膵臓がん

薬物療法が効いて手術可能になった膵臓がんの70歳代男性

最終更新日
2021年10月27日

順天堂大学医学部附属順天堂医院 消化器外科講座の主任教授、肝・胆・膵外科の教授を務める齋浦 明夫さいうら あきお先生に、膵臓がんの症例についてお話を伺いました。

薬物療法が効いて手術可能になった膵臓がんの70歳代男性

こちらの患者さんは以前食道がんの手術を受け、新たに局所膵臓(きょくしょすいぞう)がんが発見された患者さんです。発見当初ステージIIIの進行がんと診断されたため、手術は難しいと判断され、およそ1年間抗がん剤による薬物治療が行われてました。私はちょうどその頃に当院に赴任してきたのですが、患者さんの状態を拝見すると「抗がん剤も効いているし、今なら手術ができるのではないか?」と考えました。そこで、当院ではこちらの患者さんに対して手術を行うことにしました。

動脈再建が必要な大きな手術だったが無事完了

こちらの患者さんの場合、過去に食道がんの手術を行っていたため、膵臓がんの手術を行うためには動脈を再建する必要がありました。動脈の再建は非常に難しい手術で、膵臓がんの治療に行うことは一般的ではありません。しかし、当院では無事に再建が可能となり、膵頭十二指腸切除を実施することができました。現在、手術から1年以上が経過しましたが、今のところ再発はなく、お元気に生活しています。その後も他施設からの紹介などがあり、動脈再建を伴う手術を多く実施しています。

また、近年は薬物治療の進歩により、こちらの患者さんのように手術不能と考えられた方が手術可能になることも増えてきています。

順天堂大学医学部附属順天堂医院

〒113-8431 東京都文京区本郷3丁目1-3 GoogleMapで見る


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