肝臓がん~3DシミュレーションやICG蛍光法を活用し、過不足ない肝切除を目指す~

最終更新日
2021年06月21日
肝臓がん~3DシミュレーションやICG蛍光法を活用し、過不足ない肝切除を目指す~

国立国際医療研究センター病院は東京都新宿区に位置するナショナルセンターで、総合病院機能を背景とした高度医療を提供する病院です。今回は、肝胆膵外科を専門とされる理事長の國土 典宏(こくど のりひろ)先生に、国立国際医療研究センター病院の肝臓がんに対する治療や取り組みについてお聞きしました。

治療・取り組み

肝臓がんの手術ではがんを過不足なく正確に取り切ること、そして出血量を極力少なくすることが重要です。そのため、当院では以下のような取り組みを行っています。

安全かつ過不足のない切除を目指す

当院では、可能な限り安全で過不足のない肝切除を目指す取り組みの一環として、3DシミュレーションとICG蛍光法を活用しています。

3Dシミュレーション

肝に複数の転移性のがんを患った患者さんの画像。3Dシミュレーションでがんの正確な位置を把握し、またどれだけ肝臓を切除してどれぐらい残るかを事前に計算することで、正確かつ安全な手術を目指しています。

3Dシミュレーションでは、術前に撮影したCTやMRI画像を解析することでコンピューター上に3D化(立体化)して写し出すことが可能となります。従来、肝切除にあたっては平面画像の情報から術者の頭の中で立体像を組み立てて、切除範囲を予想していました。しかし、この技術が登場したことで、肝臓内部の様子をコンピューター上に立体で写し出すことが可能となり、術者だけでなく助手や看護師など手術チーム全員で共有できるようになりました。

また、現在の技術では単に画像を立体化して見ることができるだけでなく、肝臓のそれぞれの区域の容量や内部の血管の流れなどを可視化することが可能です。この技術によって切除すべき範囲、切除してはいけない範囲を術前に判断することが可能となり、より少ない出血量で、より肝機能を温存した手術が行えるようになりました。

ICG蛍光法

手術中の写真
あらかじめ手術前にICGを投与した肝臓がんの患者さんの手術中の写真です。がんが緑色に光って確認できます。
手術中の写真
この患者さんにさらに手術中にICGを投与した写真です。この患者さんの場合は、写真左の手術で残す範囲がICGで光って見えます(先の写真とは観察モードが違い、この写真ではがんも白く光ります)。

ICG蛍光法とは、ICGという特殊な色素を肝臓に注入することによって、通常では見えない肝臓区域の境界を示したり、がんのある部位を強調して指し示したりする手法です。主に手術前のがんのある部位のイメージングや手術中の切除範囲のガイドのために用いられます。ICGとは緑色の色素で、特殊な近赤外線を当てることによって光る(蛍光を発する)という特徴を持ちます。また、肝細胞だけに取り込まれ胆汁中に排出されるほか、肝細胞がんに対してはがん細胞の中にとどまるという特徴があるため、肝臓の区域を示したり、がんのある部位を強調して見つけやすくすることができます。

肝臓は8つの区域に分かれますが、分葉していないため外から見て区域を確認することはできません。そのため、がんのある区域を正確に切除するためには、色素を注入して区域の範囲を可視化することが必要です。従来、区域の染色にはインディゴと呼ばれる色素が活用されてきましたが、近年当院ではより簡単に染色され、切除する区域が分かりやすいICGを併用して染色しています。

メリットと注意点

3Dシミュレーションを用いることで術前に正確な手術計画を立て、術中はICG蛍光法を活用して切除範囲を明確にすることで、がんを取り残すこと、また逆に切除しすぎてしまうことを防げるというメリットがあります。ただし、このように緻密な手術計画を立てた肝臓がんの手術を計画どおりに実施できる医療施設は限られているため、どの施設でも同じ手法が取られるわけではありません。

適応がある方、この治療法が適している方、注意が必要な方

当院では、3DシミュレーションやICG蛍光法といった手法を肝臓がんの手術を受けるほとんどの方に対して行います。ただし肝転移の患者さんでがんが小さく、比較的容易な手術の場合にはこれらを行わずに手術をすることもあります。
また、3Dシミュレーションに必要なCT検査には造影剤を使用するため、ヨードアレルギーをお持ちの方には行えない可能性があります。ICGもヨードアレルギーのある患者さんには注意が必要です。

費用・入院スケジュール

肝臓がんの手術治療では、合併症がなければ手術後の入院期間は10日程度となることが一般的です。当院では出血量が少なく、合併症のない手術に努め、また術後も早い時期から食事や歩行を始めて、患者さんの早期回復を目指しています。
肝臓がん手術の主な合併症としては、切除部位から胆汁が漏れる胆汁漏や腹水などが挙げられます。頻度は少ないですが、このような合併症が生じた場合には14日程度の入院期間となることもあります。
費用は保険適用となり、高額医療費制度等を利用すれば実際の支払額がさらに少なくなることもあります。

そのほかに行っている治療法

  • ラジオ波焼灼療法
  • 肝動脈塞栓療法(かんどうみゃくそくせんりょうほう)
  • 薬物療法
  • 放射線療法を交えた集学的治療

診療体制・医師

当院肝胆膵外科では國土典宏理事長、竹村 信行肝胆膵外科医長を中心に臓器別に特化したチームが手術を担当します。また患者さん中心のチーム医療にも取り組み、外科、消化器内科、放射線科、病理部とのカンファレンス、大腸がんや胃がんの肝転移の治療においては下部消化管グループ、上部消化管グループも含めた合同カンファレンスで連携、適切な治療に取り組んでいます。手術を行う患者さんについては、外科のカンファレンスで全症例について話し合い、それぞれの患者さんに合った治療方法を決定していきます。また内科と外科の連携も強固で、内科から外科への紹介などが速やかに行えるような体制が整っています。
抗がん剤治療では、がん治療認定医、がん薬物療法専門医、緩和医療専門医、がん化学療法認定看護師、がん専門薬剤師等に加えて各診療科の専門医によって、さまざまな副作用の対処をしています。各診療科の枠を超えて、専門医の知識と経験を基に、一丸となって最善の治療を行えるように努めています。

手術実績

2018年:71件
2019年:72件
2020年:73件

受診方法

国立国際医療研究センター病院では、以下のように予約受付および診療を行っています。

初診の流れ

当院では、初診から可能な限り検査を行います。

初診の方は初診受付窓口の脇にある診療申込書の必要事項に記入し、初診番号札をお取りください。番号が呼ばれましたら、初診受付窓口にて初診受付を行います。診療申込書、ほかの医療機関からの紹介状(診療情報提供書)、健康保険証をご提出いただき、お渡しする問診票に記入し初診受付窓口までご提出ください。紹介状をお持ちの方は、電話予約を取れる場合もあるため、予約センターまでお問い合わせください。紹介状がない場合でも直接、受診できますが、診療費のほかに“保険外併用療養費”が必要となります。また、肝胆膵外科の外来日(月曜日・水曜日)にご来院ください。

診察・診断の流れ

肝臓がんの診断は、血液検査・画像検査によって行われることが一般的です。血液検査では肝機能を評価するほか、肝臓がんで特異的に上がりやすい数値を示す腫瘍しゅようマーカーの状態を確認します。腫瘍マーカーが上昇している場合、肝臓がんにかかっている可能性が高いといわれていますが、肝臓がんにかかっていても腫瘍マーカーが上昇しない場合もあるため、最終的な診断のためには画像検査をする必要があります。画像検査は超音波検査・造影CT・造影MRIなどが行われることが一般的で、より詳しい検査が必要な場合には造影超音波検査を実施することもあります。

肝臓がんでは、確定診断のために生検*を行うことは少ないです。これは、検査にあたって細胞や組織を採取する過程でがんが散らばってしまう可能性があるためです。しかし、手術ができない肝臓がんの場合には、がんの状態を正確に知るためにやむを得ず生検を行うことがあります。

*生検:がんが疑われる部位の細胞・組織を採取して、顕微鏡で見る検査です。がんの確定診断の際によく行われます。

治療方針の決め方

肝臓がんの治療では、消化器内科、消化器外科、放射線科、病理部と緊密な連携を取り、定期的にミーティングを行いながら治療方針を決めています。特に治療方針に迷うステージの境界線にあるようながんの患者さんや、特殊な症例を持つ患者さんの治療については各診療科の医師が意見を出し合い、総合的に判断して方針を決定しています。また、患者さんとの対話も重視しており、一緒に症状を軽減させるための話し合いをしながら、治療法並びに緩和医療を決めます。

入院が必要になる場合

肝臓がんの治療で入院が必要となるのは、手術のほか、ラジオ波焼灼療法、肝動脈塞栓療法(かんどうみゃくそくせんりょうほう)などです。また薬物療法や放射線治療においても、初回は入院して治療を行って副作用や体への影響を確認し、問題がなければ2回目以降は外来診療で治療を行うことが一般的です。診断前の血液検査や画像検査は入院不要で、外来で行うことが多いです。

患者さんのために病院として力を入れていること

当院は2017年4月より地域がん診療連携拠点病院に指定され、診断・治療の提供のほか、地域のがん診療の連携を構築し、がん相談支援センターを構えるなど、さまざまな取り組みを行ってきました。

また2019年5月にはがん総合診療センター(CCC)を発足し、がんを専門とする医師や認定看護師、薬剤師、ソーシャルワーカーなど多職種でがん患者さんへの診療やケアに取り組んでいます。また、総合病院としての強みを活かし、がんのほかにさまざまな併存疾患を持つ患者さんにも対応できる体制を整えています。

先生からのメッセージ

肝臓がん治療には専門家がいますので、肝臓がんにかかったときには肝臓がん治療の専門家に相談していただきたいと思います。仮に今通っている医療機関で手術ができないと言われた場合でも、ほかの医療機関では手術ができると判断されることもあります。そのため、セカンドオピニオンなどを活用し、ご自身が納得できる治療方法、信頼できる医師を見つけるようにしていただきたいです。

また、肝臓がんは治療に成功した場合でも再発する可能性の高いがんです。治療後も定期的に病院を受診しましょう。再発すると悲観的になる方もいらっしゃいますが、肝臓がんの場合には繰り返し手術や他の有効な治療を受けられる可能性が高いです。また、たとえば胃がんでは胃を一部でも切除してしまうと食生活などに影響が出ますが、肝臓は切除によってお腹に傷は残っても機能的な後遺症は生じないことが一般的です。繰り返し手術を受けた場合でも、術後はこれまでどおりの生活が行える可能性が高いので、決して諦めないで治療を続けていきましょう。

国立国際医療研究センター病院

〒162-8655 東京都新宿区戸山1丁目21-1 GoogleMapで見る