胃がん・大腸がん~適応がある限り内視鏡治療を諦めない~
NTT東日本関東病院は東京都品川区に位置する総合病院です。2019年には地域がん診療連携拠点病院(高度型)の指定を受けるなど、地域のがん治療の拠点としての役割を担っています。
内視鏡部部長の大圃研先生は消化器内視鏡を専門としています。今回は大圃先生にNTT東日本関東病院における胃がん・大腸がん治療の特色やその取り組みについてお話を伺いました。
*胃がんの一般的な治療方法についてはこちら
*大腸がんの一般的な治療方法についてはこちら
治療・取り組み
NTT東日本関東病院では、早期の胃がん・大腸がんに対する内視鏡治療に力を入れています。
胃がんに対する内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)
内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)とは、針状に尖った高周波のメスで病変部分を切除する治療方法です。粘膜層を液体で浮かせてから切除することにより、病変を取り残す危険性や穿孔(胃に穴が空いてしまうこと)などを防ぐことができます。
また内視鏡治療後、治療によってがんが確実に取り切れたのか、リンパ節への転移はないかなどを確認するために、切除した病変を使って病理検査を行います。その結果、取り切れている確率が高いと判断されれば経過観察となりますが、追加手術が必要になる場合もあります。
胃がんに対する内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)のメリット・デメリット
メリットとしては、以下の点が挙げられます。
患者さんの体にかかる負担が小さい
お腹を切り開かなくてよいため、手術治療と比較して負担が小さく回復が早くなります。また、胃そのものを切除することがないため、術後の食生活への影響が小さく済みます。
一方、以下の点には注意が必要です。
適応が早期の胃がんに限られ、ある程度進行してしまうと適応にならない
胃がんに対する内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)の適応
早期胃がんに対するESDは2006年4月より保険診療で行える治療となり、技術の進歩とともに治療の適応が拡大してきています。
具体的には、がんの大きさが3cm以下で粘膜層にとどまっており、リンパ節へ転移している確率が極めて低く、かつ病変と周囲の粘膜をまとめて切除できる状態である場合に検討されます。ただし、この適応を超えていても患者さんの状態などからほかに取れる治療の選択肢がない場合、姑息的(一時的)な治療として内視鏡治療を行うことはあります。
また、がんの数やできる場所によって難易度が変わりますが、当院では病変自体が内視鏡治療の適応であれば難易度を理由に切除を断念することはまずありません。
胃がんに対する内視鏡的粘膜下剥離術(ESD)の入院期間・費用
患者さんによっても異なりますが、入院期間は1週間程度が一般的です。また費用は、保険適用で3割負担の場合、およそ17万円(入院費込み、食事代・個室代等別)です。ただし、こちらは概算ですので、診療内容や入院日数により実際の金額は増減します。
大腸がんの内視鏡治療
大腸がんの内視鏡治療には、内視鏡的ポリープ切除術、内視鏡的粘膜切除術(EMR)、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)などがあり、病変の大きさや形状などによって適した方法が検討されます。NTT東日本関東病院では、特にESDによる大腸がんの内視鏡治療に熱心に取り組んでいます。大腸がんに対するESDは2012年4月より保険適用となりました。
大腸がんに対する内視鏡治療のメリット
内視鏡治療の主なメリットとして、手術治療と比較して患者さんの体にかかる負担が小さいことが挙げられます。手術治療と比較すると入院期間も短く、治療後の回復も早いことが特徴です。また、EMRと比較した場合のESDのメリットとしては、大きい病変を一括で切除できることが挙げられます。
大腸がんに対する内視鏡治療の適応
大腸がんの内視鏡治療を行うためには、がんがリンパ節に転移している可能性が低く、がんの大きさや位置が一括でまとめて取れる状態であることが必要です。また、がんは進行すると粘膜から粘膜下層へと深く浸潤するようになりますが、この深さが1mm程度までの比較的早期のがんでなければ、内視鏡治療を行うことはできません。
ただし、適応を超える場合でも患者さんの状態などからほかに取れる治療の選択肢がない場合、姑息的(一時的)な治療として内視鏡治療を行うことはあります。
大腸がんに対する内視鏡治療の入院期間・費用
内視鏡治療後の入院期間は治療方法や患者さんの状態によっても異なります。ESDの場合、入院期間は1週間程度となることが一般的です。費用についても個人差がありますが、保険適用で3割負担の場合、18万円程度(入院費用を含む、食事代・個室代等別)程度です。ただし、こちらは概算ですので、診療内容や入院日数により実際の金額は増減します。
内視鏡治療以外の大腸がん治療
- 手術治療
- 薬物治療
- 放射線治療
診療体制・医師
内視鏡部の先生方(2020年12月撮影)
個人を廃したチーム医療の徹底
当院の特徴としては、徹底して個人ではなくチームで診療にあたっていることが挙げられます。毎日のミーティングで患者さんの情報を共有することで、チームの誰でも患者さんを診られるようにしているため、主治医や担当医というものはありません。
日によって医師が変わっても問題がないように、どの患者さんにどのような説明をしたのか、その理由などを徹底して共有し、形だけではない本当のチームであたる診療にこだわっています。この体制を取ることで、医師によって言うことが違うなどのトラブルを防ぐことができ、患者さんの安心にもつながっていると考えています。
外科との綿密な連携
外科との連携も密に行っており、互いの治療方針に問題がないかチェックし合っています。
こうすることで、最初から手術したほうがよい患者さんに内視鏡治療を行ってしまい、追加手術が増えるというようなことを避けられます。逆に外科の症例も内科医がチェックすることで、内視鏡治療が可能ながんに対して手術が行われることも防げます。このように、相互に牽制することでより適切な治療を選択できるよう努めているのです。
内視鏡室に麻酔科が常駐
一般的には、内視鏡治療の際は術者である内科医が麻酔を行うことが大半ですが、当院では内視鏡室に麻酔科の医師*が常駐して麻酔をかけています。この環境は当たり前のようで、実は患者さん、術者双方にとって日本では珍しい非常に恵まれた状況です。
術者が麻酔をかけながら内視鏡治療を行うと、麻酔にも意識を傾けなければなりません。その点、当院では麻酔科の医師が担当するため内科医は内視鏡治療に集中し、より安全に治療を行うことができます。
また、麻酔を過量に投与することが防げており、内科医が治療を行いながら麻酔をかけるよりも患者さんの目覚めが早く、術後の吐き気などほぼありません。このように質の高い麻酔を行うことで、より安全で負担の少ない治療を行うことができているのです。
*麻酔科標榜医:小松 孝美医師
手術室を使うことでより安全性の向上を目指す
手術室
通常、内視鏡治療は内視鏡室で行いますが、明らかに時間がかかると思われる患者さんの場合、当院では手術室で内視鏡治療を行っています。内視鏡室の場合は設備の都合で全身麻酔を行うことはできませんが、手術室の場合は人工呼吸器につないで全身麻酔を行うことができます。
内視鏡治療にかかる標準的な時間は1時間程度ですが、難易度の高い特別な場合には4~5時間かかることもあります。治療が長時間に及ぶ場合は全身麻酔をかけたほうが安全ですので、当院では積極的に手術室を使用しています。これは通常外科のみが持つ手術室の使用枠を、内科である我々消化管内科も週に2日ほど保有している当院だからこそできることだと思います。
胃がんに対するESDの件数
- 2018年:345件
- 2019年:343件
- 2020年:282件
大腸がんに対するESDの件数
- 2018年:385件
- 2019年:365件
- 2020年:357件
受診方法
NTT東日本関東病院では、初診予約を電話で承っております。かかりつけ医制度を推奨しているため、ほかの医療機関からの紹介状をお持ちいただくことをお願いしております。
紹介状のない方の場合、初診時選定療養費として診療費用のほかに5,500円(税込)を頂戴しております。
初診予約の電話番号
- NTT東日本関東病院(代表)……03-3448-6111
- 受付時間……午前8:30~午後5:00(土、日、祝日・振替休日、年末年始を除く)
音声ガイダンスに従い、紹介状をお持ちの方は1、お持ちでない方は2を押してください。
セカンドオピニオン外来
NTT東日本関東病院ではセカンドオピニオンも承っております。セカンドオピニオンは完全予約制となっておりますので、事前に電話でお問い合わせください。また相談時間は60分以内で、費用は30分22,000円、60分33,000円(税込)です。
なお、セカンドオピニオン外来は自由診療となりますので、健康保険は適用されません。
オンライン受診相談(オンラインセカンドオピニオン)
NTT東日本関東病院の消化器内科では、内視鏡治療を検討している患者さんなどを中心にオンライン受診相談(オンラインセカンドオピニオン)を実施しており、スマートフォンやタブレットを利用して医師とのビデオ通話で治療の概要について説明を受けたり、内視鏡治療ができるかどうかを相談したりすることが可能です。
オンライン受診相談を希望する場合には、事前に病院サイトからの予約申込が必要です。実際の診療時間は最長20分で、料金は5,500円(税込)の前払い方式となっております。なお受診の際は、ほかの医療機関からの紹介状や診療に必要な検査結果・内視鏡画像データの郵送が必要です。また、セカンドオピニオン外来同様、自由診療となりますので健康保険は適用されません。
【オンライン受診相談について:https://www.nmct.ntt-east.co.jp/guide/online/ 】
診察・診断の流れ
検診などで胃がんが疑われた場合、まずがんの確定診断を行うために内視鏡検査やX線検査などの画像検査が行われます。そこで内視鏡治療が可能と判断できればそのまま内視鏡治療を行い、ある程度進行していると思われる場合は、がんの進行度合い(ステージ)や転移の状況などを調べるためにCT・MRI検査やPET検査などの画像検査を行います。
治療方針の決定方法
当院では、原則として“胃癌治療ガイドライン”に従って治療方針を決定しています。
ただし、実際の現場ではガイドラインに定められているようながんの性質や進行度による治療法の適応のほかに、技術的にそれが可能かということも絡んできます。たとえば、がん自体はガイドライン上の内視鏡治療の適応条件を満たしているが、場所が適さないために内視鏡治療が行えないということも施設によってはあるのです。
しかし、当院では難易度を理由として内視鏡治療を断念することはほとんどありません。ガイドラインで定められている要件を満たしていれば、内視鏡治療を行えると考えていただいて問題ないでしょう。
入院が必要になる場合
入院が必要となるのは、内視鏡治療と手術を行う場合です。薬物療法や検査は原則外来で行っています。
患者さんのために病院が力を入れていること
内視鏡専門の診療科を設置
NTT東日本関東病院では、2004年に消化器内科・外科の連携のもとで内視鏡部という診療科を設置しました。内視鏡部では内視鏡検査・治療にあたるだけでなく、施設の拡充や医師・看護師など医療従事者の教育も行っています。
紹介元だけでなくかかりつけ医とも連携
当院への紹介元の医療機関が患者さんのかかりつけであるとは限りません。紹介元の医療機関と患者さんの情報を共有することは当然ですが、当院では患者さんが普段かかっているかかりつけ医にも治療の内容やその経緯などの情報を共有しています。この病診連携により、たとえば元々別の病気で薬を処方されているような場合、かかりつけ医がその薬を処方し続けてよいのかなどの判断がしやすくなり、患者さんも地域で安心して治療を受けることができます。
先生からのメッセージ
がん自体は内視鏡治療の適応であるにもかかわらず、がんができた場所などの治療難易度がネックとなって手術を行っている患者さんは全国にたくさんいらっしゃいます。それは言い換えれば施設の技術力に左右されるともいえますが、当院では治療の難易度の高さによって内視鏡治療を諦めたことはほとんどありません。
そのため、手術が必要だと言われた場合も気になることがあればいらっしゃっていただきたいと思います。オンライン診療も可能ですので、遠方の方であっても遠慮なくご相談ください。