婦人科

子宮頸がん・子宮体がん~患者さんの状況に合わせて治療を個別化、低侵襲な治療を目指す~

最終更新日
2022年07月08日
子宮頸がん・子宮体がん~患者さんの状況に合わせて治療を個別化、低侵襲な治療を目指す~

子宮がんに対する北海道大学病院の取り組み

北海道大学病院は北海道札幌市に位置する大学病院として、地域の方々をはじめさまざまな患者さんの診療にあたっています。婦人科教授の渡利 英道(わたり ひでみち)先生は婦人科腫瘍学(ふじんかしゅようがく)を専門とし、子宮頸(しきゅうけい)がん・子宮体がん・卵巣がんなどの婦人科がんの治療に従事しています。今回は渡利先生に北海道大学病院における子宮頸がん・子宮体がんの治療の特色や、取り組みなどについてお話を伺いました。

子宮がん(子宮頸がん・子宮体がん)の一般的な治療方法についてはこちら

治療・取り組み

当院では子宮がんに対する機能温存を目指した手術や、術後の合併症として生じやすいリンパ浮腫による生活の質低下を予防するための“リンパ浮腫外来”に注力しています。

機能温存を目指した子宮がん手術

子宮頸がん・子宮体がんの手術後は手術内容に応じて、排尿障害やリンパ浮腫、ホルモンバランスが崩れることによる更年期障害や骨粗鬆症など、さまざまな合併症が現れることがあります。そこで当院は、がんの根治性はもちろんのこと、術後に機能を温存できるよう手術にさまざまな工夫を行っています。

排尿障害が生じにくい自律神経温存広汎子宮全摘術

自律神経温存広汎子宮全摘術とは、排尿などに関わる神経の切断・損傷を避けながら行う広汎子宮全摘術です。広汎子宮全摘術は子宮頸がんの標準治療としても知られているほか、子宮体がんに対しても行われる一般的な手術方法ですが、術後に排尿障害が起こりやすいという特徴があります。そこで当院では、排尿に関わる神経を温存する手術方法を考案し、排尿障害が起こる確率を低下させる努力をしています。

体に負担のかかりにくい腹腔鏡下手術も取り入れる

子宮頸がん・子宮体がんの手術治療では開腹手術が検討されることが一般的ですが、当院では必要に応じて腹腔鏡下手術(ふくくうきょうかしゅじゅつ)を実施しています。腹腔鏡下手術とはお腹に小さな穴を開け、そこから小型カメラや鉗子と呼ばれる細い医療器具を入れて行う手術治療です。開腹手術と比較すると傷が小さく術後の回復が早いほか、高性能のカメラで内部を確認しながら手術を行えるという利点があります。画像を拡大することで細かい血管などを観察でき、より細かい作業が行いやすいため、出血量を抑えることなども期待できます。

症例によってロボット支援下手術も実施

また当院では子宮頸がん・子宮体がんに対するロボット支援下手術も実施しています。ロボット支援下手術とは、手術用ロボットを用いた腹腔鏡下手術のことです。通常の腹腔鏡下手術と比較するとカメラが2次元から3次元になり内部を立体的に観察できるほか、多関節のロボットアームで手術ができるため、より緻密な作業が行えるという利点があります。また、高性能なカメラを通して見ることで肉眼よりも神経や血管が明確になり、前述した自律神経温存広汎子宮全摘術のような神経の温存を目指す手術治療と相性がよいことからも、当院では積極的に活用しています。

腹腔鏡下手術・ロボット支援下手術の適応

当院では、手術適応のある患者さん一人ひとりの状況に合わせて “治療の個別化”を行っています。たとえば、腹腔鏡下手術やロボット支援下手術を選択するか、開腹手術を選択するかという点においては、がんの大きさや組織型のほか、患者さんの年齢や体力に応じた検討がなされます。

具体的には、2cm以下の小さな腫瘍の場合、腹腔鏡下手術やロボット支援下手術が検討されることが一般的です。一方で4cm以上を超える大きな腫瘍や、より悪性度の高い組織型などに対しては、開腹手術が検討されることが多いです。いずれにしても、患者さんの希望を伺いながら治療方針を決定していくことを大切にしています。

特に子宮頸がんの手術治療においては、海外の臨床研究の結果、腹腔鏡下手術よりも開腹手術のほうが治療成績がよいというデータが出ていることもあり、手術方法を検討する際には患者さんにしっかり説明をしたうえで検討することが大切になります。当院の子宮頸がん手術においては、開腹手術と腹腔鏡下手術で治療成績に大きな差はありませんが、今分かっている情報を患者さんに提供しながら、一緒に治療方針を決定するようにしています。

術後の生活の質を高める“リンパ浮腫外来”

子宮頸がん・子宮体がんなどの婦人科がん治療後は、合併症として“リンパ浮腫”が生じることがあります。これは、手術でリンパ節を取り除く“リンパ節郭清”や放射線治療などが行われることによって、リンパ液の流れが滞るためです。そこで当院では、術後早期からリンパ浮腫のケアに介入し、入院中にセルフケア方法や日常の注意点などについて指導をするほか、2008年よりリンパ浮腫の発症予防、早期発見治療を目指してリンパ浮腫に対する外来診療を実施しています。

当院のリンパ浮腫診療は、医師による“リンパ浮腫外来”と看護師を中心とする“リンパ浮腫ケア外来“の2種類に分かれています。リンパ浮腫外来では保険診療として診断や治療方針の決定、定期的な診察などを行いながら、リンパ浮腫ケア外来では自由診療として運動療法やスキンケア、セルフケア指導などを受けることができます(18,744円(税込み)、原発性リンパ浮腫患者、男性患者、入院患者については応相談)。また子宮頸がんや子宮体がんだけでなく、乳がんの治療でリンパ浮腫の症状に悩んでいる患者さんに対しても、同様の診療を提供しています。

手術治療以外の子宮頸がん・子宮体がんの治療

手術治療以外の治療方法としては、薬物治療や放射線治療などが検討されます。薬物治療は当科を中心に行っており、抗がん剤による化学療法のほか、子宮頸がんに対する分子標的薬や子宮頸がん・子宮体がんに対する免疫チェックポイント阻害薬などが検討されます。放射線治療は放射線治療科と相談しながら治療を行います。また、状況に合わせて外科や泌尿器科などの診療科と協力して治療を進めていくこともあります。

よりよい診療を目指すための臨床研究

当院では、子宮頸がん・子宮体がんの患者さんによりよい治療方法を提供するため、さまざまな臨床研究を実施しています。現在当院が中心となって行っている主な臨床試験は、以下のとおりです。

子宮体がんに対するリンパ節郭清の比較試験

がん治療において、そのがんにかかると転移が生じやすいリンパ節のことを“領域リンパ節”といい、必要に応じて臓器だけでなくその領域リンパ節を取り除くことを“リンパ節郭清”といいます。子宮体がんの所属リンパ節には、大きく“骨盤リンパ節”と“傍大動脈リンパ節”の2つがあります。

そこでこの臨床試験ではリンパ節郭清を行う際に、骨盤リンパ節のみを切除する群と、骨盤リンパ節と傍大動脈リンパ節を併せて切除する群に分けて、その後の治療成績を比較しています。現在、全国48施設に協力していただき、データを集めているところです。

化学療法と漢方薬の併用試験

抗がん剤による化学療法を行う子宮頸がん・子宮体がんの患者さん向けに、“六君子湯(りっくんしとう)”と呼ばれる漢方薬を投与することにより、抗がん剤の副作用である吐き気や嘔吐を緩和できるかどうかの臨床試験を実施しています。こちらも全国17施設に協力していただいており、現在データを集めているところです。

BRCA遺伝子変異を示す婦人科難治がんに対するPARP阻害薬の医師主導治験

既存の薬物治療に抵抗性を示すBRCA遺伝子変異を有する婦人科がん(卵巣がんを除く)を対象として、PARP阻害薬の1つであるニラパリブの有効性を検証する医師主導治験を開始しました。道内では当院のみで参加可能です。

診療体制・医師

当院では婦人科、放射線治療グループ、病理部、放射線画像診断部など子宮がんに関わるさまざまな診療科が連携して治療を行っています。また治療後の経過観察にも力を入れており、腫瘍外来のほか、患者さんの術後の生活の質を守るための診療を積極的に取り入れています。

当科の診療はチーム医療で行われており、がん診療については日本婦人科腫瘍学会が認定した婦人科腫瘍専門医を中心とする2つのグループで協力して患者さんの診療を行っています。手術治療はもちろんのこと、薬物治療についても当科が中心となって治療を行っているため、診断から手術、薬物治療まで患者さんと信頼関係を築きながら治療が行えるところが特徴です。

受診方法  

北海道大学病院では、子宮頸(しきゅうけい)がん・子宮体がんの診療にあたり以下のような予約受付・診療を行っています。  

初診までの流れ  

当院は原則として紹介制を取っております。ほかの医療機関からの紹介状をご用意ください。紹介状がない場合、原則として受診できませんのでご注意ください。

予約について  

当院は新規外来受診の患者さんに対して、予約制を取っております。予約なしで来院いただいた場合は当日受診できない可能性があるため、ご注意ください。現在受診中の医療機関からかかりつけ医を通して予約していただくか、患者さんご自身からのお電話で予約をお取りいただきます。できる限り医療機関を通じて予約いただくことをお願いしておりますが、ご自身で予約を取る場合は以下の電話番号にてお問い合わせください。

ご自分で予約を取る場合

  • 予約受付専用電話番号……011-706-7733
  • 予約受付時間……平日9:00~16:00(翌日の予約受付は15:00まで)

セカンドオピニオン外来 

当院では、すでに子宮頸がん・子宮体がんと診断されている方を対象にセカンドオピニオン外来を実施しています。ご希望の患者さんは現在の主治医にご相談いただいたうえで、お電話でお問い合わせ・ご予約ください。1回の相談時間は45分で、主治医宛ての報告書作成15分を含めて合計1時間です。費用は30,000円(税別)です。

問い合わせ・申込先

北海道大学病院 医事課(新来予約担当)

  • 住所……〒060-8648 札幌市北区北14条西5丁目
  • 電話番号……011-706-6037
  • 受付時間……平日8:30~17:00
  • Fax……011-706-7963

診察・診断の流れ

子宮頸がん・子宮体がんの診断方法

子宮頸がんの診断方法

子宮頸がんが疑われる場合、まず子宮頸部の細胞を採取して顕微鏡で見る“細胞診”が行われることが一般的です。併せて子宮頸がんの発生に関与するヒトパピローマウイルス(HPV)への感染がないかどうか検査するために、ハイリスクHPV検査が行われることもあります。

これらの検査によって異常がみられた場合には、子宮頸部をより大きく組織として採取し、顕微鏡で見る“組織診”を行い、確定診断を行います。治療方針を決定する目的で、超音波検査やPET-CT・MRI検査などの画像検査を行います。

子宮体がんの診断方法

子宮体がんの疑いが生じたときは、まず子宮内膜の細胞を採取し、顕微鏡で見る“細胞診検査“が行われます。この検査で異常がみられた場合、今度は子宮内膜を組織として大きく採取し、顕微鏡で見る“組織診”を行い、確定診断します。治療方針を決定する目的で、子宮鏡検査のほか、超音波検査、CT・MRI検査といった画像検査を行います。

治療方針の決定方法

子宮頸がん・子宮体がんの治療方針は、日本婦人科腫瘍学会(にほんふじんかしゅようがっかい)の発行する“子宮頸癌治療ガイドライン”“子宮体がん治療ガイドライン“をもとに検討されます。それに加え当院では、子宮頸がん・子宮体がんを診る複数の診療科でカンファレンスを行い、相談しながらそれぞれの患者さんの治療方針を決定します。また手術方法を決める際も、手術のアプローチ方法(開腹なのか腹腔鏡下手術(ふくくうきょうかしゅじゅつ)なのかなど)や切除範囲についてそれぞれ検討する“治療の個別化”を行っています。

手術治療の方針を検討する際はがんの根治性だけでなく、術後の機能温存についても考慮することが大切です。たとえば子宮体がんの場合、従来は手術後の転移を予防するために全例に対して周辺のリンパ節を併せて切除する“リンパ節郭清”を行っていました。しかし、最近は転移や再発のリスクが低いと判断される症例に対しては、リンパ節郭清を行わないこともあります。当院ではリンパ節郭清をしなくてもよい条件を明確化し、実際にリンパ節郭清を省略しても転移が増えないことを検証して治療にあたっています。

入院が必要になる場合

子宮頸がん・子宮体がんの治療のうち、必ず入院が必要となるのは手術治療です。また、薬物治療でも初回は入院していただき、副作用の確認をします。2回目以降は患者さんの状態に合わせて外来で治療を行うこともあります。さらに放射線治療についても、患者さんの希望によっては入院が可能になることがあります。

患者さんのために病院が力を入れていること

当院では患者さんの肉体的・精神的苦痛を少しでも取り除くために、早期から緩和ケア科と連携し、疼痛コントロールを行っています。このように早い段階から緩和ケア科の介入をすることによって、予後がよくなることが期待されています。

また北海道という土地柄もあり、住んでいる地域が遠くて当院を継続的に受診することが難しい患者さんなどのために地域連携をしっかり行い、希望に応じて地元の医療機関で治療やフォローアップを受けられるような体制を整えています。

先生からのメッセージ

子宮頸がん・子宮体がんにおいては、診断はもちろん、治療から緩和ケアに至るまでトータルにがんを診られる医療機関を受診することが大切です。当院は大学病院として、各診療科が協力しながら一人ひとりの患者さんに合わせた治療を提供し、患者さんを見放さないという姿勢を大切にして治療を行っています。早期のがんに対しては腹腔鏡下手術などの低侵襲治療(ていしんしゅうちりょう)を積極的に取り入れ、進行したがんに対しては標準的な治療のほか、がんゲノム拠点病院として遺伝子パネル検査を導入したり、臨床試験を提案したりすることもあるため、治療について広い選択肢を持つことが可能です。「大学病院は敷居が高い」と感じる方もいるかもしれませんが、ぜひ気軽に相談していただきたいと思います。

また、がんの患者さんは治療後も常に再発の不安を抱えている方がほとんどです。そのため当院では、患者さんを長期的にフォローアップすることを大切にしています。子宮頸がんや子宮体がんでは、治療後510年経過してから再発する例もありますので、定期的に受診していただき、顔を合わせることが大切だと思っています。

最後に、子宮頸がんについては中学生、高校生の年代でHPV予防ワクチンを接種することで、かなり予防できるというデータが出ています。性交渉前にぜひ積極的に接種をお願いしたいと思います。

北海道大学病院

〒060-8648 北海道札幌市北区北十四条西5丁目 GoogleMapで見る