お子さんが突然吐いてしまったら、親御さんは慌てることでしょう。子どもが病気になって吐く場合は大抵の場合胃腸炎がきっかけであり、大きな心配はいらないのですが、なかには重症な病気が原因となっていることもあります。今回は、子どもが急に嘔吐した場合にまず見るべきポイントについて、都立小児総合医療センター救命救急科医長の井上信明先生にお話をお聞きしました。
子どもが嘔吐してしまったとき、まずは至急医学的対応が必要となるものがないかを見極めることが大切です。
嘔吐は、多くの場合胃腸炎が原因となっています。わたしたちがよく遭遇するウイルス性胃腸炎であれば、基本的には心配いりません。しかし、嘔吐は原因を特定することが難しい症状のひとつであり、なかには重症な病気が原因となっていることもあります。そのため私たちは、第一に、一刻を争う状態でないかどうかを見極めるために情報を集めます。
具体的には、ケガをしていないか、薬を誤って飲んでいないか、Ⅰ型糖尿病(子どもにも起こる可能性のある糖尿病)など持病を持っていないかなどの情報を集め、また呼吸数・脈拍数などに異常はないか確認することで、重症であるか否かをある程度判断できます。こういった確認事項に問題が無く、重症な病気の可能性は低いと判断できたら、おそらく胃腸炎であろうと考えます。
つまり、吐いている=胃腸炎、と安易に考えないことが大切です。想定しうる様々な重症疾患を除外するために問診と診察を行い、重症疾患を見逃さないこと。それが私たち小児救急に従事する医師の対応方法です。
では、ご自宅ではお子さんのどのようなサインに注意すべきなのでしょうか。ポイントになるのは、「ぐったりしているか」です。お子さんがぐったりしているとき、脳へ十分な糖分や酸素が運ばれていない可能性があります。このような場合、脳が正常な機能を果たせない重篤な状態である危険性があり、注意が必要です。
嘔吐に伴う症状として、激しくお腹を痛がる、嘔吐物に血が混じっている、嘔吐物の色が濃い緑色である(胆汁性嘔吐といいます)なども危険な兆候といえるでしょう。また、顔色が悪い、意識がおかしい・眠ってばかりいるなどの状態も、重篤な状態である可能性があります。ご自宅では吐いた後のお子さんがどのような状態か、どのようなものを吐いたか、何度も吐いていないか、脱水症状(皮膚のはりがない、汗・涙・おしっこなどが出ない、舌や唇が乾いているなど。『子どもの嘔吐にはどんな対処法がある? 家庭でできる看病(ホームケア)のポイント』も参照ください。)を起こしていないかなどをよく見ておくことが大切です。また、便に血が混じる場合も注意が必要です。
またとくに生後間もない赤ちゃんの場合は、特殊な原因で嘔吐することがありますので、慎重な対応が必要となることがあります.
いずれにしても、最も頼りにできるのは親御さんの直感だと考えています。親御さんが「様子がおかしい」と思ったら、躊躇せずに病院を受診してください。
お腹いっぱいに食べたり飲んだりした直後や、食後すぐに遊び始めたときに嘔吐した場合は、食べ過ぎや物理的な腹圧の上昇が原因である場合がほとんどです。また、吐く直前になにかを咥えていたならば、反射性の嘔吐であると考えられます。
基本的には、嘔吐を繰り返すことがなく、熱もなく、顔色も悪くない、前項にあるような他の症状が見られない、吐いた後も「元気」「機嫌が良い」場合などは、慌てて病院を受診する必要はなく、ご自宅で様子をみてもよいといえるでしょう。
嘔吐をはじめた時間、最後に吐いた時間、嘔吐の回数、嘔吐物の内容は伝えていただきたいと思います。また最近の旅行歴やなまものの摂食歴、さらに周囲に吐いている方がいないか、大きな怪我をしていないか、市販薬を含む薬を間違ってたくさん飲んだ可能性がないか、などもわかる範囲で結構ですので医師に伝えてください。
<こどもの救急HP:受診した際お医者さんにつたえましょう より>
・「いつから」「何回」吐きましたか?
・吐いたものの特徴を伝えましょう。(例:酸っぱい匂いがする・ウンチの匂いに似ている・コーヒーの残りカスのよう・黄色あるいは緑色の吐物 など)
・オムツを何回替えましたか? または何回おしっこに行きましたか?
「こどもの様子がおかしい」と思ったときは、日本小児科学会が運営する「こどもの救急(ONLINEQQ)」も参考にしてみてください。
【先生方の記事が本になりました】
国立国際医療研究センター 国際医療協力局 人材開発部研修課
1996年奈良県立医科大学を卒業後、2002年に小児救急を学ぶために渡米。アメリカおよびオーストラリアで小児救急医療に携わった後、2010年1月に帰国し、都立小児総合医療センター救命救急科医長に就任。2016年より国立国際医療研究センター 国際医療協力局 人材開発部研修課。自らを「子どもの救急医」と称し、内科的分野から外傷など外科的分野まで、子どもに関するあらゆる疾病を診察する。日本で数少ない小児救急医の一人であり、日本に北米型小児ERを普及するべく活動している。その一方で、地域医療や国際保健活動にも積極的に携わる。多くの後進の小児救急医を育成しており、その教育を受けるべく全国各地から若手医師が集う。
井上 信明 先生の所属医療機関