「マイコプラズマ」という細菌の名前は、誰しも一度は耳にしたことがあるでしょう。マイコプラズマが引き起こす主な病気はマイコプラズマ感染症であり、その中でも多いのはマイコプラズマ肺炎です。マイコプラズマはどのような特徴を持つ菌で、どのように感染していくのでしょうか。また、肺炎以外にはどういった合併症があるのでしょうか。川崎医科大学小児科学教授の尾内一信先生にお話を伺いました。
マイコプラズマ感染症とは、マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)という病原体によって引き起こされる感染症です。マイコプラズマは生物学的には細菌に分類されますが、他の細菌と異なり細胞壁を持たないので、顕微鏡で観察すると様々な形をしています。
マイコプラズマは主に呼吸器感染症、特に肺炎の原因となります。もっとも顕著な症状は、しつこくて乾いた咳や喉の痛みです。マイコプラズマが呼吸器に侵入すると、病原体は上気道・気管・気管支・細気管支・肺胞などの粘膜を破壊します。特に気管支や細気管支の繊毛上皮にダメージを与えることが知られています。粘膜の剥離や潰瘍が起こることも珍しくなく、結果として肺炎に至るケースが多数を占めます。
一般の喉の感染、風邪などは、ライノウイルスやアデノウイルスなどにより引き起こされます。これに対し、マイコプラズマはそのような風邪の原因となるウイルスよりも下気道に感染していくため、肺炎を引き起こしやすいのです。
マイコプラズマの感染経路は、「濃厚な飛沫感染」です。この濃厚な飛沫感染について、詳しく説明していきます。
マイコプラズマに感染し肺炎になると、咳をするようになります。この咳を通して人から人へとうつっていく感染のしかたを「飛沫感染」と言います。人から人へのうつり方としては、ある「集団」ごとにうつっていくという特徴があります。
つまり、通りすがりや駅など、人が密集しているけれど接触期間が短いところではうつる可能性は低い反面、例えば家族や学校などの接触期間の長い場所、つまり集団で過ごす場所では広がりやすいということです。これが「濃厚な」という部分にあらわれています。また、ドアノブなど、患者の体液が付着する箇所に直接触れることによって感染(接触感染)することもあると考えられています。
マイコプラズマ肺炎から起こりうる合併症を以下に記します。頻度は稀ですが、全身に対して多様な合併症を起こす可能性があります。
【マイコプラズマ肺炎の合併症】
中枢神経の異常(神経炎、無菌性髄膜炎、脳炎、ギラン・バレー症候群)、皮膚病変(発疹、スティーブンス・ジョンソン症候群)、中耳炎、肝炎、膵炎、溶血性貧血、血小板減少症、心筋炎、心嚢炎、関節炎、血小板減少症、目のぶどう膜炎など。
川崎医科大学 名誉教授、川崎医療福祉大学 医療福祉学部 子ども医療福祉学科 特任教授
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