リンパ球や類上皮細胞などの集合体である肉芽腫が肺や心臓、皮膚などに形成され、多様な症状が現れる「サルコイドーシス」。日本の研究グループにより、この病気の発症には、ニキビの原因菌でもあるアクネ菌が関与しているのではないかと考えられています。なぜ、身近な常在菌によりサルコイドーシスという特殊な病気を発症することがあるのでしょうか。
現在考えられているサルコイドーシスの原因と発症のメカニズム、病変臓器ごとの主な症状について、東邦大学医学部 びまん性肺疾患研究先端統合講座 教授の本間栄先生にご解説いただきました。
サルコイドーシスとは、皮膚や臓器、神経、眼球など、全身のさまざまな部位に肉芽腫が形成される病気です。肉芽腫とは、類上皮細胞やリンパ球などが集合して硬くなった結節であり、内部にアクネ菌を封じ込めるような形態をしています。
アクネ菌とは、ニキビの原因菌として広く知られている常在菌であり、サルコイドーシスの原因菌にもなると考えられています。このほかにも結核菌を原因菌とする説などがありますが、これまでの研究ではアクネ菌を原因菌とする説がもっとも有力だと考えられています。
P.Acnessによるサルコイドーシスにおける肉芽腫形成機構 Resp Invest 51,2013 を参考に作成
サルコイドーシスとアクネ菌の関連の可能性は、世界に先駆けて日本で発見されました。1970年代に本間兄弟、伊藤らが、サルコイドーシスの患者さんのリンパ腺からアクネ菌を検出し、その後、東京医科歯科大学の病理学者・江石先生が追試を行い、2012年にアクネ菌との関連の可能性を病理組織学的に証明しました。
前項で述べた結核菌など、ほかの菌もリンパ球などと共に肉芽腫を形成することが分かっていますが、サルコイドーシスの患者さんの組織からは高率にアクネ菌が検出されます。菌が気道を介して侵入し以下に述べる免疫反応が起こり、その後リンパ管や血管にのって全身に病気が広がっていくものと考えられます。
アクネ菌はどこにでも存在し、通常であれば人体に害をなすことはない常在菌です。肉芽腫が形成される原因は、Th1型細胞免疫反応と呼ばれるIV型のアレルギー反応であり、この反応は体質(個人的素因)と環境要因が組み合わさることで起こると考えられています。サルコイドーシスの発症に関与する環境要因には、ストレスなどがあるのではないかと推測されていますが、科学的に証明されているものではありません。
サルコイドーシスの発症年齢のピークは、若年期と高齢期の2回あります。これを、二峰性を示すといいます。また、発症頻度には性差があり、男性に比べ女性のほうがやや高くなっています。発症年齢と性別の組み合わせをみると、若年発症のサルコイドーシスは男性に多く、高齢発症は女性に多いという特徴があります。あくまで推測の域を出ませんが、高齢女性のサルコイドーシスは、閉経を迎えてホルモンバランスが崩れることなどが関係しているのではないかといわれています。
サルコイドーシスは遺伝する病気ではありませんが、重症化のしやすさには人種差があります。たとえば、黄色人種に比べ黒人は治りにくい(難治化しやすい)傾向があり、この理由には遺伝的背景も関与しているのではないかと考えられています。
また、日本国内では北海道など、緯度の高い地域のほうが、患者数が多いという特徴もあります。
サルコイドーシスの症状は、病変の発生部位により異なりますが、大きく「臓器特異的症状」と「非特異的全身症状」に二分されます。障害された臓器ごとの臓器特異的症状は、特に肺や目、心臓や皮膚などに現れることが多くなっています。また、神経や筋肉、関節に肉芽腫が形成され、症状を呈することもあります。
ぶどう膜炎が起こることが非常に多く、日本ではぶどう膜炎の代表的な原因がサルコイドーシスといわれています。ほかにも、視野がかすむ霧視や、視界に小さな虫が飛んでいるようにみえる飛蚊症を訴える患者さんが多くみられます。
また、目を開けていると眩しく感じる羞明や、夕方になると新聞や本の文字が読みにくくなる症状が現れることもあります。病変が眼球のみに現れる場合を、眼サルコイドーシスと呼びます。
日本人のサルコイドーシスは心臓に起こりやすいという特徴があり、全患者さんの約10%は心臓病変を抱えています(心サルコイドーシス)。
心サルコイドーシスの2大症状は不整脈と房室ブロックです。房室ブロックは、心筋の右室壁上部に肉芽腫が生じやすいために起こる症状です。そのため、心電図により不整脈がみられた場合は、心筋に肉芽腫がないかどうかを調べるために心筋生検を行います。ただし、心筋生検は侵襲(負担)も大きい検査ですので、全ての方に行うわけではありません。多くの心サルコイドーシスは、心電図と心エコー検査で診断をつけることができます。これらの検査でも肉芽腫の有無が分からないときには、PET-CTを行います。過去にはガリウムシンチグラフィを行っていた時代もありましたが、心サルコイドーシスに対するPET-CTが保険適応となったことで、ガリウムシンチグラフィは行われなくなりました。
心サルコイドーシスの患者さんを発見した場合、もっとも注意しなければならないことは房室ブロックによる突然死です。若い方がある日突然に亡くなってしまい、死因を調べるとサルコイドーシスであったというケースもあります。
このような例を防ぐためには、定期的に心電図検査を行うことが極めて重要です。すでに心サルコイドーシスであると診断がついている場合は、3~6か月に一度と比較的高い頻度で定期検査を行います。
また、心臓に関しては無症状でも、肺など別の部位に病変がある場合は、半年に1回のペースで心電図検査をすることが推奨されています。
心筋の右室壁上部に肉芽腫が生じている患者さんなど、危険な房室ブロックを起こすリスクが高い場合はペースメーカーを入れることもあります。
肺サルコイドーシスを発症していても、症状がよほど進行していない限り自覚症状は現れません。
肺サルコイドーシスの多くは両側肺門リンパ節に肉芽腫が多数溜まるように形成され、リンパ腺が腫れるため、健康診断時のX線検査により発見されます。
当科でも、両側肺門縦隔リンパ節の腫れにより肺サルコイドーシスの疑いがあると紹介されて来られる方がもっとも多くなっています。
肺サルコイドーシスが進行すると、弾性を失って肺が硬くなる肺線維症をきたします。肺線維化が進行している場合、咳や肺活量の低下による息苦しさなどの自覚症状が現れます。
肺線維症は不可逆的(元に戻らないこと)で治療も難しいため、60歳以下の若い患者さんの場合は肺移植の適応となる場合があります。
肺線維症と並ぶ重篤な進行症状は、肺高血圧症です。肉芽腫は血管壁にできることが多く、肺血管のうち肺動脈や肺静脈などの重要な血管に病変が生じてしまうと、肺高血圧症を引き起こすリスクも高くなります。肺高血圧症を生じると、心臓にも大きな負担がかかり酸素供給も十分にできなくなるため、入院による管理と治療が必要になります。
サルコイドーシスの中には、症状が5年以上にわたり持続し、治療を行っていても進行していく難治性サルコイドーシスがあります。上述した肺線維症や肺高血圧症も、難治性サルコイドーシスの患者さんに多くみられます。日本での頻度はまれですが、難治性サルコイドーシスは死亡リスクもあるため、慎重に管理を行う必要があります。
このほか、肺にできたサルコイドーシスが、リンパ行性に広がり、肝臓や脾臓、神経や皮膚に広がることもあります。
サルコイドーシスの代表的な神経症状には、顔の片側が動かせなくなる顔面神経麻痺があります。
また、下垂体に肉芽腫ができると、多尿になる尿崩症を発症することがあります。下垂体が障害されることより尿崩症が引き起こされる理由は、抗利尿ホルモンが下垂体後葉から分泌されているためです。
脊椎を走る脊髄に病変が生じた場合は、手足の痛みやしびれ、自律神経失調症と称される非特異的な症状が引き起こされることもあります。
サルコイドーシスの代表的な皮膚病変は、皮膚サルコイドと瘢痕浸潤(瘢痕が赤く腫脹する病変)、結節性紅斑の3つです。過去には、皮膚が硬くなり赤色の斑点が生じる結節性紅斑をみる機会が特に多くありました。サルコイドーシスによる結節性紅斑に規則性はありません。
皮膚サルコイドとは、皮膚にイボのような隆起性の結節ができる症状です。
これらの皮膚病変は頭部から足先まで、至る部位にできる可能性がありますが、四肢などの分かりやすい部位に生じることで発見、診断に至ることが多いと感じています。
サルコイドーシスの非特異的全身症状には、原因がはっきりとしない疲労感や発熱、息切れなどがあります。また、関節痛や頭痛、背部痛などの痛みも、非特異的症状に分類されます。これらの痛み症状は、神経や筋肉に病変が生じることに関係している可能性もあると考えられます。
吾妻安良太(編),三嶋理晃(編)『間質性肺炎・肺線維症と類縁疾患』(呼吸器疾患診断治療アプローチ,4)中山書店,2018.
宮坂信之(編)『膠原病の肺合併症 診療マニュアル』医薬ジャーナル社,2012.
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