前回の記事、「マイコプラズマ肺炎の検査と診断①-迅速診断法イムノカードマイコプラズマ抗体の問題点」では、マイコプラズマ肺炎の急性期を捉えるための血液検査法についてご説明しました。肺炎の疑いがあると診断された場合、同時に起炎菌を推定する(原因となる細菌は何かを見極める)ための検査を行う必要もあります。本記事では、患者さんの肺炎が本当にマイコプラズマ菌によるものなのかどうかを調べる検査法の特徴と問題点について、国際医療福祉大学塩谷病院内科部長(呼吸器)の井上寧先生にお話しいただきました。
本来、マイコプラズマ肺炎を疑ったときには、細菌を培養して病原菌を同定することが基本とされています。しかし、これには1~2週間ほどの期間がかかるため、早期に疾患を診断することはできません。また、マイコプラズマは通常の細菌用培地では発育しないため培養検査には特殊な設備・環境も必要とされるため、塩谷病院など、一般の臨床病院では行うことができません。
現在一部の高次機能施設で取り入れられている検査法は、LAMP(ランプ)法と呼ばれる遺伝子検出法です。LAMP法とは、綿棒で患者さんの咽頭から検体を採取し、マイコプラズマ・ニューモニエの特異的DNAを検出する遺伝子検査のことです。発症2日目頃からDNAを検出できるため、非常に迅速かつ正確性も高い検査法として普及しています。また、小児にとっては痛みがないといったメリットもあります。
ただし、LAMP法で用いる遺伝子検査装置は高額であり、患者さんが最初に行くことの多いクリニックなどには導入しにくいというデメリットもあります。また、血液検査などと同じく、検査後は検査会社へと検体を提出し、結果が出るまでに3~4日待たねばならないという難点もあります。
私は塩谷病院のほか、クリニックでも内科外来業務をしておりますが、そういった施設では細菌学的な検査が行えず原因菌を調べることができません。肺炎治療は最初の24時間から48時間が勝負であり、この短い時間内に原因菌を推定して治療を開始することが理想ですから、肺炎が疑われる患者さんが来られた際には、なるべく細菌学的な検査が可能な近くの救急病院に連絡・紹介しています。
起炎菌となる微生物を特定するためには、患者さんの痰を採取して、含まれている細菌を染色する「グラム染色」も有効です。細菌が着色されたか否かで、様々な市中肺炎(日常生活中に健常者が罹患する肺炎)の起炎菌をグラム陽性と陰性に分類することができます。グラム陽性菌の代表は肺炎球菌であり、マイコプラズマ肺炎の場合はグラム染色で有意な起炎菌が認められません。グラム染色自体は短時間でできますが、こちらも検査技師の感染を防ぐためには専用の設備が必要で、クリニックなどでは実際には行いにくいというデメリットがあります。
マイコプラズマ肺炎は重症化さえしなければ、入院せずに外来でも治療できる肺炎です。しかし、検査の特殊性と正確な診断の難しさが、早期発見・早期治療を妨げている要因となっているのも事実です。現段階では、臨床所見(問診や聴診など、患者さんを直接診察したときにわかる所見)でマイコプラズマ肺炎の疑いがあるときは、何日も様子見をせずに適切な施設で検査し、治療を進めるということが一番よいプロセスであるといえるでしょう。
また、マイコプラズマ肺炎は、肺内にCTでしか見えないような淡い陰影が両肺に多数みられたり、気管支壁の肥厚など、一般細菌による肺炎とは異なる特徴がみられるため、CT検査による画像所見も診断の補助として非常に役立ちます。
(※本記事は、成人のマイコプラズマ肺炎について取材・執筆したものです。小児のマイコプラズマ肺炎については関連記事「マイコプラズマとは―どんな病気を引き起こす細菌なのか」をご覧ください。)
国際医療福祉大学三田病院 呼吸器センター准教授/内科副部長、国際医療福祉大学 医学部准教授
国際医療福祉大学三田病院 呼吸器センター准教授/内科副部長、国際医療福祉大学 医学部准教授
日本内科学会 総合内科専門医・認定内科医日本呼吸器学会 呼吸器専門医・呼吸器指導医 ICD制度協議会 インフェクションコントロールドクター
東京慈恵会医科大学を卒業後、虎の門病院内科レジデント、東京慈恵会医科大学呼吸器内科助手・病棟長、富士市立中央病院内科(呼吸器)医長、国際医療福祉大学三田病院呼吸器内科などを経て、現在は国際医療福祉大学三田病院呼吸器センターにて准教授、内科副部長を務める。びまん性肺疾患や呼吸器感染症などの呼吸器疾患全般の診療を行っている。正しい検査と丁寧な診療に重きを置き、常に適切な診断と治療を心がけている。
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