子どもの嘔吐について、『子どもの嘔吐―子どもが突然吐いてしまったとき どんなサインに注意する?』では絶対に注意すべきサインについて、『子どもの嘔吐の原因とは? —よく嘔吐の原因となるもの―』では嘔吐の原因としてよく発生する胃腸炎についてお話ししました。今回は、胃腸炎のような緊急性の高くない病気の場合、嘔吐に対してご家庭でどのようなケアができるのかをご説明します。都立小児総合医療センター救命救急科医長の井上信明先生にご解説いただきました。
嘔吐すると水分を受け付けなくなり、長時間嘔吐していると脱水状態になる可能性があります。そのため、水分を適切に補給させることが大切です。ぐったりしていたり、尿の量が減ってきたりしたら、脱水が進行している可能性が考えられます。逆にいえば、たとえ吐いてしまった後でも喉の渇きを訴えず、元気そうであれば脱水の心配はありません。
吐いた直後は胃を休ませるため、30分~1時間はなるべく飲食物を与えないようにしましょう。これは、吐いた直後にたくさん飲食すると、また吐いてしまう可能性があるからです。
嘔吐後の容態が安定しているようならば、後述する経口補水液を少量(一回あたりスプーン小さじ1杯分あるいはペットボトルのキャップ1杯分)ずつ与えます。目安として、体重10キロのお子さんであれば500㏄のペットボトル1本分を4時間かけて飲ませるくらいのペースが適切です。
それでも吐き続ける、あるいは下痢が止まらず脱水が進行するような場合はさらに追加して水分を摂取させましょう。体重10キロ以上のお子さんであれば、嘔吐や下痢をするたびに150㏄程度飲ませてあげることで脱水の進行を防ぐことができます。
水分は、ただの水やお茶よりも塩分などの電解質を含む物のほうが望ましいと考えられます。市販のものであれば薬局やドラッグストアなどで売っている、塩分や糖分が調整された「経口補水液」がおすすめです。
経口補水液は自宅でも作ることができます。一度沸騰させた水1リットルに対し、塩3g(小さじ1/2)、砂糖40g(大さじ4と1/2)をしっかりと溶けるまで混ぜるだけで完成しますので、手軽に出来上がります。お子さんが飲みにくいと言う場合は、レモン汁などを加えると飲みやすくなります。
水分を与えても嘔吐しなくなったことを確認したら、おかゆ、柔らかいパンなどを与えます。消化に時間のかかる肉類や繊維質の多い野菜類はもう少し控えたほうが無難です。
また、乳製品を摂取することで下痢がひどくなることもありますので、乳製品を摂取してお腹の調子が悪くなるようであれば、控えるようにしましょう。その他糖分の多いジュースなども下痢を引き起こしやすいため、飲ませないほうがよいです。
※いずれの方法でも、吐いたものがのどに詰まらないように、仰向けに寝た状態で嘔吐したときは横をむかせましょう。
胃腸炎による嘔吐は、吐き始めた頃に回数が最も多くなることが一般的で、次第に下痢が始まります。頻回に吐く状態が何日も続くわけではありません。ご自身の子どもが吐いてしまうと、親としては当然不安になるでしょう。しかし、胃腸炎であれば数日もすれば自分で飲んだり食べられるようになるため、大きな心配はいりません。
とはいえ、上記に挙げた方法を行っても吐き続ける場合は点滴が必要になることもあります。そのような場合は、病院を受診したほうがよいです。
なお、周囲への感染力が強いため、お子さんの嘔吐物や排泄物を触った可能性がある場合は、家族もしっかり石けんでの手洗いをするなど感染予防対策をする必要があります。
「こどもの様子がおかしい」と思ったときは、日本小児科学会が運営する「こどもの救急(ONLINEQQ)」も参考にしてみてください。
【先生方の記事が本になりました】
国立国際医療研究センター 国際医療協力局 人材開発部研修課
1996年奈良県立医科大学を卒業後、2002年に小児救急を学ぶために渡米。アメリカおよびオーストラリアで小児救急医療に携わった後、2010年1月に帰国し、都立小児総合医療センター救命救急科医長に就任。2016年より国立国際医療研究センター 国際医療協力局 人材開発部研修課。自らを「子どもの救急医」と称し、内科的分野から外傷など外科的分野まで、子どもに関するあらゆる疾病を診察する。日本で数少ない小児救急医の一人であり、日本に北米型小児ERを普及するべく活動している。その一方で、地域医療や国際保健活動にも積極的に携わる。多くの後進の小児救急医を育成しており、その教育を受けるべく全国各地から若手医師が集う。
井上 信明 先生の所属医療機関