呼吸器外科

肺がん〜4次元の胸部CTを用いた術前診断の工夫〜

最終更新日
2021年04月19日
肺がん〜4次元の胸部CTを用いた術前診断の工夫〜

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東京都の板橋区に位置する日本大学医学部附属板橋病院は、特定機能病院として東京都 区西北部における医療の役割を担っています。また、地域がん診療連携拠点病院に指定されている病院として、地域の医療機関との連携も大切にしています。

呼吸器外科で部長を務める櫻井裕幸(さくらいひろゆき)先生は、肺がん(悪性腫瘍(あくせいしゅよう))や気胸の患者さんの病状や年齢などを踏まえたうえで、それぞれに適した検査、治療の実施に努めています。今回は、櫻井先生に日本大学医学部附属板橋病院の肺がん(胸部の腫瘍)に対する治療や検査、取り組みの工夫についてお話を伺いました。

肺がんの治療方法全般についてはこちら

治療・取り組み

日本大学医学部附属板橋病院で行われる肺がんに対する取り組み

当院では、肺がんをはじめ胸部の腫瘍の検査では、1つの工夫として4D-CTと呼ばれる4次元のCTを用いた検査を導入し、手術においては患者さんごとに適していると思われる術式を選択したりするなど、患者さんへの負担が少なくなるよう心がけています。

4次元のCTを用いた4D-CT

4D-CTの検査は、静止画として結果を確認する通常のCTの検査とは異なり、一定時間、呼吸をしながら撮影を行い、従来の3D-CTに時間軸を加えることにより、動画として検査の結果を確認することが可能です。

当院では、胸壁に接する腫瘍の手術前にこの4D-CTの検査を行うことで、腫瘍の局在・胸膜癒着や浸潤の有無を評価したうえで手術に臨むように努めています。

4D-CTの症例画像

上画像は実際の4D-CTの画像です。このときは、吸気と呼気で腫瘍が胸壁をスライドしており、腫瘍は胸壁ではなく肺由来の腫瘍と予測されました。

メリットとデメリット

  • 動画として結果を確認できる

動画で結果を確認することで、胸腔内臓器の動きなどを確認することができ、胸腔内の癒着の有無や、肺自体に発生している腫瘍であるのか、あるいは胸壁から発生している腫瘍であるのかなど、腫瘍の場所を予測することができるというメリットがあります。

しかし、通常のCTと比較して検査時間が長くなってしまうため、やや被曝量が増えてしまうことが考えられます(健康には問題ありません)。

適応

当院では、主に胸壁に接する腫瘍が胸壁由来の腫瘍であるかどうかを確認したり、肺がんが胸壁に浸潤していないかどうかを確認したりするために行います。そのため、基本的には胸壁の近くに腫瘍が発生している患者さんが適応となります。

また、手術前に肺が正常に動いているかを確認し、癒着の程度を調べたりするために用いられる場合もあります。

胸腔鏡手術

当院では肺がんに対して、標準的な手術方法とされる肺葉切除術と、がんがある一部分だけを取り除く縮小手術(肺部分切除・区域切除)を主に行っており、肺葉切除では手術後の生活に影響があると考えられる患者さんおよび早期がんの患者さんには縮小手術を選択しています。

区域切除とは肺葉をさらに区域分けしたうえで行う切除術式であり、可能な限り患者さんに適した治療の提供を目指しています。近年は、これらの手術が胸腔鏡で行われる機会が増えています。

メリットとデメリット

胸腔鏡手術のメリットとデメリット

メリットとしては、以下のような点が挙げられます。

  • 手術による(そう)を小さく抑えることができる

従来行われる開胸手術と比較して、創を小さく抑えることで退院までの期間を短縮することができたり、手術中の出血量を減らすように努めることで免疫力の低下を防ぐことができたりします。

ただし、安易な縮小手術にはリスクもあることを覚えておきましょう。

  • 再発率がやや高い

肺がんに対する縮小手術(早期がんの場合は除く)の場合にはがんが発生している部位を含む一部分しか切除を行っていないため、肺葉切除術と比較して再発率がやや高いという傾向があります。

適応

基本的に胸腔鏡手術は、ステージ1とステージ2に分類される患者さんが適応となります。ステージ3の患者さんには、患者さんの病状に合わせて放射線治療や薬物療法などを併用して行います。

また、胸腔鏡手術は肺の周辺にある血管や骨への癒着が見られる場合にも適応できないことがあるため、医師とよく相談したうえで治療に臨むことが大切です。

入院スケジュール・費用

肺がんに対する胸腔鏡手術は3割負担の場合には45万円ほどで、入院期間は7日ほどが目安です。

費用は高額療養費制度が適応された場合、患者さんの状況により負担額が変わる可能性があり、入院期間についても患者さんの病状や既往歴などによっては目安と異なる場合があります。

そのほかの肺がん治療

  • 放射線治療
  • 薬物療法
  • 胸水外来

診療体制・医師

当院には、38の診療科があり(2020年12月現在)、それぞれの診療科が連携を図りながら治療に臨んでいます。そのため、すでに何らかの病気を抱えている患者さんであっても、安心して受診していただける体制が整っています。

受診方法

日本大学医学部附属板橋病院では、受診から治療まで以下のように行われています。

初診の流れ

当院は特定機能病院に指定されているため、基本的には紹介状の持参が必要になります。紹介状の持参がない場合には、初診時選定療養費として5,500円(税込)が加算されます。

また、当院では新型コロナウイルス感染防止対策のため、当面の間は紹介状の持参がある方に限り、初診の受付を行っています。

予約の必要な診療科

当院では、精神神経科、心療内科、ペインクリニック、東洋医学科、歯科口腔外科については予約が必要です。また、神経内科、睡眠センターについても、可能な限り予約をお取りのうえ受診をお願いいたします。

外来受付時間と休診日

当院は、原則として日曜日、祝日が休診日となります。そのほか、夏季や年末年始に休診日があります。

受付時間においては、紹介状の持参がない方については午前8:30~11:00、紹介状の持参がある方については午前8:30~午後1:00となります。土曜日の受付時間は、紹介状持参の有無にかかわらず、午前11:00までです。

診察・診断の流れ

当院では、肺がんが疑われる患者さん、および肺がんと診断された患者さんに対して、以下のように治療方針を選択しています。また、治療後のフォローも積極的に行っています。

肺がんの診断方法

当院では、肺がんの可能性があるかどうかを確認するためにX線検査(レントゲン検査)やCT検査を行っています。

治療方針の決め方

検査で肺がんの疑いがあると診断された場合には、気管支内視鏡検査や針生検などを行い、患者さんや病気の状態を確認したうえで、治療方針を決定していきます。

患者さんのために病院として力を入れていること

当院には若い患者さんから高齢の患者さんまで来院されるので、可能な限り患者さんへの負担を減らしたり、併発している病気に対しても対処したりできるように努めています。その取り組みの1つとして、ほかの診療科の先生や放射線診断科、放射線治療科の先生などと定期的にカンファレンスを開き、治療方針について話し合うようにしています。

呼吸器外科の特徴

当科では以下の3つを心がけて低侵襲手術(ていしんしゅうしゅじゅつ)にあたっています。

  1. “体に優しい手術”:胸腔鏡手術を取り入れることで創を可能な限り小さくする
  2. “負担の軽い手術”:効率よく手術を行い、手術時間の短縮や出血量を抑える
  3. “精神的にも軽い手術”:手術の方針が決まった日から実際の手術を行う日までの待機時間をなるべく短くする(手術の必要な患者さんには当科初診より1~2週間以内に手術を予定)

これらを意識して患者さんと向き合うことで、体だけでなく、患者さんの精神的な負担も軽減できるように努めています。

先生からのメッセージ

手遅れにならないためにもがん検診が重要

肺がんは、症状が現れる頃にはすでにある程度進行していることもあると言われています。無症状である早期の段階で発見すれば手術治療で治すことができる場合もあるため、早期の段階で肺がんを発見できるよう定期的にがん検診などを受けることが大切です。
新型コロナウイルスが流行しているため、医療機関の受診や検診施設の受診に抵抗がある方もいらっしゃるかもしれません。しかし、医療機関や検診施設などでは、できうる限りの新型コロナウイルスへの対策を行っています。そのため、がんが手遅れにならないよう、定期的にがん検診は継続して受診してほしいと思います。

患者さんの負担を軽減できる治療もある

肺がんと診断されて手術を受けると決まったとき、恐怖心から手術を受けることに躊躇してしまう患者さんもいらっしゃいます。もちろん、少なからず体に創を入れるので、負担はゼロではないですし、怖いなと感じてしまうこともあるでしょう。しかし、胸腔鏡手術が導入されてからは創を小さく抑えることができたり、それにより入院期間が短くなったりと、従来の開胸手術と比較して患者さんへの負担が軽減されています。

これからも、患者さんが可能な限り安心して手術や治療を受けていただけるように努めていきますので、過度に恐怖心を感じて手術の機会を逃してしまうことのないよう、受けるべきタイミングで適した治療を受けてほしいと思います。

この症例を取り扱った医師・病院

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  • 櫻井 裕幸 先生

    山梨医科大学(現山梨大学)を卒業後、国立がんセンター(現国立がん研究センター)でのレジデント時代に627例の手術を経験。現在までに通算2,000例以上の手術を経験し、2016年より日本大学医学部外科学系呼吸器外科学分野 主任教授に赴任し、後進の育成に力を注ぐ。国立がんセンター時代に描いた手術記録は全国的に高く評価されており、その絵は静岡がんセンターの電子カルテや肺癌取扱い規約などにも使用され...

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日本大学医学部附属板橋病院

〒173-8610 東京都板橋区大谷口上町30-1 GoogleMapで見る