症状がない、あるいは軽い患者さんからもウイルスが検出されています。この事実から考えられるのは「日本は水際対策で検査をしているため、軽症や無症状の感染者まで把握されている」ということです。一方の中国では前述のように重症者だけしか検査をされていません。武漢に滞在後に帰国した日本人全体と感染者数の比率から考えても、人口約1100万人の武漢市で新型コロナウイルスに感染している人は、発表されている数よりも多くいるであろうということが想定されます(著名な医学雑誌「THE LANCET」は1月31日、武漢市及び周辺で約7万5000人の感染者がいると推計する論文を掲載しています)。

SARSの治療法が有効か?

中国を中心に、世界中で治療法が模索されています。

まず、ウイルスが原因ですから、いかなる種類の抗菌薬(抗生物質)も効果はありません。

十分な科学的な証拠はありませんが、HIVの治療薬であるロピナビル/リトナビル合剤が2002~03年のSARS(重症急性呼吸器症候群)流行の際に有効である可能性が示唆されました。今回の新型コロナウイルスに対しても中国の病院で使用されているという報道があります。ただ、この薬剤の副作用で下痢などが起きるため、治療をするとしても重症の患者さんに限られます。

いずれにしても、症例も少ないため、確定的な治療法は見つかっていないのが現状です。またワクチンの開発も月単位でかかるため、最終的に皆さんに行き渡るためには時間がかかることが予想されます。

「水際対策」でも国内に広がる可能性

日本では国を挙げての水際対策がなされています。これで完全に新型コロナウイルスの拡大を防げるかというと、かなり難しいだろうということが想定されます。なぜかというと、資源・時間・人手の観点から、今のところ主に「(A)37.5℃以上の熱とせきなど呼吸器症状があり、発症前14日以内にWHOの発表から新型コロナウイルス感染症の流行が確認されている地域(現時点では湖北省に限定)に渡航又は居住していた人」「もしくは(A)に当てはまる方に濃厚な接触があった人」という条件を満たさない限り、前述のPCR検査は行われないからです。

検査をする人の範囲を決める「流行地渡航歴」の定義は、国や専門機関により異なります。すでに流行地域は複数存在していますので、湖北省以外への渡航歴やそこに滞在していた有症状者との接触は検査の対象にならない可能性が高いでしょう。また、そもそもすべての検査には100%の精度がなく、これはPCR検査も同様です。つまり検査をしても一定数の症例をこぼす可能性があることは、どの検査にもつきものです。また、症状の幅が広く、かつ特異的な症状が明らかでない感染症は、水際対策で蔓延を防ぐことは元来難しいのです。2009年に新型(H1N1)インフルエンザが世界的に流行した際にも水際対策を行いましたが、最終的にはかなりの広がりとなりました。

今回も同様に広がることが懸念されます。ただ、急な拡散は体制・時間・資源のいずれの面でも病院の対応が間に合わなくなってしまいます。ですので、ここまでに述べたように検査ができる・できない、検査の陽性・陰性の結果にかかわらず▽手洗いを徹底する▽症状がある人はマスクを着用する▽不要不急の外出は避ける▽集会や集まりなどへの参加は控えめにする▽同様に気道症状で流行のある疾患でワクチンがあるもの(インフルエンザなど)は適切に接種する――などの対策を1人1人が講じることで、少しでも広がりを抑制していくことが必要になると考えています。

 

*本記事作成にあたり東京都立多摩総合医療センター感染症科の本田仁医師に助言をいただきました。この場を借りてお礼申し上げます。

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国際医療福祉大学救急医学 主任教授、国際医療福祉大学成田病院 救急科部長

志賀 隆 先生

学生時代より総合診療・救急を志し、米国メイヨー・クリニックでの救急研修を経てハーバード大学マサチューセッツ総合病院で指導医を務めた救急医療のスペシャリスト。東京ベイ・浦安市川医療センターでは救急の基盤をつくり、国際医療福祉大学医学部救急医学講座教授に着任。後進の育成にも力を注ぐ。