肺がん
手術の難航が想定された70歳代の高齢患者さん
日本大学医学部附属板橋病院で呼吸器外科部長を努める櫻井裕幸先生先生に、肺がんの症例について伺いました。
図:肋骨・椎体の一部合併切除を伴う右肺上葉切除術後の胸腔内の手術所見
私は手術が終わると、その日のうちに必ず行うことがあります。それは、手術記録を残し、その日の手術を振り返ることです。これまでにたくさんの患者さんの手術記録がありますが、その手術記録を読み返すとその時の手術風景が鮮明によみがえり、その手術経験の一つひとつが現在の私の手術力につながっています。外科医は手術を重ねることで、常に成長し続けなければならないと思っています。私の書いた手術記録の1つを紹介します(上図)。
その患者さんは70歳代の男性で、すでに肋骨や椎体までがんが浸潤し広がっており、肺がんとともに肋骨・椎体の一部を合併切除する必要がありました。これは呼吸器外科の手術の中でも難しい手術の1つです。手術自体も難航することが想定され、腕神経叢近傍の手術操作による上腕の神経症状が術後残ってしまう可能性もありました。手術に臨むにあたっては、術前に手術の手順を確認しながら手術のシミュレーションを繰り返し行いました。
術後の経過は順調で無事退院
その患者さんの手術は、がんの浸潤していた肋骨および椎体の一部の合併切除を伴う右肺上葉切除術で根治切除を遂行することができました。手術翌日には通常の術後管理と同様に、食事摂取や歩行を開始され、上腕に軽度のしびれ症状を認めましたが早期に退院できるまでに回復されました。患者さんが無事退院されて、大きな充実感を得たことを今でも鮮明に記憶しています。
その患者さんの肺がんは5年以上再発することなく経過し、患者さんを助けることができて本当によかったと思っています。今でも私の外来に通院され、毎年感謝の言葉とともに年賀状も欠かさずに送ってくださいます。手術が終わってからかなりの月日が経ちましたが、これからも健康でいられるようにサポートを行っていきたいと思っています。
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山梨医科大学(現山梨大学)を卒業後、国立がんセンター(現国立がん研究センター)でのレジデント時代に627例の手術を経験。現在までに通算2,000例以上の手術を経験し、2016年より日本大学医学部外科学系呼吸器外科学分野 主任教授に赴任し、後進の育成に力を注ぐ。国立がんセンター時代に描いた手術記録は全国的に高く評価されており、その絵は静岡がんセンターの電子カルテや肺癌取扱い規約などにも使用され...
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