インタビュー

先天異常と小児外科医(2)―先天異常のひとつひとつの頻度は低い

先天異常と小児外科医(2)―先天異常のひとつひとつの頻度は低い
岩中 督 先生

埼玉県病院事業 管理者、東京大学 前小児外科学教授、日本小児外科学会 元理事長/元監事/元会長

岩中 督 先生

この記事の最終更新は2015年07月17日です。

「先天異常」という言葉を聞いたことがある方はどれくらいいらっしゃるでしょうか。妊娠中のお母さんやこれから子どもを作ろうとしている方であれば、一度は調べたことがある言葉かもしれません。

先天異常は頻度が低いものです。しかし、そのようななかでも、若い小児外科医は先天異常に対して経験を積んでいかなくてはいけません。そのために小児外科医はどのような工夫をしているのでしょうか? 東京大学で小児外科学の教授を務めた後、現在は埼玉県立小児医療センターで病院長を務めながら、日本の小児医療と外科医療双方の向上を目指し日々尽力されている岩中督先生にお話をお聞きしました。

先天異常の頻度は、それほど高いものではありません。しかしゼロでもありません。
先天異常の中でも一番多い病気は「鎖肛(さこう)」です。鎖肛とは生まれつき肛門が閉じていることを言います。およそ3000人の赤ちゃんのうち、1人が鎖肛です。具体的には、日本では現在、年間350人程度の赤ちゃんが鎖肛として生まれてきます。
また、腸閉鎖もそれなりに多く発生します。こちらは4000人に1人程度、日本では1年間に250~300人程度です。

頻度の高い病気でこの程度なので、どれだけ稀な疾患であるかがご理解頂けたかと思います。さらに、そういう数少ない稀な病気が、全国の小児病院などの施設に散らばっています。さまざまな病院において、小児外科医は1年間でわずか4~5人程度の同じ疾患の患者さんを手術することになります。このような状況では、若い小児外科医がなかなか育っていきません。

若い小児外科医を育てるためには、ある程度の「集約」が必要になってきます。集約とは、ある1つの施設に同じ病気の子どもを集めることです。そのような施設では、若い医師が多くの経験を積むことができます。
しかし、「集約」のし過ぎも実は難しいところがあります。生まれたばかりの赤ちゃんを搬送するにはそれなりのリスクを伴うからです。過度な集約は望ましくありませんが、それでも小児外科の技術や経験を若い人に引き継いでいくだけの集約は必要です。
埼玉県立小児医療センターには年間20人程度の鎖肛の患者さんが来ており、ある程度の集約には成功しています。

私が考えるプランとしては、まず、手術の症例数が多い「ハイボリュームセンター」を20施設程度作ります。そこで若い小児外科医は指導医と共に徹底的に研鑽を積むことができます。さらにもう100施設程度、ハイボリュームセンターで研鑽を積んだ医師が支える、地域の基幹病院を作っていきます。このようにすれば、地理的な制約が出てしまうレベルの過度な集約を避けつつ、きちんと若手に研鑽を積ませることもできるのではないかと考えています。
(集約以外の工夫については「先天異常と小児外科医(3)―小児外科医を育てるために」を参照)

この集約を行っていくためには、小児外科医は様々な情報を発信する必要があります。それは、患者さんが適切な病院へ、適切にかかっていただくためです。産科医や新生児医がすぐに対応しなくていけない病気なのか、大きくなってから処置する必要がある病気なのかをきちんと判別した上で、小児外科に届けてくれるようになることが大切であり、小児外科医はそのために情報発信をしていかなくてはなりません。

 

  • 埼玉県病院事業 管理者、日本小児外科学会 元理事長/元監事/元会長、東京大学 前小児外科学教授

    日本小児外科学会 小児外科指導医・小児外科専門医日本外科学会 外科認定医・外科専門医・指導医

    岩中 督 先生

    東京大学小児外科学教授、東京大学附属病院副院長を経て埼玉県立小児医療センターで病院長を務める。全外科系学会を束ねた「ナショナルクリニカルデータベース」においては代表理事を務めており、ビッグデータを用いて小児外科だけではなく外科分野、さらには全体的に日本の医療レベルを上げるために精力的な活動をしている。現在は埼玉県病院事業管理者として病院経営に深く携わる。