体軸性脊椎関節炎(強直性脊椎炎/X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎)を発症しているか判断するには、まず診察や簡易的な検査から始め、必要に応じて詳しい検査を行います。検査の結果、強直性脊椎炎もしくはX線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎と診断されたら、患者さんの状態に応じた治療を検討することになります。
強直性脊椎炎およびX線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎は診断が難しく、症状が出てから診断が確定するまで年単位の時間がかかることも珍しくありません。診断には専門的な知識を要することから、これらを専門とする医師による診察・検査が必要です。
強直性脊椎炎とX線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎では、一般的に“臨床症状”と“X線検査”から診断を行います。
臨床症状においては、腰や背中の痛みの有無、“動くとラクになる”など痛みの特徴、背骨の曲がりにくさ、深呼吸をしたときに胸囲が正常に膨らむかなどを診察で調べます。臨床症状は自分で気付くことができるものでもあるため、気になる症状があれば医師に相談してみるとよいでしょう。
その次にX線検査(レントゲン検査)やMRI検査で、骨盤の骨の1つである仙骨と腸骨の間にある仙腸関節の変化を確認します。強直性脊椎炎とX線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎の違いはX線検査による仙腸関節変化の基準を満たすか満たさないかということですので、画像所見は診断に必要不可欠です。
また、診断には類似するほかの疾患の可能性を除外することも必要となります。似た疾患の例としては、線維筋痛症やびまん性特発性骨増殖症(DISH)などが挙げられます。
強直性脊椎炎およびX線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎の診断にはX線やMRIなどの画像検査が必要不可欠です。また、血液検査を行う場合もあります。
まずはX線検査で、関節の隙間が狭くなっていないか、靱帯が石灰化していないか、強直していないかなど仙腸関節の変化を確認します。これらの変化が認められない場合にはX線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎を疑います。
ただしX線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎の一部は強直性脊椎炎に移行することもあり、進行するにつれてX線検査で仙腸関節に変化が現れてくることがあります。
MRI検査では強い磁石と電波を用いてさまざまな断面の画像を撮ることができ、X線検査よりも詳しい情報を得ることができます。
発症初期にはX線では異常が見られないことも多いため、ほかの病気との区別をつけるうえでMRI検査が有用です。また、X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎の診断においてはMRI検査の所見が指標となります。
MRI検査はX線検査よりも時間がかかり高額ですが、脊髄(せきずい)や関節などを詳しく観察できます。X線検査とMRI検査の特徴を生かし、適した検査を行うことが重要です。
体軸性脊椎関節炎(強直性脊椎炎/X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎)では多くの場合、赤沈やCRPなどの炎症反応の値や、MMP-3(マトリックスメタロプロテイナーゼ-3)が上昇します。ほかの免疫系の病気ではリウマトイド因子や抗核抗体などの項目が高くなるのに対して、強直性脊椎炎やX線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎では高くなりません(検査値については下表参照)。
また、患者さんの多くがHLA-B27の遺伝子を持っていますが、これも血液検査で調べることができます。ただし、HLA-B27の検査は保険適用外となります。
赤沈 | 赤血球が沈降する速度。炎症の広がりなどに関係する。 |
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CRP | 炎症や組織壊死があると血液中に増加するたんぱく質。炎症性の疾患によって上昇する。 |
MMP-3 | 関節リウマチ患者の関節内や血中に多く含まれている酵素。関節軟骨の破壊に関係している。 |
リウマトイド因子 | 主にリウマチ患者に見られる自己抗体。関節リウマチ患者の多くが陽性となる。 |
抗核抗体 | 細胞の核に反応する自己抗体。膠原病であると陽性になることが多いが、陽性であっても無害であることもある。 |
現在のところ、体軸性脊椎関節炎(強直性脊椎炎/X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎)を完全に治す治療法は確立されていません(2020年9月時点)。しかし、治療によって痛みをコントロールし強直の進行を防ぐことでうまく付き合っていける病気です。
X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎については近年提唱され始めた病名ですが治療薬も出始めており、強直性脊椎炎に準じた治療が行われます。
強直性脊椎炎やX線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎の治療でよく用いられるのが、鎮痛剤(非ステロイド性抗炎症薬:NSAIDs)と生物学的製剤です。通常はまず鎮痛剤を使用し、鎮痛剤で痛みのコントロールができない場合に生物学的製剤を用いて治療を行います。
鎮痛剤の主な効能は痛みの緩和です。多くは内服薬の使用で痛みが和らぐといわれていますが、効果が不十分な場合は必要に応じて治療を強化していきます。手足など末梢(まっしょう)部分の関節に炎症がある場合は、抗リウマチ薬の使用も検討されます。ただし、鎮痛剤は腎臓や胃に負担をかけるため、長期使用によって腎障害や胃腸障害が起こることもあります。
生物学的製剤とは、生物から産生されるたんぱく質などの物質を応用して作られた薬のことで、人間の体の中に存在する物質を制御して病気を抑える作用があります。鎮痛剤は飲み薬として服用するのに対して、生物学的製剤は点滴または皮下注射で投与します。
効果には個人差がありますが、強直性脊椎炎の約7割の患者さんに有効性が認められており*¹、X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎においても同等の効果が得られることが分かっています*²。
生物学的製剤には、免疫を抑制するために肺炎、結核、肝炎といった感染症にかかりやすくなるなどの副作用があります。しかし、鎮痛剤では痛みを抑制しきれない場合などにも有効である可能性があります。
鎮痛剤 |
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生物学的製剤 |
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痛みの緩和や背中・骨盤などの機能を維持するために、柔軟体操やストレッチ、水泳などの運動が効果的な場合があります。ただし、患者さんの状態によって理想的な運動の種類や運動の強さが異なるため、医師の指示に従って行うようにしましょう。
関節や膝関節の痛みが強く、動きも悪くなって日常生活に大きな支障をきたすような場合には、元々ある関節を人工のものに換える人工関節全置換手術が検討されます。背骨が強く前屈みになったまま強直している場合には、背骨の角度を伸ばす手術を行うこともあります。
治療費が高額となる場合、高額療養費制度などのサポート制度があります。また、強直性脊椎炎については2020年9月現在で指定難病に認定されているため、強直性脊椎炎と診断され症状の程度が一定の重症度基準を満たす場合には、指定難病患者への医療費助成制度も利用することができます*³。
体軸性脊椎関節炎(強直性脊椎炎/X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎)の進行速度には個人差があります。また、一度関節が強直をきたすと薬物療法では改善させることができません。そのため、できるだけ早期に診断を受け、治療を始めることが大切です。
また、近年は治療法の研究が進み、早期からの薬物療法で進行を遅らせることができる可能性が見えてきたことからも、よりいっそうの早期診断・早期治療が望まれます。そのため、もし気になる症状がある場合には、紹介状を書いてもらったうえで専門医への受診を検討しましょう。また、治療方法は医師とよく相談して決定し、医師の指示に従って治療を進めていくようにしましょう。
岡山済生会総合病院 山村昌弘先生
一般的に大病院への受診には紹介状が必要ですが、主治医の先生に紹介状を書いてほしいと思っても、「不快な気持ちにさせてしまうのではないか」「信頼関係を壊してしまわないか」などの理由から、なかなか頼みづらいと感じる方も多いでしょう。
しかし、紹介状を書いてもらうのに医師に遠慮する必要はありません。近年はセカンドオピニオンなども一般的になりつつありますし、紹介状を書いてもらうことにはさまざまなメリットがあります。
まず、紹介状があれば以前の経緯が詳しく分かるので、スムーズに診察を進めることができ、検査の重複も防ぐことができます。また、紹介状がないと通常の診察料とは別に料金がかかります。金額は病院により異なりますが、初診だと最低5,000円です。
当サイトから相談が可能な医療機関の検索ができますので、「この医療機関に紹介してほしい」という希望を率直に主治医の先生に伝え、紹介状を書いてもらうようにしましょう。
体軸性脊椎関節炎(強直性脊椎炎/X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎)とは?
腰痛が長引くことに加え、動くとラクになる、夜間に痛みが強くなるなどの特徴がある場合、“強直性脊椎炎”や“X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎”の可能性を考えてみてもよいかもしれません。まずは病気の特徴を知り、自分に当てはまるかどうか考えてみましょう。
体軸性脊椎関節炎(強直性脊椎炎/X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎)の関節以外に現れる症状とは
体軸性脊椎関節炎(強直性脊椎炎/X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎)の症状は、関節の痛みやこわばりだけとは限りません。一見関係ないような場所の症状も見逃さず、医師に伝えることが大切です。では、関節以外の症状や合併症には具体的にどのようなものがあるのでしょうか?