肺がん

多くの併存疾患を抱えたステージIIの患者さん

最終更新日
2021年07月14日

順天堂大学医学部附属順天堂医院で、呼吸器外科教授を務める鈴木すずき健司けんじ先生に、肺がんの症例について伺いました。

多くの併存疾患を抱えた患者さん

この患者さんは70歳代後半の患者さんでステージはII、肺がんが発見された時にはすでに狭心症(きょうしんしょう)脳梗塞(のうこうそく)を既往歴として持っており、かつ透析もされている状態でした。放射線治療の選択が取られる場合もあるなかで、この患者さんの場合には放射線肺臓炎の可能性があったため手術治療となりました。

透析をされている方の場合、時間が勝負です。手術中に体の老廃物がたまり続けるため、長時間の手術には耐えられません。通常4~5時間かかる手術を1時間ほどで済ませなければならないのです。

この患者さんに対しても手術治療を行い、結果は無事に終了。いくつかの病気を抱えていたために合併症などの可能性も懸念されていましたが、手術後の経過もよく合併症なく退院されました。合併症がある症例に強いというのは、総合病院ならではの特徴だと思います。

順天堂大学医学部附属順天堂医院

〒113-8431 東京都文京区本郷3丁目1-3 GoogleMapで見る

前の症例

順天堂大学医学部附属順天堂医院 消化器外科講座の主任教授、肝・胆・膵外科の教授を務める齋浦 明夫さいうら あきお先生に、膵臓がんの症例についてお話を伺いました。 薬物療法が効いて手術可能になった膵臓がんの70歳代男性 こちらの患者さんは以前食道がんの手術を受け、新たに局所膵臓(きょくしょすいぞう)がんが発見された患者さんです。発見当初ステージIIIの進行がんと診断されたため、手術は難しいと判断され、およそ1年間抗がん剤による薬物治療が行われてました。私はちょうどその頃に当院に赴任してきたのですが、患者さんの状態を拝見すると「抗がん剤も効いているし、今なら手術ができるのではないか?」と考えました。そこで、当院ではこちらの患者さんに対して手術を行うことにしました。 動脈再建が必要な大きな手術だったが無事完了 こちらの患者さんの場合、過去に食道がんの手術を行っていたため、膵臓がんの手術を行うためには動脈を再建する必要がありました。動脈の再建は非常に難しい手術で、膵臓がんの治療に行うことは一般的ではありません。しかし、当院では無事に再建が可能となり、膵頭十二指腸切除を実施することができました。現在、手術から1年以上が経過しましたが、今のところ再発はなく、お元気に生活しています。その後も他施設からの紹介などがあり、動脈再建を伴う手術を多く実施しています。 また、近年は薬物治療の進歩により、こちらの患者さんのように手術不能と考えられた方が手術可能になることも増えてきています。

次の症例

順天堂大学医学部附属順天堂医院で、呼吸器外科教授を務める鈴木(すずき)健司(けんじ)先生に、肺がんの症例について伺いました。 高齢でも手術を受け回復した患者さん2例 1人目は80歳代後半の男性で、ステージIの肺がんが発見されました。普段は舞台に立たれている方だったこともあり、年齢を考慮してもとてもお元気な方でした。しかし、この患者さんはたばこを吸う方だったために放射線治療は適応とならず、手術が行われました。 2人目は90歳代男性で、こちらもステージIでした。この方は海外にお住まいの方でしたが、年齢が要因でほかの医療機関で手術を受けることが困難であったため、当院にいらっしゃいました。 患者さんとの信頼関係が大切 お2人とも手術は無事に終了し、再発することなく元気に過ごしていらっしゃいます。海外の患者さんは手術から何年か経った今でも、現地のおいしいコーヒーを持って来てくださいます。そのように、手術を行って元気にされている患者さんが会いに来てくださるのは大変嬉しく、自身の励みにもなっています。 患者さんが高齢であるなどの場合、ガイドライン上では手術は適応とならないことがあります。しかし当院ではそこを杓子定規に判断するのではなく、患者さんに合わせて治療を行うようにしています。 ただし、そのような標準から外れた治療を行うには技術はもちろん、患者さんとの信頼関係も重要です。患者さんと根気強く信頼関係を構築し、手術中の出血が少なく短時間で終えられるという当院の技術的な強みもあり、可能になった手術だと思います。


関連の症例

  • 70歳代の男性

    手術の進歩は日進月歩です。がんが広がっていたり合併症があったり、あるいはご年齢や体力的な面からこれまでは手術ができなかったりした方も、いつかは肺がんの手術の適応になる日が来るかもしれません。 これから紹介するのは、今までは難しかった手術に成功した例です。 肺の血管に食い込むステージIIIのがんに対する手術 この患者さんは、心臓から左の肺へ向かう動脈の付け根に広範囲に食い込む形でがんができてしまっていました。 通常このケースでは左の肺を大量に摘出する必要がありますが、肺を多く摘出してしまうと肺・呼吸機能に影響があります。また、この患者さんの場合は体力面から次に予定している治療に耐えられなくなってしまう可能性があったため、なるべく小さな範囲で切除することを方針としました。 そこでがんができた血管を切除した後にご自身の心膜を使って血管をつなぎ直す血管形成術を行い、結果として肺の左下葉(左の肺の下半分に相当する部分)を温存することができました。その後は抗がん剤治療、免疫チェックポイント阻害剤による治療も行い、手術から3年半経過した現在も、この方は再発もなく元気に生活を送られています。 当院では今後も新たな手術方法の開発に熱心に取り組み、手術の適応を広げていきたいと考えています。

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    日本大学医学部附属板橋病院で呼吸器外科部長を努める櫻井裕幸(さくらいひろゆき)先生先生に、肺がんの症例について伺いました。 図:肋骨・椎体の一部合併切除を伴う右肺上葉切除術後の胸腔内の手術所見 私は手術が終わると、その日のうちに必ず行うことがあります。それは、手術記録を残し、その日の手術を振り返ることです。これまでにたくさんの患者さんの手術記録がありますが、その手術記録を読み返すとその時の手術風景が鮮明によみがえり、その手術経験の一つひとつが現在の私の手術力につながっています。外科医は手術を重ねることで、常に成長し続けなければならないと思っています。私の書いた手術記録の1つを紹介します(上図)。 その患者さんは70歳代の男性で、すでに肋骨(ろっこつ)や椎体までがんが浸潤し広がっており、肺がんとともに肋骨・椎体の一部を合併切除する必要がありました。これは呼吸器外科の手術の中でも難しい手術の1つです。手術自体も難航することが想定され、腕神経叢近傍の手術操作による上腕の神経症状が術後残ってしまう可能性もありました。手術に臨むにあたっては、術前に手術の手順を確認しながら手術のシミュレーションを繰り返し行いました。 術後の経過は順調で無事退院 その患者さんの手術は、がんの浸潤していた肋骨および椎体の一部の合併切除を伴う右肺上葉切除術で根治切除を遂行することができました。手術翌日には通常の術後管理と同様に、食事摂取や歩行を開始され、上腕に軽度のしびれ症状を認めましたが早期に退院できるまでに回復されました。患者さんが無事退院されて、大きな充実感を得たことを今でも鮮明に記憶しています。 その患者さんの肺がんは5年以上再発することなく経過し、患者さんを助けることができて本当によかったと思っています。今でも私の外来に通院され、毎年感謝の言葉とともに年賀状も欠かさずに送ってくださいます。手術が終わってからかなりの月日が経ちましたが、これからも健康でいられるようにサポートを行っていきたいと思っています。

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