赤ちゃんの出生前診断のうち、「非確定的な出生前診断法」と聞いてその内容をきちんと説明できる方は多くないかもしれません。また、そこに含まれる「NIPT」「NT」「クアトロテスト」といった方法の名前もテレビや雑誌で紹介されることはあるものの、多くの方が知らない、もしくは難しいイメージを持っていることでしょう。
こうした「非確定的な出生前診断」の存在は、出生前診断への理解を難しくしている一因と考えられます。この記事では、この「非確定的な出生前診断法」とはどのようなものなのか、その要点を説明します。
女性の社会進出に伴って、晩婚化や分娩年齢の高齢化が進んできています。全国的にみても35歳以上の分娩は全体の30%を占めており、高次施設である昭和大学病院では70%を占めています。
染色体疾患の確率は母体の年齢とともに上昇します。2000年と比較すると2014年には「ダウン症候群」の赤ちゃんが40%、「18トリソミー」「13トリソミー」という染色体疾患の赤ちゃんがそれぞれ27%・20%増加すると推計されています。
このような社会的背景をもとに、出生前診断に対しての関心は強まってきています。
染色体疾患に対しての検査は妊娠初期に行われます。そしてそれは大きく「確定的検査」「非確定的検査」に分けられます。
「確定的検査」とは、「確実に疾患がある/ない」と確定させる診断のことです。それに対して「非確定的検査」とは、以下に詳しく述べていきますが、「染色体疾患のある/ない確率を求める」という診断を行うことです。
染色体疾患があるかどうかを確定するための検査には、絨毛検査と羊水検査があります。確定的検査にはこれら2つしかありませんが、非確定検査にはいくつかの種類があります。
代表的な非確定的検査としては、以下の3つが挙げられます。詳細は次の項で詳しく説明します。
ソフトマーカーから推定する(NTの肥厚、鼻骨欠損、耳の位置異常など)
病的な形態異常から推定する(特定の心疾患、横隔膜ヘルニアなど)
参照:「出生前診断のNIPTとは。お母さんの血液中にある胎児DNAを『かき集めて増やす』検査」
これらの検査について、共通していることが2つあります。
ひとつめは、母体・赤ちゃんへの負担がとても少ないことです。これらの検査を行うことで流産や破水などの悪影響を及ぼすことはありません。一方で、確定的検査の絨毛検査や羊水検査の場合、いずれもお母さんのおなか(または膣)から針を赤ちゃんのいるおなかの中に挿入します。痛みもあり、流産のリスクも低いながら存在します。確定的検査はお母さんと赤ちゃんに負担がかかる検査なのです。
ふたつめは、繰り返しますがいずれの検査もあくまで「確率」を求める検査であるということです。最終的な診断のためには、確定的検査を行わなければいけません。
では、それぞれの検査について個別に説明します。
「ソフトマーカー」の意味を簡単に説明すると「染色体疾患を疑い得る、治療の必要がない超音波的な形の特徴」となります。
たとえばNT(Nuchal Translucency)というのは妊娠初期に胎児の首のうしろにむくみのように見えるものですが、これが厚かったとしても治療の必要はありません(自然消失します)。ただ、この部分が厚いことが染色体異常(と心疾患)の発生リスクと関連しているということが知られているため、NT自体に害はなくとも、NTの肥厚を評価するのです。
そのほかに知られているソフトマーカーとしては、鼻骨欠損/低形成・耳の位置の異常・静脈管(血管のひとつです)の血流異常などが挙げられますが、一番よく用いられているのは「NTの肥厚」です。最近はこのNTの厚さの評価に超音波所見や血液検査結果を加えることで、より具体的に染色体疾患のリスクを算定できるようになってきています。
「病的な形態異常」とは、言い換えれば「治療の必要がある形の異常」ということになります。病的な形態異常のなかには、染色体異常との関連があるとされるものがあります。例えば、十二指腸閉鎖のある赤ちゃんには30%にダウン症候群があるといわれています。ただしダウン症候群の赤ちゃん全体からみると十二指腸閉鎖がある子は5%ほどです。
以下に、同様に扱われる形態異常の例を挙げます(カッコ内は関連があるとされる染色体異常)。
「全前脳胞症」(13トリソミー)
「臍帯ヘルニア」「横隔膜ヘルニア」(18トリソミー)
「十二指腸閉鎖症」「房室中隔欠損症」(ダウン症候群)
このなかで妊娠初期には「全前脳胞症」や「臍帯ヘルニア」が染色体疾患を疑う際の参考所見として扱われることがあります。
ここでは、現在もっとも用いられている「クアトロ検査」について説明します。
クアトロ検査とは、妊娠15週から17週頃までに母体血液を採取し、「AFP(αフェトプロテイン)」「βHCG」「uE3(非結合型エストリオール)」「inhibin A」という物質の値を評価する検査のことです。
これらの検査の結果で「21トリソミー(ダウン症候群)」「18トリソミー」「開放性神経管奇形(二分脊椎など)」のリスクを評価することができます。またこの検査の特徴としては、染色体異常症ではない開放性神経管奇形についてのリスク評価ができることがあります。
NIPTについては項を改めて解説します(参照:「出生前診断のNIPTとは。お母さんの血液中にある胎児DNAを『かき集めて増やす』検査」)。
いろいろな検査について説明しました。ざっとイメージをつかんでみたのはいいものの「結局どうすればいいの?」と思われた方が多いと思います。
そして、残念ながら絶対的な答えはありません。医師の立場からも、それぞれのご家族の希望に応じて決めていかなければならないものです。
ただ、やみくもに医師に相談しても納得のいく選択をするのは難しいものです。相談をする際には、次の観点からそれぞれの検査が自分たちの希望に沿っているかどうか考えていくのがよいでしょう。
ひとりでも多くの方が主体的に知識を学んでいただき、納得のいく選択ができることを願います。
昭和大学医学部 産婦人科学講座 教授
関沢 明彦 先生の所属医療機関
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