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体軸性脊椎関節炎(強直性脊椎炎/X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎)とは?

動くとラクになる腰痛は免疫疾患が原因の可能性も

監修:日本脊椎関節炎学会理事長 山村昌弘先生

体軸性脊椎関節炎(強直性脊椎炎/X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎)とは

腰や背中などの痛みにはさまざまな原因がありますが、長引く場合には免疫系の病気である可能性もあります。その中の1つが、“体軸性脊椎関節炎(強直性脊椎炎/X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎)”です。

体軸性脊椎関節炎とは、何らかの原因によって免疫のはたらきに異常が生じて正常な体内の組織を攻撃し、腰や背中といった体軸関節や、付着部(筋肉と骨が付着する部位)などに炎症が起きる疾患群の総称です。

脊椎関節炎の分類

体軸性脊椎関節炎は、“脊椎関節炎”の1つに分類されます。脊椎関節炎は、背骨や骨盤などの関節に炎症が起こる病気の総称であり、診断名ではありません。

脊椎関節炎は、背骨などに炎症が起こる“体軸性脊椎関節炎”と手足など末梢(まっしょう)の関節に炎症が起こる“末梢性脊椎関節炎”の2つに分けられます。また、体軸性脊椎関節炎や末梢性脊椎関節炎も診断名ではなく疾患群の総称であり、それぞれいくつかの病気が含まれています。

体軸性脊椎関節炎には“強直性脊椎炎”や“X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎”が、末梢性脊椎関節炎には“関節症性乾癬(乾癬性関節炎)”、“反応性関節炎”、“炎症性腸疾患関連の関節炎”や、”分類不能の末梢性脊椎関節炎”が含まれます。

ただし、たとえば強直性脊椎関節炎でも手足の関節に症状が出たり、乾癬性関節炎でも背中や股関節に症状が出たりすることもあります。このように、体軸性脊椎関節炎に分類される病気は体軸症状のみが、末梢性脊椎関節炎に分類される病気は末梢症状のみが出るというわけではありません。

脊椎関節炎の分類

出典:Raychaudhuri SP, et al:. J Autoimmun. 2014;48-49:128-133.

強直性脊椎炎とX線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎

体軸性脊椎関節炎は、“強直性脊椎炎(ankylosing spondylitis:AS)”と“X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎(non-radiographic axial SpA:nr-axSpA)”に大別されます。

強直性脊椎炎はX線検査(レントゲン検査)で仙腸関節(下図参照)に変化が認められるものを指し、国の指定難病とされています。

仙腸関節
画像提供:PIXTA

一方、X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎は、強直性脊椎炎と同様の症状が見られるもののX線検査をしても仙腸関節に大きな変化が認められないものを指します。下図のようにX線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎から強直性脊椎炎に進行することもありますが、進行の速さや程度には患者さんごとに差があり、仙腸関節にX線所見が見られないまま経過することもあります。

X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎

患者の傾向

多くは10~20歳代で発症し、病勢のピークが20~30歳代、40歳代に入ると次第に痛みが落ち着き、人によっては強直が強くなってくることが一般的です

発症者の男女比は、強直性脊椎炎では3:1と男性の方が多く、X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎は1:2と女性の方が多いことが分かっています

体軸性脊椎関節炎(強直性脊椎炎/X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎)と遺伝子の関係

体軸性脊椎関節炎(強直性脊椎炎/X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎)は特殊な遺伝子の型であるHLA-B27との関連性があり、日本では一般人口の約0.3%がHLA-B27陽性と報告されています

陽性者のうち強直性脊椎炎を発症するのは10%未満で、2018年に行われた全国疫学調査では約3,200人と推定されました。また、X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎の推計患者数は約800人とされています

日本人のHLA-B27陽性者は諸外国と比べて多くはありません。これに連動して、日本人の強直性脊椎炎やX線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎の発症者も諸外国と比較して少ないため、診断が遅れがちです。強直性脊椎炎の場合、日本では症状が出てから診断が確定するまで平均で9年前後かかっているという報告もあります

強直性脊椎炎の初発年齢

出典:井上久, 日本脊椎関節炎学会誌, 2011; 3(1): 29-34

体軸性脊椎関節炎(強直性脊椎炎/X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎)の原因

現在のところ体軸性脊椎関節炎(強直性脊椎炎/X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎)のはっきりとした原因は不明ですが、前述したとおりHLA-B27と関連があることが分かっており、患者さんの多くがHLA-B27の遺伝子を持っています。親子や兄弟姉妹など家庭内での発症も報告されていることから、遺伝がある程度関与していることは確かだといわれています。

細菌感染など後天的な要因がある可能性も

HLA-B27を持っているからといって必ずしも強直性脊椎炎やX線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎を発症するわけではありません。遺伝以外に細菌感染などの何らかの後天的な要因が加わることによって病気を発症すると考えられています。いまだ特定されてはいませんが、腸内細菌の関わりが最近注目されています(2020年9月時点)

体軸性脊椎関節炎(強直性脊椎炎/X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎)の特徴的な症状

体軸性脊椎関節炎(強直性脊椎炎/X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎)でよく見られる初期症状は、腰や背中、うなじ、骨盤のこわばりや痛みです。肩や股関節(こかんせつ)、胸骨と肋骨(ろっこつ)・鎖骨の接合部、かかとなどに痛みが出ることもあります。

特徴としては、夜間などに安静にしていると痛みが強くなり、運動するなどして体を動かすとよくなることがあります。また、痛みが強いときとまったく痛みがないときがあり、症状の出方の波が激しいことも特徴です。

時間経過とともに悪化する

この特徴的な痛み(炎症性腰背部痛)は3か月以上続き、時間が経つにつれ悪化していきます。具体的には徐々に痛む場所が増え、痛みの頻度が増し、痛みのない時間が短くなります。最終的には常に痛みが出ているようになります。

痛み以外では、病気の経過にかかわらず、体のだるさ、疲れやすさ、睡眠障害、微熱、体重減少などの全身症状が見られる場合もあります。

体軸性脊椎関節炎の特徴的な症状

X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎から強直性脊椎炎に移行することも

X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎では強直性脊椎炎と同程度の強い症状が見られることも珍しくなく、QOL(Quality of Life:生活の質)の低下をもたらします。

また、X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎から強直性脊椎炎に進行することもあり、X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎の患者さんのうち、強直性脊椎炎へ進展するのは2~10年で10~40%、生涯で50%程度といわれています。ただし、上述のように強直性脊椎炎へ進行しない人や寛解(治癒したわけではないものの症状が落ち着いて安定した状態)する人もおり、個人差があります。

重症化したときに見られる症状

体軸性脊椎関節炎(強直性脊椎炎/X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎)が進行すると背骨や腰が強直し、背骨が次第に前に曲がったまま固まって前傾姿勢となってしまう場合があります。この影響で体を反らす、見上げる、振り返る、腰を曲げるなどの動作に支障が生じます。前傾姿勢によって肺活量が低下する場合があるほか、長期の炎症に伴って骨密度が低下し背骨の骨折の頻度が高くなります。

ただし、全ての患者さんが強直をきたすわけではなく、進行のスピードも人によってさまざまです。

合併することのある病気

体軸性脊椎関節炎(強直性脊椎炎/X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎)では、乾癬(かんせん)、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病)、前部ぶどう膜炎などの合併症が現れることがあります。

乾癬は皮膚、炎症性腸疾患は消化管、前部ぶどう膜炎は目と、腰の痛みやこわばりなどとは結び付きづらい場所に症状が現れますが、これらの病気を併発する人は珍しくありません。関節以外の症状について、詳しくは体軸性脊椎関節炎(強直性脊椎炎/X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎)の関節以外に現れる症状とはをご覧ください。

なかなか治らない関節痛は専門医に相談を

体軸性脊椎関節炎(強直性脊椎炎/X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎)は、専門の医師以外による診断が困難な病気です。腰痛をはじめとする関節痛にはさまざまな原因がありますが、上記のように特徴的な症状があり整形外科などで治療を受けてもなかなか治らない場合には、体軸性脊椎関節炎を専門領域とする医師に一度相談してみましょう。

ただし、大病院を受診する際には紹介状がないと通常の診察料とは別に特別料金がかかるので、まずは主治医に相談し、紹介状を書いてもらえないか相談してみるとよいでしょう。

*1 出典:難病情報センターHP
*2 出典:日本脊椎関節炎学会『脊椎関節炎診療の手引き2020』診断と治療社, 2020年
*3 出典:Atul Deodhar, Ricardo Blanco, Eva Dokoupilová, Stephen Hall, Hideto Kameda, Alan J Kivitz, et al. Arthritis & Rheumatology. 2020 Aug 7. doi: 10.1002/art.41477

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日本脊椎関節炎学会理事長

山村昌弘 先生

この病気は早期に受診する事が重要です。痛みを緩和することができる病気なので、一人で悩まずに、専門の医師にご相談ください。