肺がん~本当に大切なのは退院後も元気でいること~
東京都文京区に位置する順天堂大学医学部附属順天堂医院は、医療を受けられる患者さんの安全と、患者さんやご家族に寄り添う姿勢を大切に、特定機能病院として先進医療の開発、および導入に尽力している病院です。今回は、呼吸器外科で教授を務める鈴木健司先生に、同院の肺がんに対する治療や取り組みについてお話を伺いました。
*肺がんの治療方法全般についてはこちら
治療・取り組み
当院の呼吸器外科では、肺がんに対して以下の治療法を中心に治療を行っています。2020年12月現在では、患者さんの状態にもよりますが、安全面に考慮したうえで胸腔鏡下手術あるいはロボット支援下手術を中心に行っています。
胸腔鏡下手術
胸腔鏡下手術は胸腔鏡の挿入、および切除した組織を取り出すために、2〜3か所ほど開胸をしたうえで行われます。
胸腔鏡下手術のメリット・デメリット
胸腔鏡下手術のメリットは、以下のとおりです。
胸腔鏡を使用するため傷口を小さく抑えられる
手術後の痛みを軽減したり、呼吸機能の低下を防いだりできる可能性がある
ただし、以下の点には注意が必要です。
胸膜が高度に癒着しているなど、適さない患者さんもいる
胸腔鏡下手術の適応
当院では、患者さんの病態や年齢、生活環境なども踏まえたうえで、胸腔鏡下手術を適応しています。たとえば、高齢(75歳以上)で開胸手術にリスクがある方などは胸腔鏡下手術をすすめますが、その際は治療方法について十分に説明したうえで、必ず患者さんの同意を得ています。
胸腔鏡下手術を受ける際の費用と入院スケジュール
切除範囲などによって異なりますが、3割負担の場合57万円程度となります(入院費込み、個室料・食事料等別)。ただし、高額医療費制度が適用できる場合は窓口の支払額が抑えられることもあるので、確認してみるとよいでしょう。
胸腔鏡下手術を受けた際の入院期間は、おおよそ4〜5日程度です。しかし、喫煙歴のある方や肺がもともと弱いと考えられる方、既往歴のある方など患者さんの状態によって10日程度、場合によっては1か月程度かかることもあります。
*費用や入院スケジュールには個人差があり、あくまで目安です。
ロボット支援下手術
当院では、2017年1月からロボット支援下手術を導入し、ロボット支援下手術の優れた点ともいえる負担の少ない治療の提供に努めてきました。ロボット支援下手術は、ロボットのアームなどを挿入するために、1cm程度の穴を5〜6か所ほど開けて行います。
ロボット支援下手術のメリット
ロボット支援下手術のメリットは、以下のとおりです。
精密な手術が可能
ロボットのアシストにより手術時の手ぶれを抑えられることや、アームの動きの自由度が高いことで、精密な手術を行うことができます。
一方、以下の点には注意が必要です。
安全に行うためには医師の経験が必要
ロボット支援下手術は医師が実際に臓器などに触れないため、感触がありません。そのため、安全に手術を行うためには経験を積むことが必要です。しかし、精密な手術が可能となるメリットは大きく、細かい作業や難しい手技を必要とする手術に対して、今後はより一層取り入れられるようになるでしょう。
ロボット支援下手術の適応
ロボット支援下手術は手ぶれの補正や自由度の高いアームの特徴を生かし、開胸手術や胸腔鏡下手術が難しいとされる患者さんに適応できる場合があります。
ロボット支援下手術を受ける際の費用と入院スケジュール
費用は胸腔鏡下手術と同じく、3割負担の場合57万円程度となります(入院費込み、個室料・食事料等別)。こちらも高額医療費制度が適用できるか確認してみるとよいでしょう。
ロボット支援下手術を受けた際の入院期間についても胸腔鏡下手術と同様で、おおよそ4〜5日となります。また、患者さんの病態などにより、入院期間が異なります。
*費用や入院スケジュールには個人差があり、あくまで目安です。
そのほかに行っている治療方法
- 開胸手術
- 化学療法(抗がん剤治療)
- 放射線治療
診療体制・医師
呼吸器内科や放射線科との連携
当診療科では呼吸器内科と連携を図り、週に1回カンファレンスを行うようにしています。特に、当院には循環器系の診療科や消化器系の診療科などのさまざまな診療科がそろっているため、患者さんの状態に応じて必要と判断される場合には該当の診療科の先生にもカンファレンスに参加していただくようにしています。
抗がん剤治療や放射線治療は日進月歩です。それらに詳しい内科や放射線科の医師にも協力いただき、それぞれの診療科の専門性を生かした治療を提供しています。
総合病院だからこそできるがん治療
当院では、がん治療のレベルを高めることはもちろん、さまざまな基礎疾患を持つがん患者さんに対応できる体制を大切にしています。
近年は当院のような総合病院におけるがん治療のレベルが向上し、がんの専門病院にも引けを取らないほどになっています。さらに総合病院ならではの強みとして、循環器内科や糖尿病など、各分野の専門家が揃っています。
がん患者さんの多くは高齢ですので、高血圧症、糖尿病、不整脈などさまざまな基礎疾患を持つ方も少なくありません。基礎疾患と関わりのあるさまざまな診療科と連携し、基礎疾患に対する治療を行いながらがん治療を行うことに注力しています。
受診方法
当院は特定機能病院に承認されているため、初診時には原則としてほかの医療機関からの紹介状の持参が必要となります。紹介状の持参がない場合、あるいは前回受診されてから6か月以上が経過している場合には、初診時選定療養費として別途8,250円(税込)が必要になります。
外来受付時間
- 月曜日〜金曜日
午前……午前8時(再診は7時)から午前11時
午後……午前11時30分(再診は7時)から午後3時
- 土曜日
午前8時(再診は7時)から午前11時
診察・診断の流れ
当診療科では、肺がんが疑われる場合には、以下の流れで診察、および治療を進めていきます。
診断方法について
当院では肺がんが疑われる場合には、CTを中心に検査を行っています。患者さんの状態に応じて、喀痰細胞診や気管支鏡下検査、針生検などを行い、がんの種類などを詳しく調べていきます。その結果を元に、手術後の患者さんの生活や社会活動などを踏まえたうえで治療を選択していきます。
治療方法の決め方について
当院では、患者さん一人ひとりに適した治療の提供に努めています。来院される患者さんは75歳以上の高齢の方が増えており、その中にはすでにいくつかの病気を抱えている方もいます。そのため、ガイドラインは前提としたうえで、さらに患者さんごとに適している治療を選択し、可能な限り負担の少ない治療を目指しています。
入院が必要になる場合
手術治療が必要であると判断された場合には、入院いただくことになります。胸腔鏡下手術やロボット支援下手術の場合には、4〜5日程度の入院期間となります。
患者さんのために注力していること
当診療科では、手術後の管理を徹底しています。手術後の患者さんは、手術による負担などから寝たきりになりやすい方がいますが、可能な限り早い離床を目指した管理を行っています。患者さんからは厳しいと感じられるでしょうが、本当に大切なのは、患者さんが退院された後も元気でいていただくことです。
そのため、私たちは手術後の早い段階から院内を歩いたり体の機能の回復に努めたり、退院された後の患者さんに元気でいていただけるように徹底した管理を行っています。
鈴木先生からのメッセージ
一般に、肺がんには恐ろしいイメージがあります。肺がんと診断されたとき、患者さんはかなりのショックを受けるでしょう。しかし早い段階で発見できれば治療が可能ですし、場合によっては経過観察という選択を取れる患者さんもいます。
最近は喫煙をしない方が肺がんにかかるケースも珍しくありませんので、喫煙歴にかかわらず、発見が遅れる前に定期的にがん検診を受けてほしいです。特に注意してほしいのは、診断のつかない胸の影です。胸に影が見つかったときには、しばらく様子を見るのではなく、しかるべき施設できちんと検査を受けることが大切です。
実際に私は母を肺がんで亡くしています。最初は胸に影が見つかったことが始まりでした。母は地元の病院に通い2年間様子を見たのち、当時国立がんセンターに勤めていた私のところへ来ましたが、その時にはすでに肺がんはステージ4。懸命な治療の甲斐もあり、母とはその後7年の月日を過ごすことができましたが、私はその経験を通してより一層、1人でも多くの方を救いたいと思うようになりました。
肺がんは増加傾向にあります。「自分は大丈夫」と思わずに、そして治療法のあるうちに発見できるように、定期的に検診を受けていただきたいと思います。