インタビュー

マイコプラズマ肺炎の検査と診断②-起炎菌を特定するための検査

マイコプラズマ肺炎の検査と診断②-起炎菌を特定するための検査
井上 寧 先生

国際医療福祉大学三田病院 呼吸器センター准教授/内科副部長、国際医療福祉大学 医学部准教授

井上 寧 先生

この記事の最終更新は2016年02月28日です。

前回の記事、「マイコプラズマ肺炎の検査と診断①-迅速診断法イムノカードマイコプラズマ抗体の問題点」では、マイコプラズマ肺炎の急性期を捉えるための血液検査法についてご説明しました。肺炎の疑いがあると診断された場合、同時に起炎菌を推定する(原因となる細菌は何かを見極める)ための検査を行う必要もあります。本記事では、患者さんの肺炎が本当にマイコプラズマ菌によるものなのかどうかを調べる検査法の特徴と問題点について、国際医療福祉大学塩谷病院内科部長(呼吸器)の井上寧先生にお話しいただきました。

本来、マイコプラズマ肺炎を疑ったときには、細菌を培養して病原菌を同定することが基本とされています。しかし、これには1~2週間ほどの期間がかかるため、早期に疾患を診断することはできません。また、マイコプラズマは通常の細菌用培地では発育しないため培養検査には特殊な設備・環境も必要とされるため、塩谷病院など、一般の臨床病院では行うことができません。

現在一部の高次機能施設で取り入れられている検査法は、LAMP(ランプ)法と呼ばれる遺伝子検出法です。LAMP法とは、綿棒で患者さんの咽頭から検体を採取し、マイコプラズマ・ニューモニエの特異的DNAを検出する遺伝子検査のことです。発症2日目頃からDNAを検出できるため、非常に迅速かつ正確性も高い検査法として普及しています。また、小児にとっては痛みがないといったメリットもあります。

ただし、LAMP法で用いる遺伝子検査装置は高額であり、患者さんが最初に行くことの多いクリニックなどには導入しにくいというデメリットもあります。また、血液検査などと同じく、検査後は検査会社へと検体を提出し、結果が出るまでに3~4日待たねばならないという難点もあります。

私は塩谷病院のほか、クリニックでも内科外来業務をしておりますが、そういった施設では細菌学的な検査が行えず原因菌を調べることができません。肺炎治療は最初の24時間から48時間が勝負であり、この短い時間内に原因菌を推定して治療を開始することが理想ですから、肺炎が疑われる患者さんが来られた際には、なるべく細菌学的な検査が可能な近くの救急病院に連絡・紹介しています。

起炎菌となる微生物を特定するためには、患者さんの痰を採取して、含まれている細菌を染色する「グラム染色」も有効です。細菌が着色されたか否かで、様々な市中肺炎(日常生活中に健常者が罹患する肺炎)の起炎菌をグラム陽性と陰性に分類することができます。グラム陽性菌の代表は肺炎球菌であり、マイコプラズマ肺炎の場合はグラム染色で有意な起炎菌が認められません。グラム染色自体は短時間でできますが、こちらも検査技師の感染を防ぐためには専用の設備が必要で、クリニックなどでは実際には行いにくいというデメリットがあります。

マイコプラズマ肺炎は重症化さえしなければ、入院せずに外来でも治療できる肺炎です。しかし、検査の特殊性と正確な診断の難しさが、早期発見・早期治療を妨げている要因となっているのも事実です。現段階では、臨床所見(問診や聴診など、患者さんを直接診察したときにわかる所見)でマイコプラズマ肺炎の疑いがあるときは、何日も様子見をせずに適切な施設で検査し、治療を進めるということが一番よいプロセスであるといえるでしょう。

また、マイコプラズマ肺炎は、肺内にCTでしか見えないような淡い陰影が両肺に多数みられたり、気管支壁の肥厚など、一般細菌による肺炎とは異なる特徴がみられるため、CT検査による画像所見も診断の補助として非常に役立ちます。

(※本記事は、成人のマイコプラズマ肺炎について取材・執筆したものです。小児のマイコプラズマ肺炎については関連記事「マイコプラズマとは―どんな病気を引き起こす細菌なのか」をご覧ください。)

 

マイコプラズマ肺炎の初期症状には、38度以上の高熱や乾いたしつこい咳などがあります。聴診器で聴診しても注意深く聞かないと呼吸音の異常が軽微であったり、画像も淡い陰影であったりするため、初期段階では風邪などと間違われやすく、見逃されてしまう例も多いことがマイコプラズマ肺炎の抱えるひとつの問題点です。

この記事の目次

  1. マイコプラズマ肺炎を診断・治療する前に
  2. 2回の採血による「ペア血清検査」で診断を確定できる
  3. 血清検査の2つの方法-PA法とCF法の違いと特徴
  4. 迅速診断キット・イムノカードマイコプラズマ抗体(IC検査)の問題点

マイコプラズマが主に引き起こすのはマイコプラズマ肺炎です。ご自身でも分かるマイコプラズマ肺炎の典型的な症状のひとつは、乾いたしつこい咳です。では、病院ではマイコプラズマ肺炎を診断するために、どのような検査をしていくのでしょうか。

この記事の目次

  1. マイコプラズマ肺炎の検査と診断とは
  2. マイコプラズマ肺炎の検査、診断から治療へ
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  • 国際医療福祉大学三田病院 呼吸器センター准教授/内科副部長、国際医療福祉大学 医学部准教授

    井上 寧 先生

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