肺がん
話し合いを重ねて手術に踏み切った、ステージIIIBの患者さん
順天堂大学医学部附属順天堂医院で、呼吸器外科教授を務める鈴木健司先生に、肺がんの症例について伺いました。
話し合いを重ねて手術に踏み切った、ステージIIIBの患者さん
この患者さんは60歳代男性で、来院された時にはステージIIIBの状態でした。すでに抗がん剤治療や放射線治療は難しい状態で手術治療をするほかなく、その旨を伝えたところ患者さんの後ろで首を横に振る奥様の姿が視界に入りました。それは、奥様が肺がんについて大変勉強されていて、ステージIIIBの肺がんに対する手術治療はリスクが高いことをご存知だったからです。
治療は、患者さんとご家族が納得されたうえで行うことが大切です。肺がんのガイドラインに従えば基本的にステージIIIBの患者さんは手術適応とはなりませんが、この患者さんを救える方法は手術治療ただ1つでした。患者さんや院内のスタッフ同士でも話し合いが行われ、最後には手術治療を受けることを決断されました。
ガイドラインを前提としつつも、それだけが全てではない
結果として、患者さんの手術は無事に終了しました。その患者さんは、手術治療が終わってから10年以上が経った今も元気に暮らしていらっしゃいます。
ガイドラインに則った治療は患者さんの治療を行ううえでの前提となるもので、1つの基準でもありますが、それだけが全てではないと思っています。もちろん、手術を安全に行うことが大前提ではありますが、そのなかでも患者さんを救うためにはどうしたらよいかを考え、患者さん一人ひとりに適した治療を提供すること。そのような大切なことを、この患者さんと接するなかで学ぶことができました。
関連の症例
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70歳代の男性
手術の進歩は日進月歩です。がんが広がっていたり合併症があったり、あるいはご年齢や体力的な面からこれまでは手術ができなかったりした方も、いつかは肺がんの手術の適応になる日が来るかもしれません。 これから紹介するのは、今までは難しかった手術に成功した例です。 肺の血管に食い込むステージIIIのがんに対する手術 この患者さんは、心臓から左の肺へ向かう動脈の付け根に広範囲に食い込む形でがんができてしまっていました。 通常このケースでは左の肺を大量に摘出する必要がありますが、肺を多く摘出してしまうと肺・呼吸機能に影響があります。また、この患者さんの場合は体力面から次に予定している治療に耐えられなくなってしまう可能性があったため、なるべく小さな範囲で切除することを方針としました。 そこでがんができた血管を切除した後にご自身の心膜を使って血管をつなぎ直す血管形成術を行い、結果として肺の左下葉(左の肺の下半分に相当する部分)を温存することができました。その後は抗がん剤治療、免疫チェックポイント阻害剤による治療も行い、手術から3年半経過した現在も、この方は再発もなく元気に生活を送られています。 当院では今後も新たな手術方法の開発に熱心に取り組み、手術の適応を広げていきたいと考えています。
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高齢でも手術を受け回復した患者さん2例
順天堂大学医学部附属順天堂医院で、呼吸器外科教授を務める鈴木(すずき)健司(けんじ)先生に、肺がんの症例について伺いました。 高齢でも手術を受け回復した患者さん2例 1人目は80歳代後半の男性で、ステージIの肺がんが発見されました。普段は舞台に立たれている方だったこともあり、年齢を考慮してもとてもお元気な方でした。しかし、この患者さんはたばこを吸う方だったために放射線治療は適応とならず、手術が行われました。 2人目は90歳代男性で、こちらもステージIでした。この方は海外にお住まいの方でしたが、年齢が要因でほかの医療機関で手術を受けることが困難であったため、当院にいらっしゃいました。 患者さんとの信頼関係が大切 お2人とも手術は無事に終了し、再発することなく元気に過ごしていらっしゃいます。海外の患者さんは手術から何年か経った今でも、現地のおいしいコーヒーを持って来てくださいます。そのように、手術を行って元気にされている患者さんが会いに来てくださるのは大変嬉しく、自身の励みにもなっています。 患者さんが高齢であるなどの場合、ガイドライン上では手術は適応とならないことがあります。しかし当院ではそこを杓子定規に判断するのではなく、患者さんに合わせて治療を行うようにしています。 ただし、そのような標準から外れた治療を行うには技術はもちろん、患者さんとの信頼関係も重要です。患者さんと根気強く信頼関係を構築し、手術中の出血が少なく短時間で終えられるという当院の技術的な強みもあり、可能になった手術だと思います。
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