食道がん~高難易度の手術にも果敢に取り組む“総合力”~

最終更新日
2021年07月19日
食道がん~高難易度の手術にも果敢に取り組む“総合力”~

大阪大学医学部附属病院は大阪府吹田市に位置する大学病院で、さまざまな病気の診断・治療に従事しています。がん治療の分野では、2020年より国の地域がん診療連携拠点病院(高度型)に指定され、豊中市、吹田市などを始めとする豊能二次医療圏の拠点病院として地域のがん治療を牽引しています。

病院長の土岐祐一郎(どきゆういちろう)()先生は消化器外科を専門とされ、主に食道や胃など上部消化管のがん治療に従事されてきました。今回は土岐先生に大阪大学医学部附属病院の食道がん治療の特色や取り組みについてお話を伺いました。

*食道がんの一般的な治療方法についてはこちら

食道がんに対する大阪大学医学部附属病院の取り組み

大阪大学医学部附属病院では、食道がんの進行度合いに応じて適切な治療ができるよう、さまざまな治療方法を取りそろえています。手術治療では、胸腔鏡下手術(きょうくうきょうかしゅじゅつ)などの低侵襲手術(ていしんしゅうしゅじゅつ)に力を入れているほか、他臓器浸潤(たぞうきしんじゅん)(
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がんなどほかの医療機関で手術が難しいといわれた患者さんに対し、複数の診療科で協力して開胸手術を行うこともあります。

食道がんの胸腔鏡下手術

大阪大学医学部附属病院では、食道がんの手術全体のおよそ80%に胸腔鏡下手術を行っています。当院で実施している食道がんの主な胸腔鏡下手術は胸腔鏡下食道亜全摘術(VATS)と言い、胸を切開(開胸)せず、その代わりに右胸に5か所の穴を空けて手術を行います。この方法をとることにより、開胸手術を行った場合よりも手術による患者さんの体への負担を軽減できるといわれています。また、2017年からはロボット支援下での手術も開始しました。

さらに、当院では従来の開胸手術より小さい切開で済み筋肉も温存できる小開胸手術も実施しています。通常開胸手術といえば、20~30cmもの大きな傷が生じることが一般的ですが、当院の開胸手術は10cm程度の傷で済むことがほとんどです。小開胸手術では胸を大きく切開しない代わりに、補助的に胸腔鏡を使用します。

胸腔鏡下手術のメリット・デメリット

胸腔鏡下手術のメリットは以下のとおりです。

創が小さく済むため術後の痛みが少なく、回復が速い
開胸手術のように手術によって肺にダメージが加わることがないため、肺炎などの合併症を招きにくく、呼吸機能を温存することが期待できる

一方、以下の点には注意が必要です。

開胸手術と比較すると術中に出血した場合の緊急処置が遅れやすい

食道は人間の血管のなかでももっとも太い大動脈に隣接する臓器なので、食道がんの手術中は大動脈を傷つけて出血してしまわないよう、特に注意が必要です。当院でも出血を最小限に抑えることを心がけ、いざという時に迅速に対応できるよう対策を講じています。

胸腔鏡下手術の適応

胸腔鏡下手術(胸腔鏡下食道亜全摘術:VATS)はほかの臓器への浸潤がなく、縦隔内(じゅうかくない)のリンパ節に多くの転移がない方が対象となります。ロボット支援下手術でも適応に大きな違いはありません。前述のとおり、患者さんの体にかかる負担が小さいことから、放射線治療後の患者さんや高齢の患者さんなど、体の弱い患者さんにも行うことが可能です。

一方で、胸腔鏡下手術の適応とならない患者さんとしては、他臓器浸潤がんなどで食道だけでなくほかの部分に対しても合わせて治療が必要な方が挙げられます。このような場合には、ほかの診療科と連携して開胸手術で治療を行うことを検討します。

胸腔鏡下手術の入院期間・費用

胸腔鏡下手術後の入院期間は患者さんの状態によっても異なりますが、2~3週間程度となることが一般的です。費用は保険適用となり、高額医療費制度などを利用することで実際の支払額を抑えることもできます。

胸腔鏡下手術以外の食道がん治療

  • 内視鏡的粘膜切除
  • 化学療法
  • 免疫療法
  • 放射線治療
  • 進行がんに対するステント治療、バイパス治療

診療体制・医師

大阪大学医学部附属病院の治療には、以下のような特色があります。

総合力を生かした集学的治療

大阪大学医学部附属病院の特色として、食道がんの診断・治療に際し、消化器外科、消化器内科、先進化学療法科、放射線治療科などさまざまな診療科の医師による「総合力」が挙げられます。たとえば進行した食道がんの場合、他施設では手術できないと言われた場合でも、総合力を生かした“集学的治療”によって手術ができるようになることもあります。

また、治療方針を定める際には、毎週1回行われる合同症例検討会(キャンサーボード)でディスカッションを行っています。

他臓器浸潤がんなど難しい症例にも対応

当院では複数の診療科を持つ大学病院としての強みを活かして、ほかの医療機関では手術ができないと言われるような難しい症例にも積極的に取り組んでいます。たとえば、がんが気管にくっついていたり、縫合不全で穴が空いてしまった食道をつなぎ直して食事ができるようにしたりといったことが挙げられます。

また、進行して複数の臓器への浸潤が見られる他臓器浸潤がんの患者さんの場合には、消化器外科とそのほかの診療科が一緒に手術室に入り、同時に手術を行うこともあります。

受診方法

受診方法

当院は紹介制を取っております。受診される際はほかの医療機関からの紹介状をお持ちください。紹介状をお持ちでない方の場合、選定療養費として診療にかかる費用とは別に5,500円(税込)をお支払いいただきます。

予約方法

初診時の予約は患者ではなく紹介する医療機関に取っていただきます。個人での予約は受け付けておりませんのでご了承ください。

セカンドオピニオン外来

当院ではすでに食道がんと診断されており、ほかの医療機関で治療を受けている方を対象にセカンドオピニオンを承っております。完全予約制となっておりますので、ご希望の方は担当医と相談し、セカンドオピニオン外来予約申込書と紹介状を医療機関から当院保健医療福祉ネットワーク部までFAXでお送りください。初診予約同様、患者からの予約は承っておりませんのでご注意ください。1回の相談時間は1時間までで、費用は3万3,000円(税込)です。なお、セカンドオピニオンは自由診療となり、健康保険は適用されません。

診察・診断の流れ

食道がんの診断方法

食道がんが疑われた場合、まずは確定診断のために食道内視鏡検査や上部消化管造影検査(いわゆるバリウム検査)が行われます。食道内視鏡検査は内視鏡カメラで食道内を観察でき、早期の食道がん発見にも役立つほか、病変の組織を採取することができるため、これを顕微鏡で見る病理検査によって食道がんの確定診断ができます。

食道がんと診断された場合には、治療方針を決めるためにCT・MRI検査やPET検査、超音波検査などが行われます。これらの検査では、がんの広がりやほかの臓器への転移の状態などを調べることができ、がんの進行度合いを診断するのに役立ちます。

治療方針の決定方法

当院では患者さんの状態や希望に応じて治療方針を決定します。治療方針を決定する際は、消化器外科、消化器内科、先進化学療法科、放射線治療科などの複数の診療科の医師が集まって行う合同症例検討会で意見交換を行い、チームで治療方針を決めていきます。

入院が必要になる場合

食道がんの治療のうち入院が必要となるのは、手術治療、内視鏡治療、進行がんに対するステント治療・バイパス治療などです。薬物療法や放射線治療は外来での診療となることが一般的ですが、必要に応じて入院が必要となることもあります。

患者さんのために病院が力を入れていること

当院では食道がんなど消化器がんの患者さんに対する栄養療法を熱心に行っています。消化器がんの手術後は低栄養になりやすく、低栄養状態が続くことによって術後の回復が遅くなったり、がんが再発しやすくなったりしてしまうといわれています。

栄養療法は、シンプルながら実践が難しい治療です。当院では、これまで長きにわたって栄養に関する臨床試験を行ってきたという経緯から、そのノウハウを活かし治療にあたっています。

栄養療法においては、患者さんの治療への協力が不可欠です。しっかり食事をとって栄養を補ってもらえるように、当院では入院時から看護師などがしっかり説明を行い、食事の重要性や方法について指導しています。

先生からのメッセージ

患者さんの中には「食道がん=治らない病気」というイメージをお持ちで、なかなか治療に前向きになれない方もいらっしゃいます。しかし、近年は食道がんに対する治療が飛躍的に進歩しており、かなり進行したがんであっても根治が目指せることが増えてきています。患者さんにもぜひそのことを知っていただき、私達と一緒に前向きに治療に取り組んでいただきたいと思います。

大阪大学医学部附属病院

〒565-0871 大阪府吹田市山田丘2-15 GoogleMapで見る