肺がん

6年間の薬物治療後に手術が行われた患者さん

最終更新日
2021年05月12日

がん研有明病院で呼吸器外科部長を務める文敏景(むんみんぎょん)先生に、肺がんの症例について伺いました。

6年間の薬物治療後に手術が行われた患者さん

こちらの患者さんは発見時すでに転移のあるステージIVの肺がんでした。そのため、最初の治療方針では手術治療の適応とはならず、薬物治療が行われることになりました。

しかし、薬物治療を6年継続したところ、手術ができる状態までがんが小さくなったため、手術治療が検討されることになりました。

薬物治療の効果で手術が可能となった

こちらの患者さんの場合も、完全胸腔鏡下手術で肺の切除が行われました。低侵襲手術を行うと、開胸手術と比較して回復までの期間が短く済むため、次の治療にも早く移れるという特徴があります。こちらの患者さんの場合にも術後の経過がよく、今のところ再発がないため、経過観察を続けています。

肺がんでは薬物治療の飛躍的な進歩によって、薬物治療でがんが小さくなり、手術治療ができるようになるケースが増えてきています。このように治療によって手術ができるようになった患者さんに対する手術のことを“サルベージ手術”といいます。

がん研究会有明病院

〒135-8550 東京都江東区有明3丁目8-31 GoogleMapで見る

前の症例

がん研有明病院で副院長と消化器外科部長兼食道外科部長を務める渡邊雅之(わたなべまさゆき)先生に、食道がんの症例について伺いました。 2箇所にがんが生じ、化学放射線治療を行った患者さん こちらの患者さんはがんが見つかった際、ステージIIIの頸部食道がんとステージIIの胸部食道がんを重複している状態でした。初回の治療では、患者さんご自身が喉頭の温存を希望したため、手術ではなく化学放射線治療で根治を目指すことになりました。 治療は奏功し腫瘍が消失しましたが、治療開始からおよそ1年後に胸部食道がんが再燃し、救済手術を行うことになりました。救済手術によって無事がんを切除することができたほか、幸い、頸部食道がんは完全寛解状態を維持していたため、術後も喉頭の温存は可能でした。 がん寛解後に食道気管瘻()が発生するも手術で解決 こちらの患者さんの場合、治療によってがんは取り切れたものの、治療後も頸部食道がんを治療した際の化学放射線療法による瘢痕狭窄(はんこんきょうさく)(傷あとが残り食道が狭くなること)が生じており、放っておくと食道が狭まってしまうので、内視鏡による食道の拡張術を度々行っていました。すると、治療開始から4年近くが経過した際、食道に穴が空き気管に唾液や胃液などが流れ込む“食道気管瘻”が生じてしまいます。 食道気管瘻は命に関わる合併症ですので、手術によって食道の穴を塞ぎ、患者さんの結腸を使って食道をつなぎ直すことになりました。現在は治療開始から6年が経過しますが、がんの再発もなく、口から食事ができる状態で元気に生活されています。

次の症例

がん研有明病院で胃外科部長を務める布部創也(ぬのべそうや)先生に、胃がんの症例について伺いました。 胃の入り口に腫瘍ができてから2年が経過した患者さん こちらの患者さんは胃がんではなく、消化管間質腫瘍(しょうかかんかんしつしゅよう)(GIST)と呼ばれる腫瘍が胃の入り口部分にできていました。以前受診していた病院では胃の全摘をすすめられたそうなのですが、患者さん自身が手術を拒んだこともあり、当院を受診された頃には診断からおよそ2年が経過している状態でした。GISTは胃がんとは異なり、多少経過していても大きく進行することはありません。そのため、私たちは当院で手術を受けることを提案しました。 LECSによって胃を全て残して手術完了 当院ではGISTをはじめとする胃粘膜下腫瘍に対して腹腔鏡・内視鏡合同手術(LECS)と呼ばれる手術方法を開発し、治療にあたっています。この手術方法は外科の腹腔鏡下手術と内科の内視鏡手術が組み合わさったもので、腫瘍のある部分だけを限定的に切除することができ、術後の生活の質を保って治療が行えます。こちらの患者さんの場合にも胃の全てを温存し、腫瘍だけを取り除くことができたため、術後の後遺症もほとんどなく、お元気に過ごされています。


関連の症例

  • 多くの併存疾患を抱えたステージIIの患者さん

    順天堂大学医学部附属順天堂医院で、呼吸器外科教授を務める鈴木すずき健司けんじ先生に、肺がんの症例について伺いました。 多くの併存疾患を抱えた患者さん この患者さんは70歳代後半の患者さんでステージはII、肺がんが発見された時にはすでに狭心症(きょうしんしょう)や脳梗塞(のうこうそく)を既往歴として持っており、かつ透析もされている状態でした。放射線治療の選択が取られる場合もあるなかで、この患者さんの場合には放射線肺臓炎の可能性があったため手術治療となりました。 透析をされている方の場合、時間が勝負です。手術中に体の老廃物がたまり続けるため、長時間の手術には耐えられません。通常4~5時間かかる手術を1時間ほどで済ませなければならないのです。 この患者さんに対しても手術治療を行い、結果は無事に終了。いくつかの病気を抱えていたために合併症などの可能性も懸念されていましたが、手術後の経過もよく合併症なく退院されました。合併症がある症例に強いというのは、総合病院ならではの特徴だと思います。

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  • 初期の段階で発見された90歳代の高齢患者さん

    がん研有明病院で呼吸器外科部長を務める文敏景(むんみんぎょん)先生に、肺がんの症例について伺いました。 初期の段階で発見された90歳代の高齢患者さん こちらの患者さんは、ほかのがんの治療後に胸部CTを撮影したところ、肺に初期のがんが発見された方です。発見時すでに90代でご高齢の方でしたが、体力もあり、肺の機能も正常だったため手術を行うことが検討されました。 低侵襲手術によって速やかに回復 こちらの患者さんの場合、完全胸腔鏡下手術で右の上葉を取り除く肺葉手術が行われました。完全胸腔鏡下手術は低侵襲(ていしんしゅう)手術の1つで、開胸手術と比較すると患者さんのかかる負担が小さいといわれています。 切除する肺の大きさは完全胸腔鏡下手術でも開胸手術でも変わりませんが、傷が小さい分術後の回復も早く、肋間筋(ろっかんきん)を温存できるので呼吸機能も保たれます。そのため、こちらの患者さんも術後は翌日から歩くことができ、手術から5日目には退院することができました。 現在、手術から5年以上が経過しましたが再発もなく、趣味のゲートボールを続けられているということです。 肺がんの治療方針を定める際は年齢だけでなく、その方の体力や呼吸機能を見て手術ができるかどうか判断することが大切です。90歳を過ぎて手術ができる方は限られますが、当院ではこの方のように体が元気な場合には、手術で治すことも検討しています。

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